4時の方角からの赤い光線により、悪魔の身体から火柱と黒煙が上がる。
「ふん。何こんな奴に苦戦してんだ?」
ルイーザが光線の飛んできた方向に目を向けると、そこにはしたり顔で杖を構えているイノチェンテの姿。
「ベルトーニ!? 何でここに!?」
悪魔の出現情報はルイーザとダリエントの二人以外には知らされていないはず。仮にカルファーニアが増援を手配したのであったとしても、エクソシストの資格も持たないイノチェンテを選ぶはずはない。
「ふん。お前たちには関係ねーよ」
ルイーザの疑問に答える気はなさそうなイノチェンテ。今はそれよりも悪魔の方だ。
「ったく。エクソシスト様が二人も揃って、何あんなのに苦戦してんだ?」
黒煙に包まれる悪魔の姿を見て仕留めたと確信したのか、杖を下ろしてこれ見よがしに勝ち誇るイノチェンテ。
しかし、徐々に収まっていく黒煙の中、ルイーザの目は緑色の光をうっすらと捉える。その光は、イノチェンテの方を向いていた。
「まずい!」
ダリエントも異変に気づき、大声を上げる。
しかしその後間もなく、悪魔はその魔法で風の刃を放ち、それは黒煙を切り裂くようにしてイノチェンテ目掛けて飛んで行った。
「バカ! 避けて!」
「え?」
すっかり油断しきった様子のイノチェンテ。ルイーザの声によって初めて飛来する刃に気づいた頃にはもう、それは回避も防御も間に合わない距離にまで迫っていた。
太刀で大きく袈裟斬りにされたように血飛沫を上げ、力なくその場に倒れこむイノチェンテ。
「フランテ君は彼を応急処置して学院へ! ここは僕がなんとかする!」
「わかりました! "
緊急事態にあっても、冷静に的確な判断を下すダリエント。ルイーザはその指示に従い、大量出血しているイノチェンテの傷口に硬化の呪文で応急止血処置をする。
「ではダリエント先輩、あとは頼みました。どうかご無事で」
「ああ、大丈夫」
悪魔の相手をダリエントに預け、イノチェンテごと移転魔法で学院に戻ろうとしたその時。
「その必要は無い。”
どこからか男の声と呪文が聞こえたと同時に、悪魔の骨と魔力だけの身体は、一瞬にして粉々に砕け散ってしまった。
「すご・・・・・・」
間近で悪魔と対面していたダリエントも、思わず感嘆の声を上げる。
「さて」
現われた男はルイーザたちもよく知る人物だ。任務地での初会合をはじめ、集会での出来事などから好ましい人物とは言い難い。ルイーザは杖を構えて警戒しながら、その男の方へと身体を向ける。
「なぜ君たちがここにいる? 学院にエクソシストの派兵権は無いはずだが?」
男、もといルチアーノはその長身で三人を見下ろしながら、威圧的に告げる。
「あなた達がくるのが遅・・・・・・」
元はと言えばセイリオスがエクソシストを寄越さないから回ってきた仕事だ。それなのに偉そうに言ってくるルチアーノの態度にムッとし、思わず反論するルイーザの口を、ダリエントが左手を上げて塞いだ。
「カルファーニア教授の指示で、不在のあなた方の代わりに参りました」
あくまで淡々と平静に、ルイーザの弁を引き継ぐダリエント。
「そうか。優先順位が下だっただけで、行かないつもりではなかったんだがな・・・・・・。どうやらいらん心配をさせてしまったようだ」
その言葉尻に反し、ルチアーノは悪びれる様子もない。
「だが、その結果がこれでは世話無いな。しかも、そこに転がっている
ルチアーノの言葉に反応してか、イノチェンテの眉がぴくりと僅かに動いた。
「役立たずって・・・・・・? あなたにコイツの何がわかるんですか!?」
そのあまりの言い様に、思わず感情的に詰めるルイーザ。イノチェンテのことは好きではないし、なんなら嫌いな部類だが、だからといって負傷しているところを悪し様に蔑まれるのは気分の良いものではない。
「何って、
あくまでも平然と答えるルチアーノ。
「父さ・・・・・・申しわ・・・・・・」
すると、意識が戻ったのか、イノチェンテがか細い声で話し始める。
「まあいい。
しかし、ルチアーノはイノチェンテの方には視線の一つも向けなかった。
「学院に戻ったらカルファーニアの奴に伝えておけ。”処分を楽しみに待っていろ”とな」