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DROWSY AFTERNOON PRACTICE(Ⅰ)

 翌日の2限終わり。


 結局十分な睡眠時間を確保することなどできるはずもなく、廊下を歩くルイーザの口からは自然と大きな欠伸が漏れ出でてくる。


「ルー、おはよう!」


 そんなルイーザとは対照的な、アンジェラのとても元気に満ち溢れた声が後ろから響く。勢いそのままに左肩を叩かれ、ルイーザは重くて動きの悪い首でゆっくり振り向いた。


「おはよう……アンジー……」


「ルー、クマすごいねー……。昨日も任務だったんだっけ? 大丈夫……?」


 ルイーザとアンジェラは寮のルームメイトだったはずだが、夜ルイーザが出かける時も帰ってきた時もびっくりするほどよく寝ており、ルイーザの出入りには全く気づいていないようだった。


「まあ、なんとか……そりゃクマもできるわよね……」


 悪魔側からすれば人間の生活習慣なんか知ったことではないので、当然夜だろうがお構いなく現われる。そうなれば当然エクソシストにも出撃の命令が下るのは自明の理だ。


 これが社会人で構成されるエクソシスト組織であれば昼夜で担当を分けて配置するという役割分担をしているのが一般的だ。しかし学生である以上、授業には出席しなければならないというのが学生エクソシストの辛いところだ。いや、必要単位数を逆算して上手く立ち回れば休めないこともないのだが、ルイーザの性格的にそれは難しいようだった。


 これでも年頃の女子として、ルイーザ自身も今の自分について思うことが無くはない。しかし、ブラック企業顔負けの過酷な環境の前では、化粧での誤魔化しにかけるような時間があったら、その分1分1秒でも長く寝ていたいという気の方が勝ってしまうという有様であった。


「ねぇ、ルー? そんなお疲れのところに大変申しわけないのだけれどー・・・・・・。放課後、呪文の練習に付き合ってくれない……?」


 申し訳なさそうにしながらもルイーザのことを上目遣いで覗き込んで、両手を合わせてねだるように頼み込んでくるアンジェラ。


 12月の冬期試験まであと2週間。冬期と夏期の両試験では、座学の筆記試験の他に、呪文の実技試験も行なわれる。エクソシストに選ばれる生徒の中には、この試験での呪文実技で力を見初められた者も多く存在する。


 そんなエクソシスト志望の生徒にとってのとても重要な試験ということで、アンジェラは張り切って日々自主練習に励んでいた。


「いいわよ。3限終わったら中庭行きましょ」


 正直断って1秒でも早く部屋に帰って寝たい……というのが偽らざる本音だ。しかし、他ならぬアンジェラの頼みということで、ルイーザはその頼みを受けることにした。


「ありがと、ルー! じゃあ練習に備えて次の授業でちゃんと寝とくんだよ?」


「アンジーじゃあるまいし、そんなことしないわよ・・・・・・」


「あ、ひどーい」


 ***


 そうして始まった3限の歴史学。


「宙を・・・・・・裂き・・・・・・降り・・・・・・そ・・・・・・まるで天使が・・・・・・き裂き・・・・・・喰ら・・・・・・れはま・・・・・・悪魔・・・・・・録も乏・・・・・・り・・・・・・々を脅・・・・・・形の怪・・・・・・詩の・・・・・・らえ・・・・・・つからか・・・・・・共は悪魔・・・・・・」


 必死に眠気に抗おうとするも、結局船を漕ぐことになってしまったルイーザなのであった。

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