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より正確にいうのであれば、『彼氏とかいらない系』ではなく

「正直さ―。マジで意外だったわ。」

「何が?」


私は思わず焼きそばから視線を彼女に向けた。

彼女は迷うことなく真っすぐと前を見つめている。


「サクってさ、うちらと遊んだり勉強する時はOKしてくれるけど、こういう男子絡みのってあんまり来るイメージなかったから。あぁ、彼氏とかいらない系なのかなって勝手に思ってた。」


それが、彼女からみたこの時代の私であり、その見解は少しも間違えていない。より正確にいうのであれば、『彼氏とかいらない系』ではなく、『彼氏とかいらない系をよそっていた系』に過ぎないが。

しかし、そんなこと恥ずかしくてとても言えない。

さてどうしたものかと返す言葉に迷っていると、今度はその瞳を私の方へとくるっと向けた。


「ねえ。何で急に彼氏欲しくなったの?人の恋バナ聞いてもさ、自分のはあんまり喋るタイプじゃなかったじゃんね。メイクとかも熱心に調べたりさ。何か心境の変化的なのがあったん?」


嘘は通じないとでも言いたげなその瞳に、何だか後ろめたさを感じて心の中に隠れこんだ。バレずに上手くやれていると勝手に自惚れていたが、どうやら自分が気付いていないだけで案外そうでもなかったようだ。

とはいえ、馬鹿正直に「実は中身は29歳なんです。気が付いたらこの時代にタイムスリップしてました。」なんて言えない。

心境の変化?

この時代の恋愛において後悔したから、今度は彼氏を作りたいと思いました。恋に恋してました。だから学園祭にも来たしメイクも聞きました。

何て、どう答えたらいいのだろう。

私はボールプールの中から特定の色を集めるように、沢山ある言葉の中から必死に彼女に伝えられる言葉と伝えたい言葉を紡ぎだした。


「周りでもさ、結構付き合ってる人多いじゃん。羨ましいって思ったのもあったし、自然にできていいなぁなんて思ってたの。

だけど、自然になんてできないんだよね。男女のどっちかが動かないとさ。うちのクラス男子少ないし、私は接点自体も少ないから。私が動かないと何も始まらないんだって、最近ようやく気づいたの。そのタイミングで今回誘ってもらえたからさ、自分が変わるチャンスかもって。だから、ここに来たの。」


たどたどしくも、これが今の私が出せる最適解。

この言葉をどう受け取るかは、もう彼女次第である。

気付けば目の前には1人の客しかいない。

呼ばれたいような、何か言われるまでは呼ばれたくないような。

複雑な心境を持ちつつ、彼女の方をちらっと見る。

すると、彼女は無敵に笑うのだった。


「そっか。何かサクのそういうの聞けて嬉しかったよ。

いっつもNOばっかりだったから、本当は誘われるのも迷惑なんじゃないかって思ってた。めげないで誘い続けて良かったわ~。」

「のんちゃん…。」

「絶対に良い人捕まえようね。

そしたらさ、ダブルデートしようよ。

あっ、4人に出来たら何デート?フォーデート??」

「流石に人数多すぎてヤバいんだけど。」


そう言って大口を開けて豪快にアハハという。

彼女はこうやっていつでも真っすぐに私に思いを伝えてくれていた。

だけど私は、彼女の真っすぐさからどうしようにもなく逃げたくて、投げてくれたボールを受け取ってはしまい込んでいたのだ。

それがこうして、彼女に暗い影を落とす一因になっていたことに、こんなにも時間を空けてから気付く。まだ、急に全てを打ち明けることは出来ないし、タイムスリップのことだって言えない。

それでも、これからはせめて受け取ったものを投げ返せる位には、真っすぐと向き合っていきたい。


少しでもこの気持ちを伝えたいと、「今までも誘ってくれてありがとう」と伝えた。

すると「嫌って言ってもこれからも誘うから」とどつかれながら答えてくれた。

こんな関係に、もっと早くになっているべきだったのかな。

何て思っていると、まるでタイミングを見ていたかのように焼きそばの順番が来た。予定通り2つ購入し、彼女たちの待つ教室へ笑い声と一緒に仲良く向かうのだった。


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