あの時からみんな私のことを避けるようになった。
私を遊びに誘う子もいなければ、私が遊ぼうと言っても誰も誘いに乗ってはくれなくなった。
話をしようとしても逃げていく。
おかしいよ……こんなのって……。
「やっぱり……私のせいで……」
セレンちゃんが震えた声を出しながら私のことを見ていた。
「セ……セレンちゃん……。おはよう」
「おはようございます……。ここ数日……やっぱり良くないことになっていますね……」
「そんなこと……っ!…………ない……」
「いいんです……本当のことを言っても……。私のせい……ですから」
「ねぇセレンちゃん……。セレンちゃんはこういう時、どうやって仲直りしたの?」
「……できません」
「じゃあどうしたらいいの……?私はもうみんなと仲良くできないの……?ねぇセレンちゃん……」
「ごめんなさい……」
セレンちゃんはただ伏し目がちに謝るだけだった。
「なんでよ……私は……みんなが仲良く出来ればいいと思っただけなのに……!」
「それを押し付けられたら、嫌な人もいます……。嫌いな食べ物を無理やり食べさせられて嬉しいですか?」
「セレンちゃんは人間だよっ!」
「人間ですが、嫌われている人間です。あの人たちにとっては、食べ残したい食べ物と一緒……」
私の叫びも意に介さない様にセレンちゃんは淡々とそう続ける。
「おかしいよ……なんでそんなに全部受け入れているの?私は……私だったら…………あれ?私、何も出来ていない……」
「……そうです。こうなってしまった以上は、ひたすら見ないふりをするしかなかったんです……」
「1人で……ずっと……そうしてきたの?」
「はい……」
「セレンちゃん……私は、セレンちゃんと一緒にいる。別にみんなが離れたからじゃないよ!ただ……私だけは、セレンちゃんと一緒にいる」
「ありがとうございます……」
「2人なら、きっと負けないよね!」
「……はいっ!」
セレンちゃんはぎこちなかったがやっと少し笑った。
それからは私はセレンちゃんと過ごした。相変わらずみんなは私たちをいないことにした。心が折れそうだった。でも、セレンちゃんがいてくれたから私はなんとかここにいられた。
「ねぇセレンちゃん。どうしてセレンちゃんは私にも敬語で話すの?」
ふとした疑問を投げかけてみた。
「……こうして話していると、間違いないんです。みんな……ちょっとした言葉のすれ違いに腹を立てる。私は口下手ですから……それで何度も人を怒らせました。だったら、はじめから相手より下になればいいんです……。敬語で話すと、簡単に相手の下に行くことができます。それが私には、何よりも安心できるんです……」
「セレンちゃん……。私には、普通に話していいんだよ?私は、そんなこと気にしない。絶対嫌いになったりしない。ね、私たちは対等でしょう?だったらそんなのいらないじゃない」
「……そう言ってもらえるのはとても嬉しいです。……でも、私はもう、変えられないんです……」
「そっか……」
「はい……」
「じゃあ、私もあなたに敬語を使います」
「な、なんでですか……っ!?」
「あなたが敬語を使うことで私より下になるというのなら、私が敬語を使えばあなたと対等になれるということです!そうですよね?」
「う……そうです……」
「ふふ……じゃあそうします」
私はこの時から、敬語で話をするようになった。それはセレンちゃん以外の人に対しても……。いつしか私はより下出になることに必死になっていた。
「ねぇ、何あの話し方?」
普段は話しかけても来ないクラスメイトが、私たちの話を聞いたようで声をかけてきた。
「あ……はい……その……セレンちゃんと一緒なんです……」
「は?どういう意味?」
「お互いに敬語で喋れば……セレンちゃんと対等になれると思ったんです」
「ぷっ……ははは……なぁんだ、だからか」
「な……なにがですか?」
「あんた、セレンと同じくらいダサくなったってこと」
「え……」
「はぁ……話しかけた時間も無駄だったわ」
「あ……」
そう言うとその子はくるりと背を向けて私の許を離れた。
「私……もしかして……セレンちゃんといるから……ダメになってるんですか……?」
「……ようやく、気づいたんですか?」
「セレンちゃん!?」
いつの間にか呟いていた言葉を、セレンちゃんに聞かれていた。
「私に構ったからみんなに無視されて、私に合わせようとしたから、みんなより下になってしまった……」
「でも……それでも……」
「なんでそこまで私に構うんですか?正直……理解できないんです……。話だって合わないし、他に接点だってないし……」
「友だち……だからです」
「友だちじゃなかったじゃないですか……!それとも……私が話しかけたのがいけなかったんですか?……そうだ。あの時、私が話しかけたから……」
セレンちゃんは頭を抑えながら呻いた。
「違います!」
「やっぱり……私が悪かったんですね……」
「話を聞いてください……」
「……私、ひとつだけいい方法を思いつきました」
急にぱっと顔を上げるとセレンちゃんはそう言った。
「え……?」
「きっとあなたも元に戻れて、みんな幸せになれる方法……」
「ちょっと……」
「私、帰りますね……」
「セレンちゃんっ!話は終わってませんっ!」
「いいえ、もう終わりです……。あなたと友だちになれたこと、私、とっても誇らしいです」
「何……言ってるんですか?」
「バイバイ、ムーニィちゃん」
「セレンちゃんっ!」
そのままセレンちゃんは走って教室を出ていってしまった。