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戦の前には出会いあり2


「おい!諸葛亮!呑気に座っている場合ではないぞ!」


焦る友に、何事かと孔明は、その視線の先を見やる。


師、司馬徽しばきに見送られ、三人の男が屋敷から出て来ていた。


そこはかとなく、上品な中年の男と、その従者であろう、威風堂々とし、豊かな髭を蓄えた男、そして、赤ら顔の、どんぐり眼のどこか気短そうな男が従っている。


「いや、驚いた、まさか、あの三人に、出会えるとは!」


どの三人だと?と、言いたげな孔明を、徐庶じょしょは急かした。


「行くぞ!」


「あ、おい、ちょっと、待ってくれ」


訳もわからず、焦らされ、立ち上がった孔明は、手に持っていた巾着を落としてしまう。


「あっ!黄夫人への土産が!」


地面に、干し棗が落ちてしまい、コロコロと転がった。


「さっ、何をしておる!折角の機会逃してしまうぞ!」


徐庶は、足早に駆け寄り、師へ挨拶するごとで、三人組へも挨拶をしていた。


諸葛亮!と、呼ばれているが、孔明は、転がっている干し棗を拾う事に集中しており、


「ああ、待ってくれ。もう少しで、終わるから」


と、呑気に返事をした。


一方、徐庶は、地面に這いつくばる友に、呆れ果て、しかし、自分の連れであると、知れてしまった事に、やや、恥ずかしさを覚えるが、


「や、また、あいつは、何をやっているのか!師の客人へ、礼も尽くさぬとは!」


苦し紛れの誤魔化し事を述べた。


「……あの者は、いったい……」


主である男が、司馬徽へ、怪訝に問う。


「ほお、早速あらわれたか、ははは、やはり、これも、何かの縁」


「です!司馬徽先生!」


作り笑いを浮かべた、徐庶が、拱手しながら、礼も尽くしている。


「おや、お前も、おったのか」


「おや、とは、また、先生も、お人が悪い」


徐庶は、さらに、よそ行きの笑顔を作り出す。


「先生、その者は、先生の?」


「うん、我が門下生だ。こやつも、なかなか、なのだがなぁ」


いやぁ、そんな、それほどでも、と、徐庶が、照れ笑いしている側で、


「あれ、が、本命よ。あやつこそ、伏竜鳳雛ふくりゅうほうすうぞ」


師は真顔になり、孔明を見た。


「あー、全く、ひどいことになったなぁ」


皆の視線など露知らず、孔明は、ごちながら、一つ一つ、干し棗を拾っている。


「っと、あー、すみません、そこの方」


孔明が、拾った干し棗を巾着へ仕舞いながら、師の客人の従者へ声をかけた。


「申し訳ありませんが、拾い物が、貴方の足の下に」


ん?と、声をかけられた、気短そうな男が、足元を見る。


確かに、いつの間にか、くつで、干し棗を踏みつけていた。


「うわっ、なんじゃ、これは」


「えーと、貴重な食材で、私が、うっかり、落としてしまった物を、貴方が踏みつけてしまったようです」


沓底が汚れてしまうわと、慌てて足を上げた男に、別段かまう事なく、孔明は、グシャリと、つぶれてしまった干し棗を拾った。


「あっ!これは、先生!失礼しました。そして、これ、なのですが、口にできますでしょうか?」


やっと、自分の置かれている状況に気がついた孔明は、なぜか、師へ、潰れた干し棗を差しだした。


そんな、弟子に、司馬徽は、


「諸葛亮よ、それが、何か、わかっておるのか?」


と、尋ねた。


「はい、徐庶が言うには、干し棗というもので、ほどよい甘さのある食べ物でございます。そして、貴重な品とのこと。黄夫人、いえ、妻へ土産にしたいと思ったのですが、さて、このような事に」


「成る程、それも、よし」


「あ、ありがとうございます!」


なにやら、会話になっているような、いないような、二人の様子を、徐庶含め三人組は、ぽかんと眺めた。

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