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魔法研究部、始動

申請を出してから3日後、私たちの許に部活に関する連絡がきた。

「やあ君たち、揃ってるね?」

3人で教室の席に座っていると先生が声をかけてきた。

「喜びたまえ!公式に学園の方でも魔法研究部が承認されたよ!」

「おー!」

「それで部室と顧問のことなんだけど……」

「どうなったんですか?」

「まず部室は……ここ」

先生は1枚の見取り図を差し出してきた。

「え、ここって……」

「いやあ、善戦したんだけどねぇ、ごめん。かなり小さい一室しか借りられなかったよ……」

「いえ!ここが良かったんです!」

「え?」

先生が示したのは化学研究室の近くの小さな倉庫だった。

「なんとここには遮光カーテンがある!魔法研究部には欠かせないアイテムが備え付けられている!その上それっぽい備品もそこらへんにあるし……燃えるね!」

「緑子はポジティブで助かる。……私もこういう狭いところの方が落ち着くけど」

「僕も賛成!全然大丈夫だよ!」

「そっかそっか。よかったよ。で、顧問なんだけど……」

「どきどき……」

「ルミナ先生っていう人が顧問に選ばれたよ」

「どういう人なんですか?」

「うーん、一言で言うなら……この部活にぴったり!って感じ!」

「最高じゃないですか!」

「そうとも!だから是非頑張ってくれよ!」

「ありがとうございます!」

「部活は早速開始してもいいから放課後にルミナ先生を訪ねるといい」

「はい!」

先生は教壇の方へ歩いていった。

「いやあ、ついに私たちの部活、スタートですねぇ!」

「先生は善戦してくれたみたいだけど……周りのみんなとは随分差がついたスタートね……」

「でも部室も顧問もいただけたことがすごいことだよ!」

「流石緑子ちゃん。そうだよ!それくらいで考えないと!」

「じゃあ早速今日から部活を開始しよう!異論は~?」

「……ないわ」

「もちろん!」

「よっし決まり!楽しみだ~!」



そして放課後。

「ここが我らの城じゃ~!」

倉庫らしく辺り一面にごちゃごちゃとガラクタが積まれている。遮光カーテンで遮られた室内は、今開かれた扉の明かりだけが差し込み薄暗く湿っぽかった。

「ほこりっぽい……」

「魔女って感じじゃんか~」

「はしゃぎすぎよ……」

「でも確かに秘密基地っぽくて好きだな」

「とりあえずルミナ先生を待ちましょうか」

しかし一向に先生は現れない。

「もしかしてだけど……」

「わかった!」

「あんたもそう思う?」

「うん!私たちを試してるんだよね!」

私は自信満々に答える。

「いや、違うけど……」

「多分私たちがどういう行動を取るかテストしてるんだよ……!ねぇねぇ、とりあえず活動しようよ……!」

「そんな声を潜めても絶対隠れて聞いてたりしないわよ……」

「まあでも先生がこないわけだしやってしまおうか」

「うん!」

「で?何からするの?」

「とりあえず……活動に適した部室にしちゃおうか」

「掃除ってこと?」

「そう!」

「さっさとやりましょうか」

「おー!」

私たちは早速部室の掃除にとりかかった。

「これ意外と広くなるんじゃない?」

「確かにそうね」

「なんかほんとわくわくしてきたよ!」

「あ、それあっちにやろうよ」

「これは……?」

「それはこっち」

「じゃあこれはここ」

「ベッド置こうよ……」

「そんなスペースもないしサボらせません!」

「じゃあせめてソファ……」

「用意できるならいいけど」

「……ない」

「はい残念」

「……覚えておけ」

「いい感じに仕上がってきたね」

「ここね、舞台っぽくする」

「おー!すごい!」

「ね!ね!」

色々と試行錯誤してみんな納得の部室ができた!

「どうだ!」

「見違えたわね……」

「緑子ちゃんすごいね!イメージしてたの?」

「もちろん!広さにはちょっと驚いたけどこれは絶対置きたい!っていうのを考えてあったの!」

「まぁでも中にはちょっと悪趣味なんじゃない?ってのもあるんだけど……」

「これのこと?」

「そう、その釜……。絶対使わないでしょ……?」

「何を言うの!魔女といえばこれでしょ!」

優乃ちゃんが食いついたのは私が持ってきた釜だ!

「え、なにこれ……もしかしてこれ……」

優乃は不思議そうに釜の周辺設備をいじる。

「もちろん火もつけられます!」

「どっから持ってきたのよ……」

「作ったに決まってるでしょ?」

「はぁ……?あんた何者よ……」

「意外と得意なんだよ」

「ここまでやるやついないわよ……」

優乃はなんだか感心したような呆れたような顔をしている。

「あ、優乃ちゃん、緑子ちゃんにソファお願いしてみたら?」

「え……できるの……?」

「できないとお思いですか?」

「うわ……そこまですごいと逆に引くわ……」

「そんなこと言うと作ってあげないからね!」

「まぁ……別にいいんだけど……」

「素直じゃないな~」

「……作ってよ」

「……嫌だ、と言ったら?」

「その時は諦めるわ……」

「わかった!作ってあげる!」

「どういうことよ……」

「ちょっと困らせてみたかったの」

「わけわかんない……」

「やっぱり作れるんだ」

「完成度は期待しないでね。適当にやってみる」

「じゃあほんとに道具作りとか任せられるね」

「あら……確かに。緑子、あんたやるわね」

「わ!急に褒められと照れる……!」

「……ばか」

「急に貶されても照れる……!」

「はぁ……」

私は昔から手先だけは器用だった。だからそれを褒められるのはなんだかすごく嬉しい……!

「さて、そろそろ先生来ないかな?」

「確かに遅すぎるわ……やっぱり私の予想が正しかったのかもね……」

既に掃除も済ませあれから結構な時間が経っていた。

「あぁ、そういえば言ってたね。なんなの?」

「仕方なく顧問の座に着いたけどやる気はなくて部室にも来ないってこと」

「えー!そんなこと許されるの!?」

「ただでさえ厄介者扱いされてるんだからありえるでしょ……」

「だめだよそんなの!直談判だ!」

「あ、ちょっと緑子……」



私はついカッとなって職員室に突撃してしまった。

「失礼しますっ!1年の緑子ですっ!ルミナ先生はいますか!」

「おや、ルミナ先生ですか。見かけていませんね」

「……ほら、やっぱり帰ったのよ……行きましょ……」

「いや、帰ってないよ!あの札みて!」

「札?」

私は教員用のボードを指さす。

「あっあれは!」

「そう!靴のロッカーの鍵の名札!先生たちは個別の靴箱に鍵をかけてその鍵を職員室にかける!つまりあの鍵がここにある以上ルミナ先生は校内にいる可能性が非常に高いのであります!」

「……あんた何者よ……」

「名探偵緑子ちゃんと読んでくれてもいいのだよユノスンくん」

私は無いヒゲをさすりながら目配せする。

「ユノスンってちょっとセンスないわよ……」

「まあちょっと考えればわかるもんね」

「名前の方よ」

「とにかく先生はまだこの学校の中にいる!探しに行きましょ!」

「そうしましょうか……」

「失礼しましたっ!」

「……お騒がせしました」

「し……失礼します……!」

嵐のように訪れては去った私たちを教師たちはぽかんとした顔で眺めていた。



一旦部室に戻ってきた。

「さて、それではルミナ先生の捜索にとりかかりたいと思います!」

「目処はついてるの……?」

「ありません!」

私は意気揚々と手を挙げた。

「それじゃあ文字通りお手上げね……」

「行動すること!これ大事!見当がつかなくてもとりあえず探してみようよ!」

「それに賛成だよ!何か手がかりがあるかもしれない!」

「わかったわ……じゃあ私はあっちを探すから」

「いや!個別行動も許さない!」

「効率悪いわよ」

「私は魔女をお護りする騎士なので」

「……勝手にして」

「じゃあ行こう!」

「はぁ……」

私たちはやる気満々に部室を飛び出していった。

「ふぅん……あの子……なかなかやるじゃない……」

誰もいなくなったはずの部室に呟く声があったのを私は知らなかった。



「先生~!ルミナ先生~!」

「おい魔女部!うるさいぞ!」

私たちが廊下でどこに居るともわからない先生に呼びかけていると唐突に声をかけられた。

「魔女部じゃないよ~!魔法研究部だよ~!」

「知らんわ!」

「そもそもあなた誰?」

「……ちっ」

名乗りもしないそれはどうやら上級生のようだった。

「まったく、うるさいのが多いね!優乃!」

「あんたも実際うるさいけどね……」

「てへへ」

「そうよ、あんた……。あんたルミナ先生のこと知らないの?」

「お前ら……俺は一応2年だぞ……」

「初対面で突っかかってきた奴の何を敬うというの?」

「……ちっ」

「え~先輩だったの~?ちっちちっち言ってちっちゃいから鳥さんかと思ってた~」

こちらに敵対しているのならばとわざとらしく煽り散らかしてみる。

「えぇえ~い!うるさい!あっちいけ!」

「あ、ルミナ先生……」

「うるさいうるさい!しらんしらん!」

案の定壊れたかのように聞く耳を持たなくなった。こうなるとなんだか可笑しい。

「あははは、見て優乃。怒ってる」

「……あんた……意外とエグいわね……」

「……わかんな~い」

「まぁいいわ……こうなったら話は聞けなさそうだから行くわよ」

「2人とも……いきなり上級生に喧嘩売らないでよ……」

「シィドくんも混ざればよかったのに」

「僕には無理だよ……」

「舞台に立つんでしょ!」

「一応台本担当ってことなんだけど……」

「ん~、そう考えると確かに……人が足りないよね」

「照明やら音響やらも必要だし……その他にも色々といるわ」

「その時だけ指示出して頼んで協力してくれるようには思えないもんね」

「僕は裏方だったら得意だと思うんだけど」

「それでもやっぱり1人で音と光を担当するのは難しそう」

「最悪ルミナ先生に頼るしか……」

「この状況でもそんなこと言えるかしら……?」

「いや!きっとこのテストに合格すれば全面協力してくれるよ!」

「まだ言ってる……」

「しかし誰かルミナ先生について知らないかなぁ」

「ん?あれ見て!」

シィドくんが示した先に何やら学校には似つかわしくない怪しげな屋台があった……。ここは廊下なのに……。

「いや……どうみても怪しい……」

「あらあなたたち、どうやら悩みがあるようね」

「え!」

屋台越しに女性の声が聞こえる。

「どうかしら?私がひとつ占ってあげましょうか?」

「なんで学校に占い師がいるのよ……セキュリティ呼ぶわよ」

「待って待って!面白そうじゃん!きいてみようよ!」

「おいくらですか?」

「私は迷える者を導く使命の許に行動している……無料でいいわよ」

「無料!なんて甘美な響き!」

「1番怪しいわよ……」

「まあまあそんなこと言わない!無料より安いものはないよ!」

「無料より高いものはないのよ……」

「えー!そんなわけないじゃん!だってゼロの下はもうマイナスでしょ?逆にお金もらえちゃうじゃない」

「緑子。無料で何かをもらった時に、あなたはお返しがしたいって思ったことはない?」

「そりゃあもちろん!」

「じゃあ見ず知らずの人に何かをもらったら、あなたはお返しをする?」

「えっと……しないね」

「でもそれを相手がマナー違反と言ってきたら?」

「なんでさ!」

「私は与えた。あなたは返さなかった……それは押しつけでも対価の対象になり得るのよ」

「でもそんなの気にしなければ良くない?」

「そこにつけ込んでこようとする悪い人もいるのよ……」

「つまり、この人は無料で占う代わりに私たちに何かをさせるつもりってこと?」

「その通りよ」

「ふふふ……被害妄想の激しいお嬢さんね」

占い師風の女性は不敵に笑った。

「まぁあなたのような見るからに怪しい人をみたらそう言うわよね……」

「大丈夫よ。本当にお金も対価ももらわない。強いて言うならば占いのお話をきいてもらう時間をいただくくらいかしら」

「ほら、いい人そうだよ。優乃は人を疑いすぎちゃうからね。あはは」

「……まあいいわ。好きにしなさい」

「じゃあきいてく!」

私は屋台の前に置かれた椅子に座り込んだ。

「いい子ね。素直な方が気持ちいいわよ。さて、それじゃあいくわよ」

その人は屋台に置かれた透明な玉を覗き込んだ。

「なにあのガラス玉」

「水晶玉って言ってあげなさいよ……」

「ウンウンピリカウンピリカ……」

「なにあの変なお経」

「呪文っていいなさい……」

「はぁいっ!みえた!」

「おー!」

「道の先はまた輪廻する……。円環を断ち切る鍵は原初の海に眠る……」

「ん?」

「なに?」

「そういう感じ?」

「はっきりいいなさいよ……」

「いやでも占い師って感じじゃない?」

もっとこう……恋愛運星5~みたいなやつを期待していたので少し拍子抜けてしまった。だって何言ってるのかわかんないもん。

「時間の無駄だったわね」

優乃がきっぱりとそう言い放った。

「辛辣……」

「行くわよ」

「すみません、ありがとうございました」

「頑張ってね」

どことなく無下に扱われたことに腹を立てた様子もなく占い師は手を振りながら私たちを見送っていた。



それからも私たちは校内を聞き込みながら回った。

「んー、見つからないね……」

「ほんとだね……」

「やっぱり帰ったのよ」

「もう何回も校内をぐるぐる回っている気がする……」

「ぐるぐる……?」

「うん、ぐるぐる」

その言葉に私はなんとなく聞き覚えがあった。

「占い師の言葉、憶えてる?」

「えーっと、道の先は……」

「また、輪廻する」

「それが?」

「ぐるぐると回るのよ!」

「それが?」

「あなたが今言ったじゃない!」

「校内をぐるぐる……輪廻する……」

「……それが?」

「今の状況と占いの内容が一致するの!」

「……ふぅん。それで?」

もはや半分諦めた感じだった優乃が少しだけ興味を示したようだった。

「円環を断ち切る鍵は……原初の海に眠るの!」

「占いをそのまま言っただけじゃない」

「そう!それが答えだったの!」

「……何を言ってるの?」

「この輪廻から抜け出すには、最初に戻ればいいの!」

「つまり……そうか!わかったぞ!」

「そう!」

「帰ったんだ!」

シィドくんは自信満々に答える。

「いや……違うって!」

「部室……ね」

「そうそう!捜索の最初の地点!これが私たちの答えだよ!」

そして私たちは急いで部室に帰った。

「ルミナ先生!いるんでしょ!謎は全て解けたんだから!」

誰もいないはずの部室に呼びかけてみた。

「ふふふ……やるじゃないの。魔法研究部を立ち上げようだなんてどの程度の覚悟で言ってるのか試させてもらったけど……合格よ」

するとロッカーの中から声が返ってきてその中からひとりの女性が現れた。……この見た目には覚えがある。

「あ!さっきの占いの人!」

「そう、私がルミナよ。よろしくね」

彼女はそう言って妖艶にウインクしてみせた。

「ややこしいことするわね……」

「私の言ったことはすべて正しかった!」

「はいはい……」

「実際緑子ちゃんは優秀ね。行動力、洞察力、観察力……他の2人より優れているわ」

「えへへ……」

「あなた、監督になりなさいよ」

「え!それって部長ってことですか?優乃が部長なんですよ」

「部長じゃないわ。監督よ。部の管理とパフォーマンスの管理は別物よ。あなたにはそっちを中心とした仕上がりに関する活動に務めてもらうわ」

「わぁ……」

「良かったわね」

「おめでとう緑子ちゃん!」

「まあ今回のテスト、ほかの2人は緑子ちゃんがいなかったら完全に落第だったから、そこはよく考えておくように」

「う……すみません……」

「……ふん」

「優乃~……そこは謝っておいて……!」

「……ごめんなさい」

優乃は私の言葉をきいて素直に頭を下げた。

「あら驚いた……!……緑子ちゃん、後で私のところに来てくださいね」

「え?はい」

「それじゃあとりあえず自己紹介しますか。私はティアニサス・ハルミナガ。人はルミナ先生と呼ぶわ」

「よろしくお願いします!」

「……よろしく」

「よろしくお願いします!」

「はいよろしく。あなたたちのことは一応聞いてますけどこういうのは形式が大事ですからやってもらいますよ」

「はい!岩清水 緑子です!青春を目指してこの学園に来ました!この部活で青春を謳歌するんです!」

「……網井 優乃。魔女だから……この部活で人々を恐怖のどん底に突き落としてやるの……」

「あ、多分照れ隠しだからそんなこと思ってないです」

「シィド・テイルストンです。もともと文芸部に入りたかったんですがあそこよりここの方がきっと僕は楽しいと思ってこの2人についてきました」

「ふんふん。なかなかいいじゃない」

「それで?ルミナ先生はこの部活にぴったりだとキルス先生に言われたんだけど……どういうこと?」

「あぁ、それね。それはね……私、魔術ファンなの!」

「えぇ……それだけ……?」

「それだけって!理解のある人がいてくれることがどれだけいいことかわかる!?あの占い師の格好だって自前よ?!」

……それはなかなかのツウですね。

「まあ確かにいいよね!ちゃんと協力してくれそうでよかった!」

「ねぇねぇ、ところでこの釜なんだけど……」

「あぁ~!わかっちゃいますかぁ~!!」

「えっ、これ……えっ!火!火つく!」

「そうなんですそうなんです!そこがこだわりポイントなんですよ~!」

「なにこれ!作ったの!?」

「……やってなさい……」

ついに部室も顧問も決まって魔術研究部が始まった!先生とも気が合いそうだしみんなもちゃんとやってくれそう!これからの活動が楽しみだ!



「あ、緑子ちゃん、さっきのこと……」

「はい?」

帰る時間になった頃、先生が私に1人で残るように言った。

「2人ともちょっと先行ってて」

「ん」

「またね、緑子ちゃん」

2人は部室を出ていった。

「さて……緑子ちゃん……」

「は、はい……」

ルミナ先生は急に静かになったので私は少し緊張してしまった。

「あなたすごいわねっ!」

「えっええ!?」

しかしそれは全くの杞憂だった。唐突に満面の笑みを浮かべたルミナ先生は飛びつかんばかりの勢いで私の頭を撫でた。

「優乃さんがどういう境遇だったかご存知?」

「もちろんです!」

「それを逆手にとってこの部を作りかつ彼女を自主的に動かしている……!これは驚くべきことだわ!」

「は……はい」

「あぁ、ごめんね。でもほんとにすごいのよ。優乃さんの心は多分冷えきっていたと思うから、あなたがいてくれてすごく助かってると思うの」

「そうだったら私も嬉しいです!」

「あなたがあの子を導いてくれると私たちも嬉しいわ」

「私……たち?」

「……そう。この学園には優乃さんのことをよく思っていない人も多いじゃない?でも中にはあの子を可哀想だって思ってる人も結構いるのよ。あなたの担任のキルス先生もそうね。でも周囲があの調子じゃ堂々と味方できなかったりするんだけど……あなたたちの顧問になった以上私は絶対にあなたたちの味方よ!」

「ありがとうございます!」

「だからきっといい部活にしましょうね!」

「はい!」

こうして私は晴れやかな気分で部室を出た。

靴箱のあたりに2人がいた。

「あ、どうだった?」

「ん?なんでもないっ!」

「嬉しそうね……」

「ふふっ!なんででしょ~ね!」

優乃はひとりじゃなかった。それだけでも私は嬉しかった。これから先、きっと優乃はもっと幸せになれる。そう思うと笑わずにはいられなかったんだ。

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