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戦の前には出会いあり6

「とにかく、お座りなさい」


「はい」


妻に言われ、素直に卓に付く兄、孔明の姿に、均は飼い慣らされた犬を見る。


「均様ー!お食事の用意は、どうなってるのかしら?」


いきなり、自分に振られて、均は焦る。覗き見がバレていたのか、はたまた、裏方へ、声をかけているだけなのか、どぎまぎしながら、後ろを見ると、童子が、ほとんど、たいらげていた。


「うわっ!お前、なんてことを!」


「うーん、均様!今日はかくべつ美味しかったです!ほら、均様もどうぞ!」


言ってくれるが、童子の食べ残しを均が食すると、孔明夫婦の食べるものが失くなってしまう。


このところ、孔明ときたら、食が細いのか、食べるのを忘れているのかで、余ってはならぬと人数分よりも少なめに、作っていたのだが、それが、今日は裏目に出た。


「童子よ!これで、三人分は、無理だろう!」


「えー!私が食べたら駄目だったんですかぁ!」


今度は、童子が、グズグズと言い始める。


裏方の、ゴタゴタを察したのか、月英は、すべてを孔明のせいにした。


「旦那様が、桃の取り合いの歌など吟じずに、静かにお戻りになり、そして、お食事を摂ってくださらないから、余るともったいない、そう思って童子が、無理に食したのでしょう。まだ、子供、腹を壊すこともございましょうし、何よりも、そこまで、気をつかわせるとは、いかがなものでしょうかっ!」


「あ、そんな事になっているのですか」


「ええ、おそらく。だから、私達の食する物も、ないのではないでしょうか。もう、なんてこと!」


月英は、お腹ペコペコです。旦那様を待っていたからですよ。と、ごちている。


その姿に、孔明は、うーんと、思案しつつ、土産があるのです!と、例の巾着を卓に乗せた。


「なんですか?えらく、古びた巾着ですね。このようなもの、旦那様、お持ちでした?」


「あー、それは、徐庶じょしょのもの。その、中をご覧になってください」


月英は、言われた通り、巾着を手に取ると、中身を確かめた。


赤い干棗が入っている。


「あら、まあ」


「どうです!すごい、珍味ですよ!一日に、三個しか、食べられ無いのですから!」


弾ける孔明の言葉など、はなから、聞いていないのか、ふうん、と、言いつつ、月英は裏方へ声をかける。


「童子や!大棗おおなつめを、持って来てちょうだい!」


はーい、ただいま、と、童子の返事がする。


「まっ、何があったのか、さっぱりですが、旦那様、実は、我が家にも、その、珍味とやらがございますのよ?」


ええーー!と、孔明は、驚いた。


「奥様、こちらで、よろしかったですか?」


皿に盛った、大棗を童子が卓に上に置いた。


「ええ、これで、結構。お前も、つまんでいきなさいな」


はい、と、童子は喜びながら、大棗をつまむと、口へ放り込み、裏方へ下がった。


「どうですか?二個しかない桃を取り合うより、山盛りの、棗を取り合う方が健全ですよ」


言うと、月英も、大棗を頬張った。


確かに、徐庶より譲り受けた物より、前にある物の方が、大きさ見た目、共に良い。


「はあー、まさか、我が家に、この様な立派な物があるとは……」


「思ってもなかったでしょ?でも、旦那様、汁物や、茶で、食しておりますのよ?」


「えーー!私が!!いつの間に!!」


「もう少し、食べることに、気を配られてくださいな。これでは、歌の様に、二つしかない桃に、言われるまま、安易に手を出してしまい……」


チョン、と、言いながら手で首をはねる振りをする。


「へ?!」


孔明と、そして密かに、均も、月英の言葉に惑わされた。

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