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戦の前には出会いあり7

「旦那様、あの、毎日の桃の詩、なんとかなりませんの?」


そして、月英は、孔明お気に入りの詩に難癖をつけ始める。


「なんですか、あの詩、二桃もて三士を殺す。誰か能く此の謀を為す。国相、斉の晏子あんしなり。って、ねぇ。つまり、三人集めて、労いごとで、二つの桃を差し出したって、ことでしょ?」


労うのなら、なぜ、三個差し出さないのかしら、桃ってそんなに手に入りにくいものなの?なんだか、人数分に足りないなんて、気が利かないわねぇ、男って。と、月英は、ぶつぶつ言っているが、聞く、孔明の顔つきは、変わった。


「ちょっと、お待ちになってください!黄夫人!その解釈は、違いますよ!」


声高に発する兄に、均は、まずい、これから、始まる。と、顔をひきつらせる。


一歩も引かない孔明が、現れたのだ。月英どころか、結局、こちらも、朝まで、頷いていなければならない。自分は、慣れているとはいえ、さすがに、義姉あねは、もたないだろう。逆に、癇癪をお越し、更なる混乱を招くかもしれない。


「童子!まずいことになりそうだ。何でも、良い、義姉上あねうえのお好きなものと、あと、適当に、食べるものを作るぞ!何か起こる前に、食べ物で、口を封じるのだ!」


「はい、わかりました。童子が、食べたと、逆恨みされるのも嫌です。均様、早急に、何が作りましょう!」


こうして、裏方は、慌ただしくなる。


そして、表方、孔明夫婦はといえば……。


「あのですね、正しい解釈をご説明しますと、こうなのです」


言って、孔明は、朗々と語りだす。


里に三つの墓があった。うずたかく盛り上がる、三つとも同じような形のものだ。


「これは誰の墓かね」と尋ねると、田開彊でんかいきょう古冶子こやし公孫接こうそんしょうの墓だという。


ある朝三人は、中傷を受け、二つの桃を三人で奪い合って殺されてしまった。


誰がこんなうまい策略をなしたのだろう。


斉の宰相、晏子あんしである。


「と、言う話がもとになっており、災いになりそうな者を、自らの手を汚さず、自滅させた。という、内容なのです。つまり、策の勝利ということで……」


「結局、こうゆう話なのでしょ?」


と、月英が、孔明の話を反復し始めた。


斉の国に、田開彊、古冶子、公孫接という武力にすぐれた三人がいた。


宰相の晏子はこの三人は将来国の災いになると感じ、君主の景公に三人を自滅させる策を提案した。


晏子は三人を集め「お前たちの中で我こそ功績があると思う者がうけとれ」と言って二個の桃を与えた。


そこで田開彊、公孫接の二人がバッと飛び出して桃を取るが、よく話してみると一番功績があったのは古冶子だった。


田開彊、公孫接の二人は、真っ先に手を伸ばした卑しさを恥じて自害する。


残った古冶子も自分のせいで二人を死なせてしまったと後を追う。


「そして、三人とも、いなくなった。桃ごときに目がくらんで、命を落とす。まあ、邪魔物は消せ、その考えはわかりますよ。ですが、吟じるほどの、策、なのかしら。そもそも、個数が足りないところで、裏があると、気がつかない男達に、将来、寝首をかかれるかもと、小さくなっている、君主も、君主。単に、宰相が、腹黒だったと。それを、称えちゃって、また、どなたかは、嬉しげに、唱えちゃってまぁ、ほんとに」


「あのですね!!」


「旦那様、褒美をやろう、しかも、功績があった者に、と、言うならば、桃は一個で、良いのですよ」


「ですからっ!」


「私は、解せませんわね。一国の宰相ともあろうなら、もっと、貴公子ぜんとした策を練るべきではないのですか?戦のさなか、追い詰められている訳でもあるまいし」


「黄夫人、これは、そうゆう策もある、という話であって……」


「後生に残る、それも、詩歌ならば、凛々しく、美しくあるべきです!たとえばっ!」


月英は、やおら、皿から大棗を一個摘まむと、孔明の前に置いた。


「これを、二人で分けましょう、と、なれば、旦那様、どういたします?」


うーん、と、孔明は、考え込む。


一瞬現れた静寂に、裏方では、緊張が走る。


「均様!今度は、桃と棗と、どっちがいいかって、奥様がっ!!」


「えー!それは、また。兄上が、桃が欲しいなんて、仰られたら。この季節外れに、桃なんか、どこにもないぞ!!」


「あー!奥さまのことです!桃を探してこいって、事になりますよぉー!均様!!」


困った事だと、こちらはこちらで、考え込んでいる。

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