その日は思ったより早くやってきた。私たちの初めての舞台!お昼休みの人で溢れた講堂で私たちは教壇を動かしていた。
「んしょ、んしょ」
「これを動かしたら……次はあそこにアレを……」
「アレ……ですね!」
「いけ!シィド隊員!」
「らじゃ!」
「……テンション高いわね」
私たちがはしゃぎながら小芝居していると冷淡な声で優乃が言う。
「当たり前だよ!もうドキドキしていてもたってもいられないよ!」
「ほんとだよね!僕なんて舞台に出るわけじゃないのに!」
「私は……あれ、私もかも……」
胸に手を当てた優乃は意外そうな顔をして肩を上下させている。
「気づいてなかったの?」
「……っていうか、内容の確認で考えられなかった」
「えらいね!しっかり確認しよう!」
「あら、あなたたち、教壇を動かして何をしているのかしら?」
そんな中、聞き覚えのある声がかけられる。
「げ……」
「ローザ……」
嫌味お嬢様の登場だ。
「こんな場所でお弁当でも広げるつもり?」
「ううん。違うよ」
「じゃあ何してるんですの?」
「……すぐにわかるわ」
「ふぅん。じゃあ待ってようかしら」
ローザちゃんはカバンを置いて居座ろうとした。
「ローザちゃん!」
「なんですの?」
「邪魔をしたら……許さないよ?」
「はっ……?」
「それでもいいならここにいていいよ」
「……な、なんのことかわかりませんわ。失礼します」
私が脅しをかけるとローザちゃんは足許のカバンを持ち直しそそくさと去っていった。
「今の緑子……怖かった」
「えへへ、そう?」
「褒めてないと思うよ」
「だってここにきていちゃもんつけられたらたまんないよ!」
「それはたしかに。じゃあささっと準備しちゃおっか!」
「うん!」
ちょっとしたしかけを施してようやく準備は完了した。
「よし、じゃあこれでみんなに呼びかけてみようか」
「う~!いよいよか!」
私は用意しておいた目覚まし時計をブザー代わりに使用した。
ジリリリリリ!
「な、なんだなんだ?」
周囲が騒ぎ声に包まれる。その声を聞きながら私とシィドくんは猛ダッシュで講堂の遮光カーテンを閉めに行き電気を消した。
「うわっ!停電!?」
「いやっいやぁっ!太陽はどこっ!?」
「誰か!電気!」
ぱっと講堂の先頭の電気がつく。
「あっ、あそこだけ明るい!」
「誰かいるぞ」
「おい!ありゃ魔女じゃないか?」
「なにやってんだ!」
さらに騒ぎ声は大きくなった。
「静まれぇぇえ!」
しかしその大きな声を押し返すように優乃が叫び声を上げた。講堂は静まり返る。……練習の成果がでてるよ……うん……。
「……そう、私は魔女。暗い闇夜を引き連れて……不思議な魔法を見せに来たのよ」
「ま、魔女だってー!?」
どこからともなく舞台に現れた女の子が大袈裟に驚いてみせる。……そう、私だ。
「そうよ。私は魔法を使えるの」
「そんなの信じられないよ!みせてよ!」
少女は魔女にいちゃもんをつける。
「みたいの?どうなっても知らないわよ?」
それを意に介さず魔女は不敵な笑みを浮かべた。
「それでもみたい!」
「じゃあ……」
優乃がマントを翻すと1本の両手杖を取りだした!
「見せてあげようかしら」
「おおー!」
意外なことにヤジが飛んでくることもなく皆一点だけが照らされた講堂内の奇妙なやりとりに見入っているようだった。ついに見せ場の発火が起きるよ!
「万物の垣根を越え、現れし夢幻の理よ。我が示す先にその力を分け与えたまえ!」
そう言って優乃は両手杖を振った!
シュボッ!
豪快な音を立てて緑色の大きな火柱が立った!
「うわあ!なんだあれ!」
「火だ!火事だ!あ、でも緑だ!」
「魔法?あれが魔法なのか!」
皆が口々に驚きの声を上げる。
「うわー!すごーい!やっぱり本物の魔法使いなんだ!」
少女は感嘆の声を上げる。
「いいえ、あなたにも魔法は使えるのよ」
「な、なんだってー!」
「そう、魔法研究部なら、ね」
優乃がバッチリと片手を出したポーズを決める。
「きいた?みんなー!魔法研究部ならこんな魔法を使えるんだって!」
「待ってるわ……魔力に魅せられし者の来訪を……」
そう言うと優乃は闇に消えていった。
そして私も猛ダッシュでカーテンを開けに行った。
「おい、なんだ今の?」
「魔女が新しく作ったっていう部の宣伝なんじゃん?」
「いやそうだけど……あの炎!」
「てかいつのまにか消えて無くなってる……」
「魔法だ……魔法なんだ……」
「そんなわけあるか!魔法なんてあるわけ……」
「私も……魔法が使えるようになるの……?」
「何言ってんだよ。もしかして……」
「まっ、まさか!私が魔法研究部に入るとでも思ってる?」
「そんな訳ないよな……」
「当たり前だよ!まったくぅ!」
教室にはそんな感じの会話が溢れていた。バカにするようなものから、どこか心動かされているようなもの。予想通り。大樹信仰でない者は興味を持った者も多いはずだ。これが良い影響を与えれば新入部員は必ず来る……はず……!
シィドくんとともに講堂の外まではけた優乃の許に向かった。
「おっつかれー!優乃良かったよ!」
「あんたは……ちょっと棒すぎかしら」
いきなり優乃にダメ出しされる。
「う……初めてだから嘘でも褒めてよぉ」
「甘えちゃダメよ」
「いやいや!2人ともよかったよ!うん!」
「シィドくんもありがとう。これできっと新入部員くるよ!」
「ま、気長に待ちましょう……」
「すぐ来る!今日来る!」
「それはどうかな……」
「まぁ楽しかったし……来ても来なくても満足だわ」
「よかった!」
「じゃあ着替えてくるから。……また後で」
「あ、うん!」
私たちは講堂に戻ることにした。
「ふぅん、こういうことでしたか」
講堂に戻る途中の廊下でローザちゃんが壁に背を預けて待っていた。
「あ、ローザちゃん」
「驚きましたわ。あんな大きな炎。しかも綺麗な緑色なんですもの」
「あ、ありがと~」
「やっぱり魔法なんですの?」
「うん、そうだよ。魔法」
「なんか適当な返しですわね!」
馴れ馴れしく感心した様子で質問をしてくるローザちゃんに対して、私はまともに取り合う気もなかった。そしてその態度はちゃんと彼女にも伝わっていたらしい。
「ん~さっきからなんだけど……前言ったこと、覚えてない?」
「……覚えてますわよ」
「じゃあ……… わかるでしょ?」
「………」
ローザちゃんは口を噤む。
「はぁ……またこうなのね」
「……話くらい……きいでよ……」
俯く彼女が上げた声は震えていた。
「ちょっ!泣いてるの!?」
驚いた。人に嫌味を言うくらいなのに自分がちょっとされたくらいで簡単に泣くかなフツー?
「……ごめんなさい。でも……」
「あなたねぇ……」
いよいよ呆れる。何がしたいのか全くわからない。
「わたぐし……優乃ちゃんが嫌いなわけじゃないのよ……」
「え?」
「むしろ私たちは……親友でした」
彼女が零した言葉は、常日頃見せる態度とは全く異なっていた。
「そんなこと優乃は言ってなかったよ?」
「そうです……優乃ちゃんは……そのことを忘れてしまっているから……」
「優乃が?」
「そうですわ……。私は昔、優乃ちゃんと同じ学校に通っていて……そこで私たちは仲良くなったのです。しかしある事件をきっかけに……優乃ちゃんは変わってしまったのです……」
「……ローザちゃん。いい加減にしなよ」
「え……」
「自分の都合のいいように私を情報操作しようっていうんでしょ」
「そんなことないですわ!本当なんです!」
「……もういいよ。ローザちゃん、ちょっとおかしいよ……」
「くっ……」
「……さよなら」
「……」
ローザちゃんは何も言い返してはこなかった。ただやっぱり本気で泣いてたと思う。……私は気にしちゃだめなんだ。優乃の味方なんだから、ローザちゃんは敵なんだ……。
「お待たせ」
廊下で時間を潰していると優乃が戻ってきた。
「おかえりー」
「……何かあった?」
「え、何で?」
「……何となく」
「うん……実は……ローザちゃんがね」
「また?」
「でも最近はなんか……」
「教えて」
食い気味に優乃がきく。心配してくれてるのかな……?
「……昔、優乃が親友だったなんて言うの」
「……そうなの」
「驚かないの?」
「……私も言われたことがあるわ」
「やっぱりそうなんだ」
「全く身に覚えはないんだけどね」
「うーん。じゃあやっぱりローザちゃんはおかしいのかな……」
「……おかしいのは、私だったりして……」
どこか遠くを見るような顔をして優乃はそう呟く。
「そんなことないよ!優乃は優しいし良い子だもん!それに優乃がおかしかったとしても私は優乃の味方だよ!」
「……ありがと」
「ううん!」
「それで……あなたはこれからどうするの?」
「ん?」
「ローザのこと」
「……ちょっと辛く当たりすぎちゃったかな……」
「まぁ……ほどほどに……」
「でも確かに私もあんな態度取られたら……悲しいかも……」
「そう思うならそうかもしれないわね」
「私……ちゃんと話してみるよ。誤解してるかもしれない」
「……うん」
私はローザちゃんの許へ向かった。
ローザちゃんは講堂で机に伏せていた。
「ローザちゃん」
「えっ?」
「私、緑子。……さっきはごめんね」
私の名前を聞いてローザちゃんは顔を上げる。その目は赤く湿っていた。
「……いえ、私が悪いんです。私は、優乃ちゃんに嫌われていなければならないから、あなたにもあぁいった態度を取らなければならなかったのです……」
「それなんだけど、そこがわかればきっと私はローザちゃんと仲良くなれるんだよ」
「先程も言いましたが、私は優乃ちゃんとは親しい間柄だったのです」
「……それ、優乃も言われたって言ってたよ。でもそんな覚えないって」
「信じて貰えなくて当然ですわ。私以外の皆が優乃ちゃんがいたことを忘れてしまっているのです」
「逆に言えばさ、それって……」
「何度も言われました。私がおかしいんだって。それを言われる度に私は、何度も自分を疑いました。それでも、優乃ちゃんが言った言葉を私は絶対に裏切りません」
「優乃が言った言葉?」
「……私を信じないで。彼女は確かにそう言いました」
「私を……信じないで?優乃を信じないでってことは……」
「そう。変わってしまった優乃ちゃんを信じてはいけないということ」
「ちょっと……詳しく教えてくれない?」
「少し暗い話になってしまうのですが……」
そう言うとローザちゃんは少し呼吸を整えてからゆっくりと語り出した。
「私がまだ幼かった時の話なんですが、貴族の家系では幼い頃より他家との交流が行われるのです。私はその時周りの子どもたちと少し揉めてしまったのです。その集まりの中で孤立してしまうと後々外交に影響が出てしまうのですが幼い私はそんなこと知る由もありません。ですから私は知らぬうちに窮地に立たされていたのです。そんな時、場を収め私を助けてくれた子がいました。そう、それが私と優乃ちゃんの出会いです。そんなにも昔から私たちはともに過ごしてきたのです」
「そんなに前から?」
「えぇ。私はそれから優乃ちゃんと親友になりました」
「ふぅん……」
「そんなある日のことでした。私はいつも通り優乃ちゃんに話しかけたのですが何やら体調が悪そうなのです。その次の日から……優乃ちゃんは学校に来なくなりました。心配した私が優乃ちゃんの家に行くと、何やら揉めている声が聞こえてきたので優乃ちゃんの部屋にかけつけたのです。すると、優乃ちゃんは私は私でなくなる、私を信じないで、私を許さないで、と、そう言ったのです……。そして優乃ちゃんと別れ家に帰った時、私の家は何者かの襲撃を受け、私の父、グラジオが殺されたのです……」
「そんな……それじゃあ……」
「いや……この事件の犯人は優乃ちゃんの兄の紫雷様という方が首謀者ということで裁きを受けました。優乃ちゃんは剪定の影響で無罪となるのですが……ここでひとつおかしなことが起きたのです」
「おかしなこと?」
「はい……私の学校から優乃ちゃんがいないことになっていたのです」
「転校したってこと?」
「いえ、そういうことではないのです。誰も彼女のことを憶えていなかったのです。ただ、どこかにいる網井 優乃という者が剪定者になったということを学校で伝えられ、優乃ちゃんは皆に姿も知られず嫌われることになったのです」
「そんなことできるはずないでしょ……」
あまりに現実離れしている。ばかばかしくすらある。
「ある人は超自然的な力が関与していると言っていました。私だって信じられません。でもこれが全てなのです」
だがそれを語る彼女の目は本気だった。
「なるほど……でもだからと言って優乃に辛く当たる必要はないんじゃない?」
「私もそう思ったのですが……優乃ちゃん自身が記憶を失くして混乱していたらしく、周りの人達は優乃ちゃんを傷つけたらしいのです。そのせいですっかり人間不信になってしまっていて……むしろライバルみたいに敵対しつつも気をかけている感じで見守ることが出来ればと思い……」
「あー……ローザちゃんも結構不器用なんだ……」
何だか妙に腑に落ちた感じがした。
「そ……そうです……。それと……もうひとつ謝りたいこともありますわ……」
「謝りたいこと?」
「私、あなたに嫉妬してしまったんです。優乃ちゃんの心をいとも容易く掴んだあなたに……。ごめんなさい。確かにあなたには辛く当たったかもしれません……」
少し恥ずかしそうに涙ぐむその顔を見ると、疑っていた私の方が悪いような気がしてきた。何よりこの一生懸命に強がる可憐な女の子には嘘なんてつけないような気がしてならなかった。
「……んー!ローザちゃんはおかしくなんてなさそうだね!わかった!信じるよ!」
「本当ですか!?」
「確かに信じられないようなことだけど……でも明らかに支離滅裂って訳でもないしね」
「ありがとうございます……。緑子さんがわかってくだされば私も少しは気が楽になりますわ……」
「……ねぇ、いっそのこと魔法研究部に入っちゃえば?」
「え……」
「だってその方がはやいよ!それで優乃にも説明しよ!そしたらまた仲良くなれるよ!」
「……ごめんなさい。その誘いは、本当に嬉しいことですけれど……私はそこまで近づいてしまったら、何か重大なことを見落とす気がしてならないのです……。何より今の優乃ちゃんを信じてはいけないのですから、この立場が1番都合が良いのです」
「……そっか。わかった!私も優乃には黙っておくからさ!ローザちゃんもあんまり思いつめないでね!」
「ありがとうございます……!」
そう言うとまたローザちゃんは少し涙ぐんだような声になったけれど、すぐに顔を背けてしまった。
「それでは……ごきげんよう」
「あ、じゃあね!」
そのまま席を立つと講堂から出ていってしまった。
「優乃が不可思議な力で変わってしまった……か。というか、記憶を失くした?それも周りの人間ごと?憶えてるのはローザちゃんだけ?本人でさえ憶えてないのに?うぅん……ますますわからない……。でも私が知っているのは今の優乃だけだし……」
「どうかした?」
私がぶつくさと独り言を言っていると後ろから優乃が声をかけてきた。
「わっ!優乃!戻ってたの?」
「今ね……。何か悩み事?」
「ううん!なんでもない!」
「そう……」
「新入部員、来るかなぁ~って」
「気にしても仕方ないって。とりあえず放課後に期待しましょ」
「うん。そうだね」
優乃には相談できないのが少しじれったい。……ローザちゃんはこんなふうに味方も誰もいないのに悩んでたのかなぁ……。
そして放課後。
「はい、みなさん。お疲れ様でした。素晴らしかったですわよ」
ルミナ先生が手を叩いて私たちを褒め讃えた。
「あれ?先生、見てた?」
「見てたわよぉ、この水晶玉で」
「映らないでしょ……」
「ルミナ先生こっそり講堂にいたんだよ。僕見つけちゃった」
「あら、バレてた?うふふ」
「ねぇねぇ!先生!新入部員、来るかなぁ!?」
「そうねぇ。まだ部活決めてない子も多いし劇のインパクトも良かったし、来るかもねぇ」
「わーい!」
「かも、よ」
「ルミナ先生が言うんだから間違いないよ!」
「……私がいるんだから……来るわけないじゃない……」
「こらー!!」
「わっ……」
「そういうことは言わないの!」
「……ごめん」
「優乃、すっっ……ごく!かっこよかったんだよ!」
「……」
「みんな魔法使いになりたくなったにちがいないんだよ!」
「……うん、私も、信じてみる」
「おー!優乃!」
「よし!じゃあ更に上達するために早速特訓しようよ!」
「そうしよう!」
私たちはより一層張り切って特訓に励んだ。
幾らか時間が経った頃、唐突にガラリと部室の扉が開かれた。
「あっ……あのぉ……。そのぉ……」
開け放たれた扉とは裏腹にちょっこりとだけメガネの女の子が顔を覗かせていた。と、思ったらすぐにその顔も引っ込んでしまった。
「……ん?」
「なになに?扉が勝手に開いた?」
「いや……今誰か……」
「緑子……見てきて……」
「わ、わかった……」
私は恐る恐る扉に近づき廊下を覗き込んだ。
ごつんっ!
「ぅあいたぁっ!」
「うひゃあっ!」
唐突に現れた女の子にぶつかった私がその場で尻もちをつくと、私にぶつかったその子も同じように尻もちをついた。
「あ……頭が……割れる……」
「ごご……ごめんなさいぃ……。うぅ……いたた……」
「なに……?あなた。」
「あ……あぁぁあ……!ま、魔法使いさん……ですよね!」
「……そう、だけど」
「か、かか感激ですぅぅ!私、あの魔法に、し、痺れちゃって!わ、私も魔法が使いたいって!そう思って!」
「てて……ね!優乃!もしかしてこの子……!」
「新入……部員……!」
「だね!」
「え、え……もうそんなふうに言ってくださるんですかぁ……?う、嬉しいですぅ……」
「まぁまぁここに座って!ね!」
「あ、ありがとうございますぅ……」
ひとまず尻もちをつかせたままにしておくわけにはいかないので椅子に座らせる。
「ねね、名前は?名前!自己紹介しよ!」
「あ……あぅ……わ、わた……私は……ムーニィ・メリアガルデといいます……。よっ……よろしくお願いします!」
「ムーニィ……ムーちゃんか!よろしくね!ムーちゃん!」
「む……むむむムーちゃん!?はわ……はわわわわ!」
「あ、嫌だった?」
「う……嬉しいですぅ~!」
「あはは。ムーちゃん面白~い」
「嬉しすぎるので……もう私、ムーちゃんになります……」
「え?」
「ムーちゃん頑張るので!これから……よろしくお願いします!」
そう言って彼女は胸のあたりで腕をぶんぶんと振る。
「……ぷっ!あはははは!ムーちゃん面白い!ね、ね!みんな!楽しい子が入ってきてくれてよかったね!」
「くす……そうね」
「うんうん!僕もそう思う!」
「えっと……みなさんの自己紹介を……お願いしてもよろしいですか……?」
「あぁあ!そうだった!ごめんね!」
「じゃあ僕から。僕はシィド・テイルストン。主に脚本を担当するよ」
「え……」
「私は岩清水 緑子!小道具とか演技を担当するよ」
「え……え……?」
「……私は網井 優乃。……魔女よ」
「はわわ~!」
「あれ?なんか優乃の時だけ反応が……」
「いえ……逆に……ど、どういう意味かわからない肩書きが聞こえたんですけど……」
「ん?」
「えっと……脚本とか……小道具……とか……」
「……はっ!」
瞬間、私は全てを理解した。2人を集めてこっそりと相談する。
「ちょっと~……もしかしてこの子……本物だと信じきってる……?」
「そのようね……。まぁ説明は一切してないわけだけど……」
「本当のこと言ったら逃げちゃうかな?」
「いやでも……納得してもらうしかないよ……」
「わかったわ……こうしましょう……」
私たちはムーちゃんに向き直った。
「えっと……何のお話をしていらしたんですか?」
「んーと……ね!」
「ムーちゃん……単刀直入に言うけれど……あなたは魔法は存在すると思う?」
「も……もちろんですよぅ!だ……だって優乃様も魔法を使ってたじゃないですかぁ!」
「残念だけど……あれは魔法じゃないの……」
「え……騙したんですか……?」
途端にムーちゃんの瞳から光が消える。
「えーっと……ごめんねムーちゃん……私たちは……」
「ム……ムーちゃんは……本当に魔法が使えると思って……!」
「待って、ムーちゃん。何も魔法が存在しないとは言っていないわ。ただ、私たちが使ったのは魔法じゃないというだけ」
「え?」
「それを可能にするために研究するのが、魔法研究部なのよ」
「は……はわわーっ!」
ムーちゃんはその場でぴょんと飛び跳ねた。
「ゆ……優乃様ぁ~っ!」
「うまくやったね優乃……」
「危ないところだったね……」
「こんなものよ……」
「じゃあじゃあ……ムーちゃんにも魔法は使えますかぁ?」
「それは……もちろんよ」
「やったやったぁ!ムーちゃんにも……みんなみたいにお話できるんだ!」
「ムーちゃん、どうして魔法を使いたいの?」
「あのぉ……ムーちゃん……こんな風に暗いから……みんな話をきいてくれないんです……。だから……」
「うん!それならうってつけだよ!ここで私たちと修行をしよう!」
「しゅぎょう?ですかぁ?」
「そう!新しい自分になれる修行だよ!」
「それってぇ……魔法なんですかぁ?」
ムーちゃんは疑うようにじっとりとした視線を向ける。
「ムーちゃん……あなたはどういう魔法が使いたいの?」
「えっとぉ……はきはき話せて……急なお話にも対応できるような……」
「それ……可能よ」
「はわわぁ~っ!」
ムーちゃんはその場でぴょんと飛び跳ねた。
「な……なんか優乃には甘くない!?」
「そんなことないですぅ」
「とにかく私たちは劇をすることで魔法の存在を主張し、自身を高める活動をしているの。そのうえで本当の魔法を見つけるのが目的ってところね……」
「ムーちゃん、入りたいですっ!」
「どうですか!ルミナ先生!」
「うん、合格」
「なんか審査してたの!?」
「あ、いや、入りたそうだし」
「……まぁ、入れるならいいよね」
「やったぁ!ありがとうございますぅ!これで私も魔法使いですぅ!」
「早速新入部員勧誘が火を吹いたようね」
「うん!大成功だよ!」
「よーし!この調子でもっと部員が来れば……しっかりとした劇ができるよ!」
「私たちの未来は輝いている!さぁみんな!手を合わせて!」
「……なに?」
「いいから!」
私は半ば強引にみんなの手を重ね合わせていく。
「魔法研究部、青春のってこー!!」
「……ん?」
「え?掛け声」
「なんて言うのが正解なの?」
「のってこー!だよ!」
「いや知らないわよ……」
「青春……ですかぁ?」
「あ、私、青春を追い求めてこの学園に来たから」
「そ……それじゃあ……それって……あなたの願望ですよね……?」
「うぐぅっ!?」
「そもそも青春って……のるものなんですか?」
「うぐぐぅっ!」
「まぁいいんじゃない?部活動っぽいし……こういうのって……ノリっぽいし」
「確かにそうですねっ!」
ムーちゃんは優乃の一言でコロっと意見を改めた……。
「よ……よーし、それじゃあもう1回!」
私はまたみんなの手を集めた。
「魔法研究部、青春のってこー!!」
「のってこー!!」
「あぁ……青春っぽいわねぇ……。あたし感動しちゃうわ」
「本当ですね!でもこれからもーっと頑張るんですから!」
「そうね。それじゃあ頑張ってやっていきましょうか」
「はいっ!」
魔法研究部は始まったばかり!更なる仲間を求めて私たちはさらに頑張っていくよ!