黒き空と白き大地のみが一面に拡がる荒廃した空間。両者が交わるはず地平線は、崩れ落ちるかのように歪に溶け合っており、この世界の終わりを暗示しているかのような光景だ。
「ggggrrrrraaaaaaagggaaa!!!!!!!!!」
視界を遮る物の一つすら無いその大地には、おおよそ地上生物には有り得ないような体躯にまで肥大化した異形の魔獣の姿が一体、
びちゃ。びちゃ。
轟音の余韻が去ると、一転して無音の世界が訪れる。そこでは魔獣の垂らす体液が白い砂へ垂れる音だけが響いては消える。その垂れる液体が涎か血か、あるいは他の何かなのか。色の無い世界にあっては知る術も無い。
「uuuuuggggggggrrrrrrrraaaaaaa!!!!!!!!!」
再度轟く咆哮とその余韻。そしてまたそれが過ぎ去り、訪れる静寂。
びちゃ。びちゃ。びちゃ。
どさり。
静寂の中、何かが高所から落下する鈍い音が一瞬響いた。
「AAAAAAAHHHHHHH」
新たな命を産み落とすと、魔獣はまるで力尽きたかのようにその動きを止める。対してその足元の新たな命は、何かから解放されたかのごとき咆哮を上げていた。その姿形は、一見ニンゲンのそれに近しいだろうか。
「やはり、本調子とは程遠いか・・・・・・」
その上空には、黒い空に溶け込む大きな翼を拡げた痩せぎすの男。男は地上の様子を見下ろし、表情も変えずに何かを呟いていた。
「この世界に残された時間は少ない・・・・・・か・・・・・・」
そう一言だけ零すと、男はその翼を羽ばたかせ、漆黒の空の果てへと溶けるように姿を消した。