均の思いとは裏腹に、表から、言い争う声が聞こえて来た。
「いかん、これは、夫婦喧嘩というやつだ!」
「あー、均様、どうしましょう!お食事の用意がっ!」
「うむ、童子よ、裏方へ下げなさい。何が起こるかわからない。念のためだ」
言われて、童子は、慌てて卓に並ぶ皿を下げ始めた。
同時に、あいたたた、と、情けない声が流れて来る。
「あらまあー!旦那様が、おかしな詩を
「えー、黄夫人、おかしなとは、なんですか、というよりも、あいててて……」
もう、早くいらっしゃいな、と、妻に耳を摘ままれ引っ張られている孔明は、まさに、月英の尻に敷かれていた。
その情けない情景に、均も、童児も、開いた口がふさがらない。
「あ、あの、私どもは、裏方におりますので……」
逃げる様に、均は童子を連れて立ち去るが、背後から、月英が、夕餉はどうなるのかと叫んでいる。
「均様、お食事を、運び直した方が……」
孔明夫婦の姿を覗き見する均に、童子が言った。
「うむ、腹が満たされれば、怒りも落ち着くのは、分かるがなあ、下手に出て行くと、これまた、刺激になってしまうだろう」
あー、そうかも。と、童子は頷く。
ハラハラした視線が送られている事などおかまいなしで、月英のご機嫌はすごぶる悪い。
「もおー、なんですか、いつもより、大きな声で、桃がどうのと、吟じられ、ご近所迷惑ですよ、まったく!」
「だからといって、耳を掴むことはないでしょう?結構、痛いんですよ?!」
あら、そうですか、と、月英は、孔明のことなど、相手にしない。
と、あー!と、孔明が、叫んだ。
「申し訳ない。黄夫人、もしかして、月のものの障りで、お気が立っておられるのですか!」
「なんですか、それは。そんなことある訳ないでしょう。昨夜、夫婦の交わりごとを行っているのに、月のものとは!」
「あ、いや、今朝から、始まったとか、色々、女人の、体は複雑ですからねぇ……」
様子を伺っていた、均は、ぶっと、吹き出した。
余りにも、明け透けというより、まさに、夫婦間の会話を耳にしてしまい、頬を赤らめつつも、同時に、身を潜め、気をもんでいるのがバカらしく思えてきた。
「童子、こちらで、食事を済ますぞ、兄上達に、合わせていたら、身が持たん」
「身が持たないか、どうかは、わかりませんが、均様!今日の、
見れば、童子は、椀に飯を盛り、さっさと食事にありついていた。
「いちいち、ご主人様方のご機嫌なんて、気にしていたら、ありつけるものにも、ありつけませんから」
モグモグ韮を頬張り、童子は、どこ吹く風で、言い放った。
「えっ?!」
均は、思う。なんと、腹のすわった者達が、我が家へやって来たものだと。そして、すっかり、借りてきた猫のごとく、大人しく妻に従っている兄の姿に、夫婦とは、いったい、