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寺生まれのTさん・その3

瑠璃は恐る恐る背後を振り返った。そこに立っていたのはあの七人ミサキのひとりだった。


「う、嘘……あれって拓也たちが成仏させたんじゃ……」

「我ダケ残サレルトハナ……」


七人ミサキは錆び付いた刀を抜いた。


「ダガ構ワナイ、ココデオ前ヲ殺シ、成仏サセテモラウマデ……!」

「最悪」


瑠璃は悪態をついた。家に面倒事を持ち込むのはお兄ちゃんだけだと思ってたけど……。


「喰ラエ!」


ミサキは刀を振り下ろしてきた。隼颯は咄嗟に、近くに置いてあった特撮ヒーローの大人用玩具を手に取る。赤く光る刀身の剣型の武器だ。錆び付いた刀と玩具の武器とがぶつかり合う。


「瑠璃、今のうちに逃げるんだ! ここは『聖域』だろ? こいつに長居させるわけにはいかないからな!」


隼颯の言葉に瑠璃は頷く。そして七人ミサキの背後をすり抜けて部屋を出ていった。


「僕もすぐに後を追う」


隼颯は剣の柄にあるスイッチを押した。必殺技の音声が流れる。ミサキは一瞬怯んだ様子を見せた。その隙に隼颯はミサキの刃をかわして部屋の出口へと向かった。


家を出ると、前方で瑠璃が待っていた。


「瑠璃! 逃げよう! こっちだ!」


隼颯は瑠璃に逃げるように促す。


「私たち……どこまで逃げればいいの……?」


瑠璃は息を切らしながら言う。


「さてな、助けを……」


隼颯は携帯を取りだした。こういう時に連絡するべきなのは「寺生まれ」の連中か? それともアケミか? でも、どちらも電話番号がわからない。

高架下の地下通路にたどり着いた時、背後から鎧同士がぶつかり合うガチャガチャという音が聞こえてきた。

ミサキが追いついてきたのだった。


「覚悟……」


ふたりが立ち止まるとミサキは刀を振り上げた。


「させません!」


中華包丁が飛んできた。そしてミサキの刀を弾く。

地下通路に現れたのは、アケミだった。アケミは鞄の中から新たな中華包丁を取り出す。


「隼颯くんにつく悪い虫は、この私が徹底的に排除します」


中華包丁と日本刀とがぶつかりあった。それぞれの刃がぶつかる度に火花が散った。


少し離れた場所に、七人ミサキを追ってやってきた拓也と寺生まれの男が現れた。


「すでに『アケミちゃん』と戦闘に……」


拓也は戦いに加勢しようとする。しかしそんな拓也を寺生まれの男は片腕で制した。


「待て、あれは『一宮家』の問題だ。あの者たちに任せるとしようではないか」


「貴様ハ人デハナイ……。何故人間ノ味方ヲスル……?」

「それは……隼颯くんが人間だからです! 私は……どんな時も隼颯くんのことが好きで好きで仕方ありませんから!」


アケミの刃が七人ミサキの刃を弾いた。


「そしてトドメです! 死んでください!」


アケミは中華包丁を振り下ろした。中華包丁は七人ミサキの肩口を斬り裂き、七人ミサキは消滅した。

戦いが終わると、アケミは中華包丁をゆっくりと下ろした。


「隼颯くん、終わりましたよ」

「あの……その子は……?」


と瑠璃がきょとんとした様子でアケミを見つめる。


「話せば長いが……怪異だな」


隼颯は言った。


「怪異……!」


瑠璃は身構えた。


「でも、味方だ。今のところは……だけど」

「何を言ってるんですか!?」


アケミは怒ったように言ってから隼颯に抱きついた。


「私は永遠に隼颯くんの味方ですよ。一生、死ぬまで……」

「ごめんな、瑠璃」


隼颯はアケミの頭をぽんぽんと叩きながら言った。


「だから……多分、僕はうちに怪異を持ち込みやすい体質なんだ」

「でも、その時は守ってくれるでしょ?」


瑠璃は言った。


「ううん、お兄ちゃんが怪異から私を守れないくらいヘタレだってことがわかったら、その時こそ私はお兄ちゃんを見限るから」

「頑張るよ」


隼颯は言う。


「じゃ、無事に瑠璃ちゃんも隼颯くんの家に帰ってこられましたのねぇ」


次の日のオカルト研究部で、都子は言った。部室には隼颯、都子、迅に加えてアケミの姿もあった。


「でも……なんで今日は最初っからアケミが部室にいるんだ?」


隼颯は訊いた。


「決まってるじゃありませんこと? アケミちゃんは私たちの部活の正式メンバーになりますのよ」

「アケミが……か?」


隼颯はアケミの方を見た。


「はい、隼颯くんの行くところ、すべてに現れるのが私ですから」

「でも、アケミはうちの学校の生徒じゃないんだ。制服だってどこの学校の制服かもわからないし……」

「オカルトを探求する者に学校の違いなど些細なことにすぎないというのが部長の考えです」


迅のノートパソコンが合成音声でそう発した。


「それに、アケミちゃんの正体を探るっていう当面の活動目標もできましたわ。ほら、ここ最近のいちばんの謎はアケミちゃんが何者か……ではなくって?」


たしかに、アケミほど正体の掴めない怪異も珍しいと隼颯は思った。彼女はどこから来たのか、そしてなぜあの電車の中にいたのか。そもそも本来は何者であったのか。人形であるのならば誰の手によって造られたのか。


「で、アケミはいいのか? こんな変な部活に……」

「私は構いませんよ? 隼颯くんと一緒ですから。それに……」


とアケミは隼颯に体を近づけ、小声で耳打ちをする。


「もしかしたらあの春日井都子という女、隼颯くんにたかる悪い虫の1匹という可能性もありますし……」

「頼むから、しばらくは大人しくしておいてくれよ」


隼颯はアケミの肩を掴んで椅子に座らせながら言った。


「え? 私はいつも大人しいですけど……」

「で、今後の活動方針だけど……」


と都子は切り出した。


「残念なことにキューピットさんが倒れたことで隼颯くん周りに怪異が現れる可能性も格段に減ってしまいましたわ。その代わり、アケミちゃんという興味深い研究対象は現れてくださいましたけど……。でもそれだけじゃあ内容としては不足があると思いません?」

「思いません」


隼颯は即答した。


「怪異に遭遇するのは不吉なこと……そしてその不吉なことといえば呪われること……つまり、これから私たちは呪われに行こうと思いますのよ」

「呪われに……?」


嫌な予感しかしないので隼颯は聞き返した。


「そうですわ。この近辺の呪いスポットを調べた結果、私はある場所に目をつけましてよ」


都子は街の地図を机の上に広げた。そして高速道路の上を通る歩道橋を指さす。


「この高速道路では古くから色々な怪異が目撃されていますわ。ターボババアに首なしライダー、それにスケボーババア」


ババア元気だな……。


「特に私が注目しているのはこの『首なしライダー』ですわ。こいつを目撃すると不幸になる。不幸イコール怪異、完璧な図式ではなくって?」

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