目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
誰のせい?

あの時からみんな私のことを避けるようになった。

私を遊びに誘う子もいなければ、私が遊ぼうと言っても誰も誘いに乗ってはくれなくなった。

話をしようとしても逃げていく。

おかしいよ……こんなのって……。

「やっぱり……私のせいで……」

セレンちゃんが震えた声を出しながら私のことを見ていた。

「セ……セレンちゃん……。おはよう」

「おはようございます……。ここ数日……やっぱり良くないことになっていますね……」

「そんなこと……っ!…………ない……」

「いいんです……本当のことを言っても……。私のせい……ですから」

「ねぇセレンちゃん……。セレンちゃんはこういう時、どうやって仲直りしたの?」

「……できません」

「じゃあどうしたらいいの……?私はもうみんなと仲良くできないの……?ねぇセレンちゃん……」

「ごめんなさい……」

セレンちゃんはただ伏し目がちに謝るだけだった。

「なんでよ……私は……みんなが仲良く出来ればいいと思っただけなのに……!」

「それを押し付けられたら、嫌な人もいます……。嫌いな食べ物を無理やり食べさせられて嬉しいですか?」

「セレンちゃんは人間だよっ!」

「人間ですが、嫌われている人間です。あの人たちにとっては、食べ残したい食べ物と一緒……」

私の叫びも意に介さない様にセレンちゃんは淡々とそう続ける。

「おかしいよ……なんでそんなに全部受け入れているの?私は……私だったら…………あれ?私、何も出来ていない……」

「……そうです。こうなってしまった以上は、ひたすら見ないふりをするしかなかったんです……」

「1人で……ずっと……そうしてきたの?」

「はい……」

「セレンちゃん……私は、セレンちゃんと一緒にいる。別にみんなが離れたからじゃないよ!ただ……私だけは、セレンちゃんと一緒にいる」

「ありがとうございます……」

「2人なら、きっと負けないよね!」

「……はいっ!」

セレンちゃんはぎこちなかったがやっと少し笑った。



それからは私はセレンちゃんと過ごした。相変わらずみんなは私たちをいないことにした。心が折れそうだった。でも、セレンちゃんがいてくれたから私はなんとかここにいられた。

「ねぇセレンちゃん。どうしてセレンちゃんは私にも敬語で話すの?」

ふとした疑問を投げかけてみた。

「……こうして話していると、間違いないんです。みんな……ちょっとした言葉のすれ違いに腹を立てる。私は口下手ですから……それで何度も人を怒らせました。だったら、はじめから相手より下になればいいんです……。敬語で話すと、簡単に相手の下に行くことができます。それが私には、何よりも安心できるんです……」

「セレンちゃん……。私には、普通に話していいんだよ?私は、そんなこと気にしない。絶対嫌いになったりしない。ね、私たちは対等でしょう?だったらそんなのいらないじゃない」

「……そう言ってもらえるのはとても嬉しいです。……でも、私はもう、変えられないんです……」

「そっか……」

「はい……」

「じゃあ、私もあなたに敬語を使います」

「な、なんでですか……っ!?」

「あなたが敬語を使うことで私より下になるというのなら、私が敬語を使えばあなたと対等になれるということです!そうですよね?」

「う……そうです……」

「ふふ……じゃあそうします」

私はこの時から、敬語で話をするようになった。それはセレンちゃん以外の人に対しても……。いつしか私はより下出になることに必死になっていた。



「ねぇ、何あの話し方?」

普段は話しかけても来ないクラスメイトが、私たちの話を聞いたようで声をかけてきた。

「あ……はい……その……セレンちゃんと一緒なんです……」

「は?どういう意味?」

「お互いに敬語で喋れば……セレンちゃんと対等になれると思ったんです」

「ぷっ……ははは……なぁんだ、だからか」

「な……なにがですか?」

「あんた、セレンと同じくらいダサくなったってこと」

「え……」

「はぁ……話しかけた時間も無駄だったわ」

「あ……」

そう言うとその子はくるりと背を向けて私の許を離れた。

「私……もしかして……セレンちゃんといるから……ダメになってるんですか……?」

「……ようやく、気づいたんですか?」

「セレンちゃん!?」

いつの間にか呟いていた言葉を、セレンちゃんに聞かれていた。

「私に構ったからみんなに無視されて、私に合わせようとしたから、みんなより下になってしまった……」

「でも……それでも……」

「なんでそこまで私に構うんですか?正直……理解できないんです……。話だって合わないし、他に接点だってないし……」

「友だち……だからです」

「友だちじゃなかったじゃないですか……!それとも……私が話しかけたのがいけなかったんですか?……そうだ。あの時、私が話しかけたから……」

セレンちゃんは頭を抑えながら呻いた。

「違います!」

「やっぱり……私が悪かったんですね……」

「話を聞いてください……」

「……私、ひとつだけいい方法を思いつきました」

急にぱっと顔を上げるとセレンちゃんはそう言った。

「え……?」

「きっとあなたも元に戻れて、みんな幸せになれる方法……」

「ちょっと……」

「私、帰りますね……」

「セレンちゃんっ!話は終わってませんっ!」

「いいえ、もう終わりです……。あなたと友だちになれたこと、私、とっても誇らしいです」

「何……言ってるんですか?」

「バイバイ、ムーニィちゃん」

「セレンちゃんっ!」

そのままセレンちゃんは走って教室を出ていってしまった。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?