「教授の言ってた座標はこのあたりだね」
カルファーニアからの指示に従い、北3番街へと到着したルイーザとダリエントの二人。上空では”裂け目”がすでに開ききっており、悪魔が降り立った後であることを示している。
しかし街の人々や施設が襲われた形跡などはない。パニックなども起きておらず、街の様子は至って落ち着いたものであった。
「あ、あそこに悪魔と・・・・・・誰かいます!」
何かを見つけたルイーザは前方を指さし、ダリエントに呼びかける。
ルイーザが指さした方向にある広場にいたのは、痩せぎすの狼のような見た目をした10体ほどの悪魔の群れと、対峙するサラサラの銀髪を長く伸ばした男性。杖を手にしているのを見るに、彼もまた魔法使いであろう。
彼は二人の気配に気づくと、こちらへ振り返り、無防備にも敵に背を向けて話をし始めた。
「その制服は……ゾルチームの学生さんか。どうしてここに・・・・・・いや、カルファーニアの奴の差し金か。最近働いていないからと、随分心配されているようだな」
先程までは睨み合いの様相で出方を伺っていた悪魔たちであったが、これだけの大きな隙を晒してしまえば、見逃してくれるほど優しくはない。
「は、はじめまして。ってそれよりも後ろ!」
牙を剥いた悪魔たちが、無防備な男の背中目掛けて一斉に飛びかかる。まさか気づいていないのだろうか? 彼はそれに対処する素振りも見せない。男の身を案じ、杖を取り出すルイーザ。
すると男は振り返りもせずに言った。
「心配はいらない。
飛びかかった悪魔たちの牙が、彼の首筋をあとわずか数十センチのところにまで捉えたときだった。悪魔たちの身体はその牙先からみるみるうちに凍り付いていき、跡形もなく砕け散ったのだった。男の後ろでは氷の欠片と成り果てた悪魔だったものが、粉雪のように風に舞って煌めいている。
「おぉ……」
その見事なまでの光景に思わず感嘆の息を漏らすダリエント。
先陣を切った数体が理不尽にも粉雪へと変えられ、残りの個体たちは怯んでいるようだ。及び腰で男の周辺を遠巻きにして威嚇をするので精一杯の様子だ。
そんな悪魔たちの様を確認してか、男はルイーザたちに言った。
「せっかく来たんだ。あとは君たちの手柄にするといい。どうせカルファーニアの奴は呪骸集めにご執心なんだろ? もっとも、こんなカスから獲れたものがいったい何の役に立つのか判らんがな」
すると彼はゆっくりと戦線から離れ、まるで見物でも決め込むかのように、誰もいない近くのカフェのテラス席へと腰掛けてしまった。
困惑して顔を見合わせる二人だったが、しばらくしてルイーザが杖を構える。
悪魔たちは相手が変わったからか少し戦意を取り戻し、身を低く構えて臨戦態勢に入ろうとしていた。
「”
すかさずルイーザは呪文を唱え、その風の刃で悪魔の群れをなぎ払う。真一文字に切り裂かれた悪魔たちは、古い血の塊のように赤黒い色をした呪骸の小さな欠片のみを残し、灰となって跡形も無く消滅した。
「もしかして・・・・・・君が噂のフランテ・レアンドロの娘か」
テラス席の方向から拍手とともに男の声が聞こえる。
「はい。私はフランテ・ルイーザといいます」
先程までのどこか気怠げな様子から一変し、男はルイーザに興味の視線を向けている。そんな彼に少し警戒感を抱かないわけではなかったが、ルイーザはとりあえず名乗っておくことにした。
「ルイーザ君だね。早速で悪いが、学院を抜けて”セイリオス”に入る気はないか?」
すると、男の口をついて出たのは衝撃の一言であった。