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BRAZING WOLF(Ⅱ)

「え? カルローネ教授!? このままじゃアンジーが危な……」


「平気だよ。まあ見ていたまえ」


 狼はすでにアンジェラをその間合いへと捉えており、もはや一刻の猶予もない。そんな中で反射呪文を阻害され動揺の声を上げるルイーザに反し、カルローネはあくまでも平然を崩さぬままだ。ルイーザは仕方なくその杖を収め、戦況を見守ることにした。


 アンジェラが迎撃に放つ”凍れイエロ”の青い光線は狼の燃え上がるからだに阻まれ、戦局はもはや絶体絶命の様相を呈している。


 狼がその大きな口を開き、揺らめくほのおの牙をアンジェラへと突き立てようとした、その時。


 突如として狼の姿が忽然と消えた。迎撃のために放たれたアンジェラの”凍れイエロ”の光線はその対象を失い、延長線上にいたイノチェンテの元へと真っ直ぐ向かっていく。


「へぶしっ」


 光線はそのまま無防備なイノチェンテへと命中し、青白い光の炸裂とともに雪の結晶がきらめき弾けた。奇しくも不意打ちをくらった形となり、間抜けな声を上げて後方へ倒れこんでしまうイノチェンテ。


 一方のアンジェラもいったい何が起きたのか判らないようで、ぽかんとその小さな口を開けていた。


 そんな中、カルローネが拍手をしながら両者の間に入っていく。往生際悪く杖を構えようとするイノチェンテのことをその視線だけで牽制しつつ、カルローネは口を開いた。


「いやぁ、いい”上位魔法”だったけれど、ちょっと魔力の使いすぎだね。この勝負はパペリー君の勝ちだ」


 カルローネによって試合終了の宣言がされ、顔を真っ赤にして悔しがりながらも、大人しく杖を収めざるを得なくなるイノチェンテ。


「あれ、カルローネ教授? いつからそこに?」


 目を丸くして小首を傾げるアンジェラ。どうやら当人たちは教授の接近には全く気づいていなかったようだ。


「いや失礼。実はカルファーニア君から”決闘用のローブがなくなった”って聞いて探しているところだったんだけどね。そうしたらいい試合をしているのを見つけたもので、ついつい見物に来てしまったよ」


 そう話しながらカルローネは笑っている。・・・・・・目以外。


「え、ベルトーニ? アンタ、これって・・・・・・」


 全員からの冷たい視線で針のむしろとなったイノチェンテは、ばつが悪そうにその顔を逸らす。


「はぁ・・・・・・。とりあえずそのローブは預かっていくよ。いいね?」


 有無を言わさずアンジェラとイノチェンテからローブを没収し、頭を掻いて大きな溜息をつくカルローネ。


「あ、あの・・・・・・えっと・・・・・・わたしはただ・・・・・・」


 静かに威圧感を放つカルローネを前に、歯切れ悪く弁明を試みるアンジェラ。


「ああ、良い”凍れイエロ”だったよ。”燃えよフエゴ”はまだ練習が必要そうだけどね」


 するとカルローネは一転して優しくアンジェラへと語りかけた。


「あ、ありがとうございます!」


 教授に褒められたアンジェラは思わぬ返しに目を丸くしながらも、嬉しそうにはにかんでいる。


「で、ベルトーニ君。あれを使いこなすには、大元の魔力量自体が不足しているみたいだね。地道な訓練で魔力量を鍛えることをオススメするよ。特に私の授業とかでね」


 カルローネは次にイノチェンテの方へと向き直り、今度は優しく語りかける。


「は、はい・・・・・・」


 イノチェンテはどう反応していいのか読みかねているようで、ただ歯切れの悪い返事をする。


「で、言いたいことは判るね? ちょっと寮長室まで来てもらおうか」


「は、はい・・・・・・」


 カルローネの表情からまた笑みが消え、イノチェンテは蛇に睨まれた蛙のように縮こまる。そのまま大人しくカルローネへと連行されていく。


 すると去り際にカルローネはルイーザの横を通り、一言耳打ちしていった。


「ああそうだ、フランテ君。カルファーニア君が別件で探していたよ。ずいぶんと眠そうなようだが……まあ頑張ってくれたまえ」


「あ、はい……。分かりました……」


 また出撃か・・・・・・。カルローネとイノチェンテの姿が見えなくなったことを確認すると、ルイーザは眠い目をこすりながら溜息を吐いた。

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