それから、まだなかなか慣れることのない授業を何とか耐え抜き、体育の時間を迎える。
生憎、我が校はとんでもブラック高校。
昼休みも検定などが近ければ、普段の態度や点数に関係なく勉強に駆り出されることもある。放課後は放課後でそれぞれ部活やバイトを抱えているので、案外4人全員が集まることというのは難しいのだ。
そこで一番ゆっくり話せるのが、この体育の授業。
体育なんて準備や試合で一件ドタバタしそうに見えるが、今日の種目は幸いにもバスケットボール。同じチームで組んでしまえば、他のチームが戦っている時は自由時間に等しい。この時間を狙って話をしようという作戦だ。
29歳の頃ではあり得ない位に体が軽いことを実感した準備体操を終えて、いざチームを組む時が来た。先生が「はい、じゃあ適当にチーム作って~」という今ではちょっと問題になりそうな発言をした後、わらわらとチームに分かれていく。
もう言われなくても大体「でしょうね」というメンツが固まっていくし、実際に私たちも、さも当たり前の様に4人で集まった。
バスケ部のカースト上位女子が手慣れた様子でトーナメント表を作成していく。
その間にボールを手に取り軽くバウンドをする人や、勝手にパスを出し合って遊ぶ人など、学生ならではの統一感のない時間が流れる。
そして、表が完成した頃合いを見て、一斉に視線がボードに向けられる。
どうやら私たちは2回戦に出場の様だ。
1回戦のカースト上位チームと、普段は大人しいが体育の時間になると豹変する不思議ちゃんチームの試合もなかなかに見逃せないが、この時間を過ぎると次いつ相談できるかも分からない。まずは予定していた通り3人に相談をしてみよう。
ピーっという笛の音でボールが投げられた後、ボールのダンダンという力強い音と、キュッキュという運動靴の音が響き渡る。
運動なんて、社会人になると自分の意志で動かない限りそうそうすることはない。体育は好き嫌いが特に分かれる授業だったが、良くも悪くもこの空気だってどうしようにもなく、今しか味わえないものだった。
試合の最中、私たちはゴール下で4人固まっていた。シュートが外れて飛んできたボールを拾っては「ファイト―」と言いながら投げ返したり、シュートが入ると「おぉ!」と言いながら拍手をする。ここは待機チームの定番場所である。
些か賑やかではあるが、日常会話の延長戦の様に何気なく会話を始めた。
「ねえ。聞きたいことあるんだけど、良い?」
「なにー?どしたん?」
「楽しい話?なに?恋バナ?」
「えっ!!さくのの恋バナ!?超聞きたい!!」
「いや勝手に進めないで。」
アハハっと笑い声を交えつつ軽快な会話を繰り広げながら、昨日脳内で繰り広げられていた疑問を少しずつ話す。3人は私が「メイクのことなんだけどさ~」と言った瞬間、シンクロナイズドスイミングでしか見たことのない様な息の合った視線をこちらに向けてきた。
昔の私、どんだけメイクに興味なかったんだよ。
そう思ったが、実際に興味がなかったのだからこの反応も致し方ない。
フォルダ分けされていないパソコンの様に、あまり要点のまとまっていない会話をあちらこちら繰り広げた所で、3人の顔を見つめた。ちゃんと言いたいことが伝わっているか不安だったが、ポンっとのんちゃんが手を叩いて私の方を真っすぐと見つめた。
「じゃあさ、図書室に雑誌読みに行かね?」
うちの学校には図書室に雑誌がいくつか置いてある。私とのんちゃんは昨年同じ図書委員だったので、その存在を知っていたのだ。
そして、それを聞いた他の2人も後に続く。
「あぁ、DanDanとか?も置いてるんだっけ。」
「そーそー。あそこら辺見て置けば大体わかるっしょ。」
「いーね。私もちょっと当日のメイク悩んでたから見ておきたい。」
「うちもー。終わったら即部活いかなきゃだけど、
適当に言い訳してちょっと遅れていくことにする。」
それ大丈夫?なんてちょっと笑いながら、話は放課後図書室に集まる方向に決まっていく。自分の言葉が否定されず、こうして協力的でいてくれる存在のなんと心強い事か。
みんなにお礼を言った瞬間、丁度よく笛の音とシュートの音が重なる。ブザービーター。今日一番の歓声が上がったのだった。