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THE EMERGENCE OF TURBULENCE(Ⅲ)

 緊急招集がかかり、全校生徒がすし詰めに集められた大講堂。掲示版前での不穏な空気が尾を引いているのか、ざわざわと騒がしい様相だ。


「静粛に!」


 スピーカー越しにファリーニ教授の通る声が響く。舞台左下のスタンドマイクの前に立つ彼女は同時に手を叩いて、なおもざわめく生徒たちに注意を促している。


「えー、今朝の掲示版ですでに知っている者も多いと思うが・・・・・・」


 普段は歯に衣着せぬ物言いが特徴のファリーニであるが、今日は珍しく歯切れが悪い。一方、予感が的中した生徒たちのざわめきはなおも大きくなっていく。


「今度の試験での・・・・・・呪文実技は中止となった」


 ざわめき、絶句、悲鳴。集まった生徒たちの反応は様々だが、そのほとんどはこの件へのショックを示している。


 それもそのはず。呪文実技試験の中止。それはすなわち、今度の試験でエクソシストに選ばれる者がいないということを暗に示すに等しい事態であるからだ。アンジェラをはじめ数多くいる、この日のために訓練を重ねてきた生徒たちからしたら、少なからずショックを受けるのも無理はない。


「どういうことだー!?」


「ふざけんなー!」


 誰を皮切りにしてだろうか。行儀の悪い一部生徒たちの間からは怒号やブーイングまで轟き始める。


「静粛に!」


 鎮静を試み、ファリーニが一喝する。しかしヒートアップした一部の生徒たちの興奮は、もはやその程度でどうにかできるレベルではなくなってしまっていた。


 ギギィ・・・・・・。


 すると突然、生徒たちの後方から、大講堂の入り口である重いドアの開く音。


 カツカツとわざとらしく威圧的な足音を立てて入ってくるのは、だらしない肥満体型をグレーのベストで無理矢理押さえつけたチョビひげの中年男性。そのさらに後ろからは、チョビひげの男よりは少しだけ若いだろうか。銀の長髪を後ろで固めたスーツの男が、付き従うように入ってくる。


 両者とも学園関係者ではない。そんな彼らの登場に、後ろを振り向いた生徒たちは困惑の反応を示している。


 一方で、そんなことは知らぬ存ぜぬとばかりに興奮しきって、ヤジを飛ばし続けている生徒たちの姿も。


 そんな傍らの騒ぎに目線もやらず、壇に向かって中央の通路を歩いて行くチョビひげの男。彼は壇上への階段を登り始める間際、銀髪の男に向かい、目線で何やら一つ合図を送った。


 銀髪の男はそれに無言で頷くと、おもむろに杖を取り出す。その先端は生徒たちの方へと向けられていた。


痺れろパラリーシス


 そう呪文を唱えた銀髪の男の杖先から、黄緑色の閃光が放たれる。するとたちまち、生徒たちの身体は強烈な痺れに襲われその自由が奪われた。生徒たちの多くは立っていることすらもできなくなり、苦悶や嗚咽の声を上げ、床へと這うように倒れる。


「う、うぅ・・・・・・」


「アンジー!? しっかりして!?」 


 アンジェラもそのうちの一人で、ルイーザの隣で倒れ込み、身体を縮こませて苦しそうに呻いている。彼女の身を案ずるルイーザではあったが、身体中に奔る痺れに堪えきれず、その場に片膝をつくしかなかった。


「アイツは・・・・・・あの時の? どうして学園に・・・・・・?」


 ルイーザはあの銀髪の男に見覚えがある。北3番街での任務で出くわしたセイリオスのルチアーノだ。


「貴様・・・・・・! 生徒たちに攻撃呪文を放つとはどういう了見だ!?」


 壇の前ではファリーニがそのショートボブを振り乱して激昂し、ルチアーノへと怒声を上げている。今にも喰ってかからんほどの彼女の剣幕ではあったが、身体の痺れからか足を動かすことはできないようであった。


 そんな彼女を壇上から見下し、チョビひげの男がその口を開く。


「フン。貴様がもっとこの愚か者共を教育して置かないからだ。文句があるならワシの権限で貴様のクビを飛ばしてやってもよいのだぞ?」


「ぐっ・・・・・・」


 矛を収めざるを得なくなるファリーニであったが、奥歯を食いしばりチョビひげの男を睨みつけて無言の抵抗を示している。チョビひげの男はそんな彼女を見下し鼻で嗤うと、壇上のマイクを手に取った。


「さて。”どういうこと”だか知りたい輩もいるようだ。特別にワシが答えてやるとしよう。次期魔法省大臣であるこのワシ、マルトンジェッリ・グラード様がな」



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