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戦の前には女あり3

そして、一夜明け、孔明は戻って来た。それも、子供のようにかけ足で、家へ飛び込んで来た。


「ああ!遅くなりました!聞いてください!黄夫人!」


ハアハアと、息を切らせ、それでも、喋ろうとする孔明に、


「まあ、まずは、水の一杯でも、お飲みなさいませ。それでは、喋れないでしょ?」


うん、確かに、と、孔明は、裏方──、水瓶のある調理場へ向かった。


そして、孔明は、月英と均へ起こった事を語ったのだった。


「素晴らしい師に、出会えたのです。昨日は、すっかり、話し込んでしまって……。明日より、先生の所へ、通う事にしました」


「まあ、それはそれは。では、馬の用意をしなければなりませんね。毎日、かけっこでは、旦那様も、大変でしょ?」


「ああ、確かに、胸が、ドキドキ、痛い」


ふふふと、月英は、笑った。


「さて、その、胸の高鳴りは、走った、からでしょうか?」


「ん?」


孔明は、首を捻るが、直ぐに、はっとして、それは──、


「……司馬徽しばき先生に、出会え、門下生になれたからでしょうか?」


と、月英へ確かめる。


「なんと!」


均は、驚いた。


その先生とやらは、今でこそ隠士として、暮らしているが、数々の門下生を持ち、その才能を引き出す名師で、皇太子の教育係である、太子少傅たいししょうふの職についていたという噂がある人物だった。


均も、師の事は、耳にしていたが、孔明はというと、特に、誰の元に付くわけでもなく、かといって、誰かを導く訳でもなく、一人、淡々と、書物を紐解くという日々を送っていた。


それが──。


「この地の為に、仕官を思い立ちましたが、まずは、先生の門下生となって、必要な事を学ばなければ……」


孔明の告白に、一瞬、月英が、ニヤリと笑ったのを均は見逃さなかった。


もしや、義姉あねが、仕組んだ事ではあるまいか。


あぁ!そういえば!義姉の父は、襄陽じょうようの街の名士。


孔明と司馬徽を引き合わせるくらい、朝飯前。もっとも、互いに、癖がある。それも、この娘にして、あの父のこと、どうにでも手配することだろう……。


ああ、なんだか、私まで、ドキドキしますわ!などと、調子を合わせている義姉の姿に、均は、思わず吹き出したのだった。

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