「第一王女、フィリス王女殿下」
「第二王女、トゥリパ王女殿下」
「第三王女、ロゼリー王女殿下」
ドゥセテラ王国宮殿。
鏡のように磨き抜かれた床は、複雑な寄木細工が施されていた。
壁は白く塗られ、庭に面した側には、天井までの高さがある大きな窓がずらりと並ぶ。
窓枠は金色で統一され、まるで額縁のようだ。
窓から差し込む光は豊かで、明るい。
天井からはキラキラと光を反射する、クリスタルガラスのシャンデリアが下がっていた。
大回廊、と呼ばれる、ドゥセテラ国王の玉座が置かれた謁見の間に続く廊下。
廊下といっても、舞踏会が開催できるほどの広さがある、宮廷貴族の社交の場でもあった。
そんな華やかなドゥセテラ宮殿の大回廊の真ん中を、美しく着飾った三人の王女達が堂々と歩いていく。
彼女達に道を譲り、貴族達、宮殿で働く侍女や召使い達は壁際に立って、礼を取る。
「フィリス王女殿下」
第一王女フィリス・ノワールは、黒髪に黒い瞳の美女。
魔法の才能に恵まれ、闇魔法の実力者として名高い。
「トゥリパ王女殿下」
第二王女トゥリパは、ふわふわしたストロベリーブロンドに青い瞳をした、まるでお人形のような容姿の愛らしい王女。光魔法を操る。
「ロゼリー王女殿下」
第三王女ロゼリーは、まっすぐな金髪にグレーの瞳。落ち着いた面差しの、クールな王女だ。
風魔法を得意にしている。
美しい王女達だったが、姉妹なのに、その容姿はかなり異なる。
その理由は、それぞれ母が異なるからだった。
そして、このドゥセテラ王国は美しい四人の王女で有名であり、もう一人、末っ子の第四王女がいる。
「フィリスお姉様、急ぎましょう。お父様がお待ちかねだわ。大切なお話があるということですから」
第三王女のロゼリーが、グレーの瞳を、第一王女のフィリスに向ける。
その視線が何か意味ありげだったのに、フィリスは軽い微笑で応えた。
ロゼリーが手にした扇で口元を隠しながら、何か呟いた瞬間、「あ!」という声が、第二王女トゥリパから漏れた。
たくさんのフリルで飾られたローズピンクのドレスを着て、胸元に淡いピンクのリボンが幾重にも重ねられている、トゥリパの愛らしい装いだ。
その胸元から、何かがバラバラとこぼれ落ちて、周囲に転がっていく。
「あぁ……!」
トゥリパは胸元を慌てて両手で押さえるが、すでに遅い。
彼女の白い胸を飾っていた、真珠とリボンのチョーカーは、糸が切れて、真珠玉が四方八方に転がっていくのだった。
「まぁ、トゥリパお姉様、大変ですわ。早く、拾い集めませんと」
ロゼリーが困惑した表情で言う。
「わたくしの侍女にも真珠を集めるのを手伝わせますわね。お父様にもトゥリパお姉様が少し遅れることはお伝えしておきますわ」
慌てて床の上にかがみ込んで、真珠玉を集める侍女の前に立ち、トゥリパは憎々しげに妹のロゼリーを睨みつけた。
「トゥリパ。いったんお部屋に帰って、別なチョーカーを着けてきたらどう? ……ドレスに宝石なし、というわけにはいかないでしょう」
フィリスは、いかにも姉らしく、といった態度でトゥリパに声をかけるが、話が終わればあっさりとトゥリパに背を向けて、謁見の間へと向かった。
フィリスの着ている、まるで赤いバラのように華やかなドレスがパッと翻る。
フィリスは赤のドレスを好む。
胸元に施された金色の繊細なレース飾りと、黒ベルベットの縁取りがされたドレスの重厚な裾が描く対照が美しい。
赤いドレスの後ろを、ロゼリーが追った。
今日のドレスは、光沢のある、ロイヤルブルーのドレスだ。
ロゼリーらしく、凝ったデザインのもの。
ハリのある布地で作られたアンダードレスの裾には、印象的なオリエンタル柄の刺繍が施されていた。
トゥリパは、姉のフィリスと妹のロゼリーの後ろ姿を無言で睨みつけた。
今は、彼女らが自慢げに着ているそのドレスすら憎らしい。
(あれは、風魔法。ロゼリーめ、なんて子なの……! わざとわたくしのチョーカーの糸を切ったわね……!)
トゥリパは、まるでお人形のように愛らしい顔を歪めた。
「あなた達。真珠はひとつ残らず拾い集めなさい。無くしたら許さないわ。わたくしは部屋に戻って、別なチョーカーを着けなければ……」
トゥリパが冷たく侍女達にそう言いかけた時だった。
「トゥリパお姉様? どうかなさったのですか……?」