眠い目を擦り、あくびをしながらカルファーニアの研究室へと歩いて行くルイーザ。
建て付けの悪い研究室の扉をこじ開けると、そこにはルイーザと同じく寝不足であろう二人の先客の姿があった。その二人とはもちろん、未明にここで解散したばかりのカルファーニアとダリエントだ。
「早かったな・・・・・・。今度は北3番街だ・・・・・・」
ルイーザが入ってきたのを見つけ、カルファーニアが抑揚の無い声で話し出す。
尋常じゃないまでのエスプレッソの香りをたたえ、文字通り黒々としたコーヒーをすすり、顔をしかめるカルファーニア。その右頭頂の寝癖のハネ方も、明け方に見たものから一切変わっていない。
「北3番街? その辺りは”セイリオス”の活動範囲では・・・・・・?」
同じく黒々しい液体の入ったマグカップを持ち上げながら、ダリエントが口を挟む。しかし鼻に突き刺さるカフェイン臭に負けたのか、口をつけることなくカップをテーブルへと戻した。
「”セイリオス”?」
聞き慣れない単語に疑問を投げかけるルイーザ。
「ゾルチーム北部に拠点を置いて活動する民間のエクソシスト組織だよ。うちの卒業生なんかも多く在籍している有力な組織さ・・・・・・ふわぁ」
ダリエントは眠そうに解説を済ませると、隠す気もなく大あくびをする。
「ああ。だが奴らは報酬の低そうな相手には対応が遅いという問題があってな・・・・・・。来るか来ないか判らない奴らをあてにするよりは、先に手を打っておくべきだろう。誰も来なくてそれで被害者が出るのがエクソシストとして一番最悪だからな・・・・・・」
そう話し始めたカルファーニアが苦虫を噛み潰したような顔をしているのは、苦すぎるコーヒーのせいだろうか。
「ついでだ」とカルファーニアから同じものが入ったマグカップを渡されるが、あまりの濃さに舌が受け付けずルイーザはそのままカップを置いた。
「事情は判りましたが・・・・・・たまには僕たち以外の誰かでもいいんじゃないですかね・・・・・・?」
ダリエントは眠い目を擦り、ぶつくさと文句を言っている。
「仕方ないだろ。これでも命のやり取りなんだ。少しでも優秀な者を派遣するのがベストだろう」
「そうですか・・・・・・お褒めにあやかり光栄でございますね」
頭を掻いて、ソファより立ち上がるダリエント。長く座っていると危うく寝てしまいそうになるので、ルイーザも彼に倣って立ち上がった。
「じゃあ眠いけど、早く行くとしますか。フランテ君」
「そうですね・・・・・・。行きましょう、ダリエント先輩」
両者とも”
巻き起こるつむじ風により、床に散乱した書類が宙を舞う。
「まったく、アイツら・・・・・・。『”
散らばった書類をかき集める気力も起きず、ただその場でボサボサの髪を掻くだけのカルファーニア。
「ルチアーノの奴・・・・・・何やら怪しい噂もあるが、果たしてどうなのやら……」
すっかり冷め切ってしまった黒い液体を飲み干し、カルファーニアはひとり呟いた。