ついに魔法研究部が始動!私の青春もここから始まる!……はずなんだけど。
「やっほー!ルミナせんせー!早速部活はじめようよ!」
「あら、みんなお揃いね。でも今日はひとつ、やってもらうことがあるの」
気合十分の私たちに、やってやれないことはない。
「なになに?」
「新しい部員の勧誘よ」
「えーっ!それは難しいってわかってますよね?」
「わかった上でよ。余りにも人が少なすぎるの。劇をやるのでしょう?それならば今の状態では6人ほどは欲しいわね……」
「うーん、確かに……。優乃ちゃんがキャストだとしても1人では大変そうだね」
「私も監督するけど演技も頑張って並行してやるよ」
「僕だって脚本書くだけじゃ終わらないさ」
「そうすると……なんだか私だけひとつやることが少ないみたいじゃない……」
「いやいや!そんなことないよ!メインキャストやってもらうんだから!私たちよりよっぽど出番は多くなるから大変よ」
「そう……」
「そうそう!優乃はもうばっちり魔術をしてもらうんだから!」
「なら……いいけど」
優乃も役に立ちたいようでそわそわとしているようだった。
「さてさて、それじゃあ作戦会議!新しいメンバーを加えるためにはどうしたらいいかな?」
「はい!」
「シィドくん!」
「まずは偏見のない大樹信仰以外の生徒を攻めるのがいいと思います!」
「流石シィドくん!そうですねぇ、確かに大樹信仰の人たちは優乃を頭から否定してしまうので難しいですねぇ」
「……ごめんなさいね」
優乃がぽつりと呟く。
「あぁ、いやいや。優乃が悪いわけじゃないんだよ?それにそんな逆境だからこそ燃えるんじゃない」
「緑子ちゃんは相変わらずポジティブだ」
「それほどでも~」
「それで?大樹信仰以外の子を狙うって言ったってどう勧誘するつもり?」
「まずはひとつ、簡単な小芝居をやってみようと思う!」
「僕らの初公演だね!?」
「まあ公演といえるほどではないと思うけどね」
「じゃあ見せてあげましょうか……私の魔術を」
「ノリノリだねぇ!」
「……うるさい」
茶化された優乃は恥ずかしそうに目を逸らした。
「結局どうするの?まずはあなたたちだけでやらなきゃならないんでしょう?」
「もちろんやりますとも!装置は私に任せて!」
「緑子さんには期待してるわ。楽しい装置を見せてね」
「そっち……?」
「それはそれで期待してもらえて嬉しいです!」
「じゃあ僕は演出を考えてみるよ」
「私は……」
「優乃はね……私の手伝いしてね!」
「ん……」
優乃はこくりと首を縦に傾けた。
「じゃあ始めましょう」
こうして私たちは作業に取りかかった。
「シィドくん!まずは大まかな段取りを決めようか!」
「そうだね。とりあえず新入部員の勧誘だから。飽きさせないくらいの短さでなおかつパッと目を引き心を奪うようなインパクトを与えないと……」
「なかなか難しいね……」
「炎を出しましょう」
優乃が口を開く。
「おおっ!」
「それも緑の」
「おおおっ!」
「魔法使いっぽいねぇ。よし、そうしようか」
「じゃあそれを可能にする装置をつくればいいのね!」
「僕はストーリーを!」
「決まりね!それじゃあ頑張ってね」
「ルミナ先生は指導とかしてくれないんですか?」
「あたし?わかんないわよ。でもそうねぇ。許可関連は任せなさいな。あとは……意見出すくらいかな」
「まあそんなもんよね」
「でも許可はありがたいよ!」
「そうね」
「じゃあとりあえずはみんな別行動?」
「いやいや、ここでバラバラに動いたらこの時間を用意した意味が無い!基礎トレーニングをするぞー!」
「おー!流石緑子ちゃん!」
「舞台に立つのに必要なのは台本と装置だけじゃない……私たちを磨かなければ輝いた劇はできないのだ!」
「何から始めるの?」
「まずば身体を軽く動かしてから……」
ちょっとした体操をした。
「ふぅ……これくらいでバテてないよね?」
「もっ……もちろんよ……ふっ……う……」
優乃の返事はひどく辛そうなものだった。
「あれ?」
「なに?」
優乃を方を見るとすました顔をしている。……が、上下する肩と滲んだ汗がその本意を示していた。
「シィドくんは?」
「僕は大丈夫!文学部志望だけど人並みには運動できるよ!」
「ふぅん……私が人並み以下ってか……」
優乃はいじけた声を上げて自分の足許を見つめていた。
「なっ!そんなことないよ優乃ちゃん!」
「いじわるしないの。さ、発声始めるよー!」
「発声!劇の稽古っぽいね!」
「そうそう!だからちゃんとやるんだよ!」
「えっと……何を言えばいいの?」
「それはね……あれ?」
そう言えばわからない。
「ちょ、ちょっとちょっと緑子ちゃん!プランがあるのかと思ったよ!」
「ふふふ、私の出番のようね」
座っていたルミナ先生が立ち上がった。
「あっ、ルミナ先生!」
「演技指導については素人……とはいったものの少しくらいはわかるわ。さぁ、あたしの言った通りに声を出しなさい!」
「はい!」
「まずは自分がこうしたら大きい声が出るって思うやり方であーって叫びなさい!できるだけ長く一息でね!」
「あぁぁぁあああぁっ!」
「あぁぁ……ぁ……っ……ぁあ……かはっ……!」
「あーーー~~っ!」
「はいそこまで」
「ふう、そこそこ続いたかな?」
「ふぅ……ふぅ……ぜぇ……」
「やっぱり緑子ちゃんは澄んだ声が長く続くね」
「緑子ちゃん……は?」
「優乃ちゃんは……これからだよね」
「まぁ優乃はそれに関してはその通りかなぁ。声が出なきゃ注目もしてもらえないよ!」
「ごめんなさい……」
優乃は申し訳なさそうに肩を落とす。
「まあまあ、謝ることはないのよ。これからですからね。優乃さんは声の出し方が1番よくないのよ」
「出し方?」
「大きい声を出そうと思うあまりに喉を使いすぎてるのね。それを続けると喉を壊すわよ」
「だって……じゃあどうすればいいのよ……」
「お腹から声を出すのよ!」
「あはは、せんせーい、声を出せるのはお口からだけですよ~」
「そうね。でもこれはどこに力を入れてるかっていう話なのよ。喉から声を出すっていうのも直接声が出てるわけじゃないでしょう?喉に力を入れて出てきた音があなたのお口から出てるのよ」
「はっ!そうだ!」
「そんな感じでお腹に力を入れて声を出すのよ」
「んー、難しい……」
その後もルミナ先生の指導は続いた。
「なんだなんだ!ルミナ先生わからないふうな事いってすごくよくわかってるんじゃん!」
「まだまだ入門よ」
「でも……声出るようになった。ありがとう」
「そう言ってもらえると嬉しいわねぇ!」
ルミナ先生の指導で私たちは声の出し方と発声の練習方法を学んだ!
「あまりやり過ぎても喉を痛めるから今日はここらへんにしとこうかしら」
「はい!」
「それじゃあ今日は解散ね」
「じゃあ私は装置の開発をおうちでするよ!」
「僕も台本を書くね」
「私は……」
「喉を休めてね!」
「……うん」
優乃は少し悔しそうな顔をしながらもそれを承諾した。
「とりあえずお疲れ様。また会いましょう」
「はい!」
私たちは部室を出た。
「どうする?まとまって内容について話でもする?」
「それもいいけど……あまり根を詰めてもだめかもね」
「じゃあ今日は本当に解散にしよっか!」
「そうしよう」
「じゃあねぇ~!」
家に帰った私は早速火の出る装置の開発に取り掛かった。
「うーん、緑色の炎か……あぁ、アレを使おうか」
夜が更けていった。
翌日。
「おはよー!優乃!」
「お……おは……よ……」
優乃から返ってきた返事はまるで別人のようにかすれた声だった。
「だっ、大丈夫!?」
「こえ……でな……い……」
「あぁ……無理に喋らないでいいよ……」
「……ん」
「優乃あんまり声出さないもんね。こうなっても仕方ないか……」
「……」
「……ん?まさか!家に帰ってもたくさんやったな!」
「……!」
図星のようだった。
「優乃~!」
一生懸命に取り組んでくれている優乃が愛おしくなり私は抱きついてしまった。
「……やめ……なさい……」
逃げられたけど。
「あんた……どう……なの?」
「あ、私?ふっふっふ~!聞いて驚くことなかれ!なんとできちゃいました!」
「は……はや……!」
「とはいえこんな場所で出したらネタバレもネタバレ。部室までお預けよ」
「……」
「そんなに残念がらないで!」
「べ……つに」
「おはよ」
「あ、シィドくん!」
「……お……あよ……」
「えぇっ!優乃ちゃんどうしたの!」
同じくシィドくんも驚いていた。
「こえ……でな……」
「ん~最初から無理しすぎたのかなぁ」
「……」
「今日はゆっくり休もうよ。ね」
「……ん」
「ね、ね、シィドくん!私もうできちゃったよ!」
「え?まさか……」
「例の装置が……ね」
「うわぁ……はやいねぇ。さすが緑子ちゃん」
「えへへ」
「実は僕も……できちゃったんだけどね」
「えぇっ!シィドくんも!?」
「へへ」
「私たち、みんながんばったんだね」
「もうはやくやりたくて仕方なかったんだ!」
「ごめ……さい」
「え?」
「わた……し……なおんな……かったら……」
優乃は今にも泣き出しそうな顔をしている。
「……んーん、大丈夫。優乃も頑張ってくれたからそうなってるんでしょ?声が出ないのは今だけだよ。声を出さなくても台本は覚えられる!装置の使い方の確認もできる!それに優乃の声はさらによくなって帰ってくるんだから!」
「みど……りこ……」
今度は優乃から抱きついてきた。
「うわぁぁ……優乃~!」
だからたくさんなでてあげた。
「じゃあとりあえず放課後みんなで確認しましょ!今日も一日頑張ろうね!」
「おー!」
「あらあら、今日はまた随分頑張ってるじゃないですか」
「ん?」
声をかけてきたのは……ローザちゃんだった!
「な、なにかなぁ?私たちこれから忙しいんだけど……」
「放課後まで忙しくないでしょう」
「う……」
「魔法研究部……ですか。お似合いですわよ、優乃ちゃん」
「……」
「何か言ったらどうです?」
「あ、優乃今声出ないから話しかけないであげてくれるかな?」
「あら、そうなんですか。……ふぅん。あの優乃ちゃんが、ねぇ」
「なに?まだ何か言いたいの?」
「そう邪険にしないでくださいな」
「……ねぇローザちゃん。この際はっきり言っておくよ。私はあなたと仲良くできないから話しかけてこないでくれるかな?こんなに広い教室なのに、わざわざ嫌味を言うために私たちのところにくるなんて、信じられない」
「あ……」
はっきりと言ってやるとローザちゃんは少し悲しそうな顔をして押し黙ってしまった。
「……いこ、優乃」
「……」
私たちは離れた席に座った。
ローザちゃんは俯いたままずっとその場に立っていた。
放課後、また私たちは部室に集合した。
「おつかれ~。どう?準備は進んだ?」
ルミナ先生が既に部室に待っていた。
「ふっふっふ~!なんと!」
「なんと!」
「私たち、完成させちゃいました!」
「装置も台本も!」
「へぇ~!すごいわね!はやいもんだねぇ」
「えへん!」
「じゃあ優乃さんも今日から早速練習できるわね」
「それなんですけど……」
「どうかしたの?」
「……せん……せ」
「なになにどうしたの!その声!」
「優乃は練習のしすぎで魔女に声を奪われてしまったのです……」
「あたしのこと?……じゃないでしょうね?」
「あはは」
「まあでもそれなら喉を休めなさい。この状態でやらせる程でたらめじゃないわよ」
「は……い」
「それでそれで!早速装置の方を……」
ルミナ先生は鼻息荒く装置の提出を急かす。
「せんせー!気が早いですぜー!」
「じゃあまずは僕のストーリーから順に……」
「んもう!待ちきれない!ねぇねぇ、装置だけ先にみせて?」
「僕のストーリーは気にならないんですか……」
「はっ!いやいやいや!そうじゃないのよ!ごめんなさいね!」
冷静になったルミナ先生は咳払いして落ち着きを取り戻した。
「じゃあシィドくん!お願いします!」
「はい、じゃあ配るね」
シィドくんから台本が配られた。
「おお~!それっぽい……!」
「まあ台本にそれっぽいも何もあるかわかんないんだけど……」
「どう?優乃!」
「……ん!」
「嬉しいって!」
「はは。それはよかった」
「とりあえず2人なんだね」
「うん。今回は2人。優乃ちゃんと緑子ちゃんにやってもらおうと思って」
「任せてもらおう!頑張ろうね!優乃!」
「……ん!」
「……なるほど。そういう感じで火を出すのね。それで?肝心の装置は……」
「お待ちかねお待ちかね!遂に装置が登場しますよ~っと!」
「きたーっ!」
私は持参した紙袋を机の上に置いた。
「意外と小さい?」
「まあ手持ちって話に決まったしこんなものか」
「あけ……て……」
「優乃も実は楽しみにしてたんだねぇ~」
「はやく……」
ぐいぐいと袖を引っ張る優乃はもう待ちきれないという様子だ。
「はいは~い!じゃあ開けるよ!」
私は紙袋の封を開けるとその中のものをごそごそととりだした。
「じゃっじゃ~ん!」
「これは!」
「伝説のステッキじゃないの!」
「そう!魔法使いといえば杖!今回は古典的な両手杖をご用意いたしました!細長い小さな杖をひょいっ!ってのもいいものですが、やはり重厚感のある厳かな両手杖をかざしてこそホンモノ感の出るものなのです!」
「別の火がついたね……」
「わかる……わかるわよ!あたしも最初は両手杖だと思ったの!」
「火……だして……みよ……」
「ああ!それがメインだもんね!」
「よし、じゃあ、優乃!もってみて!」
私は両手杖を優乃に渡した。
「あ……おも……」
「ちょっとだけ重いかもね。一応装置ですからっ!」
「つかいかた……」
「はいはい!まずは下準備がいるんだけど……これ!これをこっそり火をつけたい場所に置いておいて……両手杖の先端のヒミツシリンダーにこの粉を……」
「うわ……すごいわね」
「単純なものですよ。このこっそり置いた物質に反応して緑色に燃える粉末があるんです。それを杖を振りながら振りかけるという……」
「いやでもそれならバレなさそうだし……いいんじゃない!?」
「でしょでしょ~!」
「……やらせて」
「じゃあ杖をあのカタマリに向かって振ってね」
「……ん」
優乃は勢いよく杖を振った!
「……ん?……緑子。これ……つかないよ」
そう言って優乃はカタマリに近づいていく。
「あ、優乃!だめ!」
「え?」
私が優乃を引っ張った瞬間、カタマリから緑色の大きな火柱が上がった。
「ひゃおっ!」
「きゃっ!」
「え、いまの優乃?可愛い声出たねぇ。」
「……」
「ともかく怪我はない?」
「ん」
「よかった!ちゃんと説明しなくてごめんね。ちょっと時間差で火が出るの」
「さきに……いって……」
そう言って優乃は頬を膨らませる。
「というか……… 緑子さん……部室を燃やす時はちゃんと事前に言ってくださいね」
ルミナ先生も流石に冷や汗をかいたようだ。
「あ、ごめんなさい……」
「でもステキだったわぁ!やっぱりこうでなくちゃね!ちょっと危険かもしれないけど……安全に注意すれば合格よ!これでいきましょう!」
「やったー!合格だって!」
「よーし!じゃあこれで進めよう!」
「……… ん!」
「じゃあシナリオを覚えて合わせようか」
「あ、でも優乃がこれだからとりあえず位置と装置の再確認を……」
そして、数日が経ち、遂に私たちの劇はようやく見せられるレベルまで完成した!……と、思うよ。
「完璧だ……!ねぇねぇ!これって完璧だよね!」
「うん!僕もそう思うよ!」
「……最高ね」
「よーし!じゃあもう実行だよ!計画実行だよ!」
「あ……」
「どうしたの?」
「そういえば、これっていつどこでやるの?」
「ん?……ん~……決めてなかったっけ?」
「はぁ……どうすんのよ。せっかく完成したのに……」
「あら、あたし言わなかったかしら?」
「ルミナせんせー!」
「3日後、講堂でゲリラよ」
「え?」
「ちょ……ちょっと待ってよ!そんなの……」
「一応キルス先生には許可とってあるから。火薬の扱いにだけは気をつけてね。周囲に燃え広がる物のないところで行うこと」
「えっと……でも……クラスのみんなに観られながらやるってことだよねぇ!」
「何言ってんのよ。この学校そもそも学年の概念くらいしかないじゃない。新入部員が欲しいなら同じ1年生でしょう!そしたら講堂でやれば1年生全員が目にする!これ以上良い手はないでしょ?」
「でもでも……敵も多いよ?」
「逆に言えば食いついてきた子は敵じゃないのよ。引き入れるチャンスよ」
「何言われるかわかんないの……不安だよ……」
「あんたが不安がってどうすんのよ……」
狼狽える私を見て優乃が肩を押す。
「優乃?」
「敵が多いのは私よ。でも私は怖くない。……誰かのおかげでね」
「え……?」
「話は終わりよ。とにかく私は大丈夫。さ、仕上げにかかりましょう」
「……そうだよね。やるしかないよね!よーし!やるぞー!」
優乃は意外にもノリ気で、私のことを信頼してくれているらしい。私が怖気付いていてはだめだ。優乃のためにも必ず成功させるんだ!
そして私たちの初めての舞台が幕を上げる。……幕はないけれど……。