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IN SUSPENSION(Ⅱ)

「いい話・・・・・・ですか?」


 ルチアーノの話に対し、怪訝な顔をして返すルイーザ。


「ああ。勿体ぶらずに話してしまうが、まあ君の処遇についてだよ」


 タバコを灰皿へと押し当てながら、ルチアーノが答える。


「私の処遇ですか?」


「ああ、そう身構えることはない。だと言っただろう」


「は、はぁ」


 ルチアーノの言葉にはどうも裏があるようにしか思えず、どうしてもルイーザの反応も曖昧なものになる。


「まったく疑り深いな。それかよっぽど嫌われているか。せっかくAの内定を出しに来てやったというのに」


「Aクラス・・・・・・?」


 ルチアーノの口から出た聞き慣れない言葉を受け、頭にクエスチョンマークを浮かべるルイーザ。というのも、ゾルチームには学年と寮以外に組み分けの概念は無く、ルチアーノの言うようなAクラスがどうたらという分け方など存在しないからだ。


「ああ。エクソシストの養成校を名乗る以上、優秀な者の輩出が至上命題だからな。そのためには、優秀な者とそうでない者をふるいにかける必要があるだろう?」


「・・・・・・」


 聞きようによっては優生思想じみてもいるルチアーノの考えに対し、反発したい部分もあれど、ルイーザは黙って話を聞いている。


「まあ君は当然Aクラスだって話をしに来ただけだ。私の手足として存分に働いてくれることを期待しているよ」


 それだけ伝え、席を立ち去ろうとするルチアーノだったが・・・・・・


「ちょっと待ってください」


「何だね?」


 ルイーザに引き留められ、やや不機嫌そうに振り返る。しかし、ルイーザとしては、先程から話を聞いていて感じた違和感についてルチアーノに確かめなければならなかった。


「Aクラスだか何だか解りませんが・・・・・・なぜ部外者に過ぎないあなたが学院の制度を?」


 先の集会に魔法省大臣であるマルトンジェッリと共に現われたことなどから、ルチアーノが魔法省もしくはマルトンジェッリ個人と何らかのつながりを持っているということは想像に難くない。


 しかし、学院はあくまでも独立した教育機関であり、内部の裁量について部外者にどうこうできる権限は無いはずだ。それこそ、大臣であるマルトンジェッリ直々にとかであればまだ有り得なくもない話だが、ルチアーノにその権限があるとは到底考えられない。


「ん? ああ、君にはまだ話していなかったか」


 ルイーザの問いかけた内容と自分の認識の間でズレがあることに気づいたのか、ルチアーノはまるで何かを思い出したかのように少し大げさな反応をしてみせる。


「次の四月から、ゾルチームの校長は私に替わるのだよ。これは大臣からの勅令で、既に決定事項だ」


 そしてルチアーノの口をついて出た言葉は、ルイーザにとっては到底信じ難いものであった。


「つまり、君みたいな素質のある生徒は、私にとって宝とも言うべき大切な存在だ。当然悪いようにはしないから安心してくれたまえ。まあ、そういう訳だ。これからも宜しく頼むよ、フランテ君」


 それだけ言い残すと、唖然として見送ることしかできないルイーザをよそに、ルチアーノはその姿をくらました。

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