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今月パケ代ヤバイから

余談だが、この時代の動画投稿サイトというのは、

大抵MADや歌ってみたなどの投稿が主流で、

ストレッチをしたりメイクをしたりという動画はあまりなかったのだ。

SNSだって今程の発達もしていなかったし、

流行りを知る情報手段と言うのはかなり限られた状況だった。

あまりにも当たり前に私たちの生活に入ってきて、

気が付いたらそれがないと不便だと思うようになる。

そんな毎日に疑問を持たず慣れ切っていると、全てが無くなった時

私みたいに「あれ、どうしたらいいんだろう」なんて思ってしまう。

だから、こうして自分たちで試行錯誤をしながら頑張るというのも、

この時代にしかできなかったことなの知れない。

そうと思うと、なんだかそんな時間も愛おしい。


そして授業を終え、予定通り4人で図書室へと向かった。

ガララと少し軋むドアを開けば、本特有の匂い。

香りというよりも、個人的には匂いと言った方がしっくりくる。

決して嫌な訳ではなく、落ち着くというか、

「あぁ、暫くこんな匂い嗅いでなかったなぁ」という懐かしさ。


放課後に入ってすぐの図書室はあまり人が居ないので、

静けさと日の光が共存しているこの空間は何だか神聖さすらも帯びていた。


「あっ、あったあった!」


1人で感慨にふけっていると、

のんちゃんが早速入口付近に置いてあった10代向けの雑誌を手に取る。

他にも10冊ほどが並べられていたが、

そのどれもがあまりにも懐かしい顔ぶれて思わず

「うわっ!!」と声を上げてしまいそうになった。

もうぺちゃんこになっているクッションの椅子に腰かけ、

3冊ほど机の上に広げる。

ページをめくる度に、色々な情緒でぐちゃぐちゃになった。

もう倒産してしまったブランド。

今は大人路線に変更してしまったが、

デビュー当初は元気印が売りだった芸能人。

あり得ない位短いショートパンツ。


1ぺージ。また1ページと数字が増える度に、

自分の歴史もめくっているようだった。


そういえば、こうして図書室で雑誌を広げてみんなで見る時間なんて、

当時あったのだろうか。

いや、きっとない。

少なからず私が記憶する限りで、こんな時間は存在しなかった。そもそもファッション雑誌にさほど興味がなかったので、周りが見ていたとしても1人で携帯をいじっていたことだろう。この時間は中身が29歳の私だから出来た時間なのだと知ると、何とも言えない気持ちになる。


さて、雑誌を読み進めて分かったことは、この時代は眉毛が細めで、まつ毛はとりあえず盛れるもの。髪の毛は前髪を上げておでこを出すか、ピンでとめるのが流行っている。


なるほど、大体の系統は読めた。後は帰りに薬局に行ってプチプラを買いながら、何度も練習を重ねよう。当日の本番一発で顔面が事故らない程の高等技術を、今も昔も私は持ち合わせていないのだから。


そういえば、元居た時代って、動画を見ながら練習ができたし、ブルべとかイエベとか自分に似合う系統が分かった。何なら、アプリを開けばある程度のことが解決できる。それって、すごく恵まれてる環境だったんだな。

だけど2つの時代を体感したからこそ分かったことは、この時代も、前の時代も、どちらも自分が動かなければ何も変わらないということだ。

私は今やっと、その小さな一歩を踏み出そうとしている。


「やべっ!そろそろ部活行くわ!」

「あいよ~。あたしもそろそろ行くかな。

何かあったらメールしたり、メイクの出来が不安だったら写メって送ってー。」

「あっ、今月パケ代やばいから、私は写真要相談で!」


ドタバタと一気に慌ただしくなった3人に急いでお礼を言い、そのままそれぞれの道へと解散をする。先ほどまでの騒がしさが嘘のように一気に静けさが襲う。


外を見ると、まだ明るい。

その太陽の力も一緒に背負い込むように、少しだけ重いスクールバッグを肩にかけた。


「さて、行くか。」


そして私は家に帰り、暫くは鏡とにらめっこの日々が続いたのだった。

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