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近所のおばちゃんに「お昼天ぷらでも食べたの?」って言われることもあるくらい。

それから学校中を叩き起こすかのようにチャイムが鳴り、朝のHRが始まる。

今となっては大して歳が変わらなくなった担任が目の前に立っているのが不思議だ。


誰もが羨む窓際の席だったので、頬杖を突きながらこの特等席から外を見渡した。先生の話は一向に入ってこない。頭の中は学園祭のことでいっぱいだ。


男子高校生ばっかりの場所など行ったこともないので、今から緊張してしまう。ワクワクよりもまだ不安の方が大きい。中身はアラサーの女が男子高校生の巣窟に突っ込んでいくなど、無謀とも呼べる。学生時代にもっと異性に慣れていれば、こんなにも狼狽えることはなかったのだろうか。

そんなこと、今更考えた所でどうしようにもない。

今は当日までにやれるべきことをやるだけだ。

服装は後からみんなに聞くとして、後は…


あっ。そういえば、多分みんなメイクをしていくんだろうな。


クイズに正解できた時のような閃きが爽快に脳内を走る。勿論、私だってメイクなら社会人として毎日していた。濃すぎず、かといってすっぴんには見られない位のもの。俗にいう、オフィスメイクと呼ばれるものだ。

しかし、あの場所で求められるのはきっとこういうメイクではないのだろう。まつ毛も極限まで盛って、唇だってぷるぷるすぎる位に主張が激しいもの。

そうそう。

当時はプリクラのおまけにツケマが付いてくることもあったり、近所のおばちゃんに「お昼天ぷらでも食べたの?」って言われることもあるくらい唇はぷるっぷる。どこまでも華やかで、最強に強い。私はそれがどうしようにもなく眩しかった。


きっと、中身が前の私だったら何をしたらいいか分からず、当日もすっぴんで行ってたかも知れない。メイクをしないことが悪いことじゃない。すっぴんを否定したい訳でもない。

ただちょっとだけ、学生というのは大人びて見せたいのだ。学生時代が終わって社会人になったら、嫌でもメイク何て毎日しなければいけない。メイクをしないと「社会人ですっぴんはちょっと」と後ろ指をさされ、「やり方何て教えて貰ってない」と言った所で、言い訳や甘えと言われてしまう。

理不尽。そう、理不尽なのだ、世の中。


だから今のうちにたくさん大人びる。学生時代だからこそ、やっておきたいメイクをする。


きっとメイクは、なりたい自分になれる魔法だから。


よし、帰ったら早速メイク用品を買いに行こう。


…なんてことを、今日1日はただひたすら考えていたかったが、ここはなんせ検定取得特化型の高校。空想に割いている脳味噌の余裕など存在するはずもなく、HRが終わって以降は当時の自分がどれだけ頑張っていたかを、残りの時間だけでも嫌という程思い出すのだった。


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