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夏の始まり、大好きな君と叶えられない恋をする
矢田川いつき
恋愛現代恋愛
2024年12月02日
公開日
103,725文字
連載中
春見紫音は、“不幸の青い糸"が見える。その糸で繋がれた人同士が結ばれると、二人に不幸が訪れるのだ。
そして紫音にも"不幸の青い糸"で繋がれた人がいた。
同級生の高坂実。
最初は避けていたのに、紫音は彼に恋をしてしまった。
でも、好きな人を不幸にしたくない。結ばれてはいけない。これは実らない恋、のはずだったのに。

「春見、好きだ」

夕暮れの公園で彼に告白された日から、紫音の日常は変わり始めた。

プロローグ

 私、春見はるみ紫音しおんには、好きな人がいる。


 高校のクラスメイト、高坂こうさかみのるくんだ。


 でも私は、彼と恋人になる気はない。


 だって私は、彼のことが好きだから。


 ――よう。春見、おはよ。


 心が沈んでいたあの日、彼は柔らかく笑って私にあいさつをしてくれた。まともに話したことなんてほとんどなかったけれど、落ち込んでいた私にとっては救いだった。

 でも同時に、それは辛い苦悩の日々が始まる合図でもあった。

 だって私は、あの日を境に彼のことが好きになってしまったから。


 ずっと避け続けていたのに、意味はなかった。

 恋の魔力に逆らえるはずもなかった。

 どうしようもなく、私の気持ちは高坂くんに傾いていった。

 私と高坂くんは結ばれてはいけない、運命じゃない人なのに。


 今日もふわりと、は舞う。


 どうやら、今すれ違ったカップルのものらしい。


 なんで新学期早々にと思うけれど、は時期や時間も関係なく見えてしまう。


 うららかな春の陽気に似合わない、冷徹なまでの冷ややかさを体現するような、深い青色の糸。


 不幸の青い糸、と私は呼んでいる。


 それは毛糸ほどの太さで、特定の二人の左手の小指と小指を繋いでいる。その二人が互いの近くにいると青い糸は現れ、私以外には見えず、触れることもできない。

 そして、青い糸に繋がれていることは、二人が結ばれると不幸になることを意味する。

 結ばれると幸せになるという運命の赤い糸とはまったくの逆。不幸せになることを示す、不幸の青い糸。


 そしてその糸は、私と高坂くんを繋いでいる。


「ふうー……」


 細く長く、息を吐き出す。

 心のうちにある熱が、少しでも冷めてくれるように。

 好きな彼を可能な限り遠ざけられるよう、心の準備を整えるために。


 柔らかな風が、私の頬を撫でた。


 優しくて暖かな、春の風だった。


 当分私に春は来ないはずなのに、それはとても心地良かった。


「……よし」


 小さく気合いの声を口にしてから、私は校内に足を踏み入れる。


 きっと今日も、私は好きな人を眺めてしまうだろう。

 もし付き合えたら、恋人になれたら、どれほど嬉しくて楽しいか、妄想してしまうだろう。


 でも私は、彼と恋人になるつもりはない。


 だって私は彼のことが、高坂実くんのことが好きだから。


 高坂くんが不幸になる未来なんて、絶対に嫌だから。


 高坂くんには、幸せになってほしいから。


 だから私は、今日も自分の気持ちにふたをする。


 この恋が、永遠に叶わないことを願いながら。



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