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SECRET TALKS IN THE DARKNESS

 カランコロン。


 ゾルチーム北1番街。繁華街の外れの路地裏に潜むバー”プロチオーネ”。


 落ち着いた雰囲気のその店内では静かにグラスを傾ける者が大多数を占める中、静寂を破って響くドアベルの音が、銀の長髪をバックに固めた男の入店を告げる。


「いらっしゃいませ」


 バーのマスター。黒のベストと蝶ネクタイをビシッと着こなし、左目には銀のモノクルが輝く老紳士が、カクテルグラスを白いクロスで拭きながら入店した男の方へと顔を向ける。


「マスター、”エル・ディアブロ”だ」


 男はドリンクメニューの一つも見ることなく、入店早々にマスターへ注文を告げる。


「”エル・ディアブロ”ですね。お持ちしますのでへ」


 するとマスターはカウンター内部から出て、店の最奥で存在感を放つ古びた扉の方へと男を案内する。ポケットから銀色の鍵を取り出すと、慣れた様子で解錠し、軋むその扉をこじ開ける。


がお待ちです」


 すると男は、傍らで恭しくお辞儀をするマスターを一瞥し、その扉の奥の暗がりへと姿を消していった。


 ***


「遅かったなルチアーノ」


 明かりの一つも点いていない地下室。その暗がりでは、闇に紛れるような黒い外套を頭から被った一人の男が、ボロボロの木の椅子に座っていた。


「人を急に呼び出した挙げ句その言い草かい。それに、相変わらず明かりも点けず陰気臭い野郎だ。・・・・・・で、今度は何のようだ?」


 男の向かいに用意されたボロの椅子へと腰掛け、ルチアーノが問いかける。


「明日の夜。例の計画を決行したい」


 その痩せぎすの身体を覆うにはあまりにも大きすぎるその外套の下から、男は最低限の情報だけをルチアーノへと伝えようとする。


「明日? それはまた随分急な話だな。明日の夜動けるのはネーロの奴だけだぞ?」


 ルチアーノがその銀の髪をかき上げるようにして頭を掻く。


「ネーロは確かに名門ランツァ家の血を引く期待の新人ではあるが、まだ昨年学院を卒業したばかりで経験も浅い。とてもじゃないが大臣暗殺なんて任せられる力量では無いぞ?」


「どうせ俺が力の依り代として使うだけだ。誰だって構いやしない」


 外套のフードで顔の全てを包みこんでしまっている男の表情は、部屋の暗がりも相まって確認することはできない。


「貴様にとっても悪い話ではないはずだ。目の上のこぶがやっと取れるのだからな」


「だが・・・・・・」と複雑な表情で食いついたルチアーノの言葉は外套に阻まれ、男はその姿を一瞬にしてくらましてしまう。その瞬間だけ大きくめくれ上がったその外套の裏からは、大きな蝙蝠の翼がのぞいていた。



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