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UNREASONABLE DUEL(Ⅰ)

「うげー。何しにきたの? ベルトーニ」


 招かれざる客の登場を受け、露骨に顔をしかめるアンジェラ。


「ふん。次エクソシストに選ばれるのはこの俺様だからな。お前のコソ練なんか無駄だって教えに来てやったんだよ」


 根拠のない自信に満ち溢れている様子のイノチェンテ。今日も今日とてアンジェラへの風当たりは強めだ。


「ちょっと。アンジーの練習の邪魔しないでくれる?」


「うるせえ。で選ばれただけの癖に調子に乗ってんじゃねえぞ」


 寝不足のせいもあっていつもよりご機嫌斜めのルイーザと、そんな彼女にいつものごとく噛みついてくるイノチェンテ。


 実はベルトーニ家は代々エクソシストを輩出している名門であり、彼イノチェンテはその長男である。そんなエリート街道を歩むことが約束されているべき彼にとって、ルイーザに先を越されてしまっている今の状況は大変気に入らず、屈辱的なものであった。


「何、ルーに勝てないからって言いがかり? ダサッ」


 顔を真っ赤にしてルイーザに噛みついているイノチェンテの様を見て、アンジェラがボソりと零す。


「あぁっ? 落ちこぼれ風情がデカい口きいてんじゃねぇ!」


「誰が落ちこぼれよ!? アンタなんかに言われる筋合いないわ」


 当然のごとく顔を真っ赤にして憤激するイノチェンテ。しかし今日はアンジェラも負けじと応戦している。普段温厚な彼女にしては、こんな姿は珍しい。


「はいはい、二人ともちょっと落ち着いて・・・・・・。で、ベルトーニ。アンタは結局何しに来たのよ……?」


 自分が場を収めないと大事になりそうな気配を感じ、ルイーザはしぶしぶ間へと入る。そもそも、この瞬間湯沸かし器を何とかしないと一向に話しが前に進まない。


「決闘だよ。そこの落ちこぼれの努力が無駄だと教えに来たと言っただろう?」


「何それ、くだらな・・・・・・。そもそも決闘は校則で禁止されてるじゃない?」


 ルイーザの脳裏に、先月の基礎戦闘術の授業での苦い記憶が蘇る。また巻き添えを食らうのはまっぴら御免だ。さすがにいくら眼前の人物が単細胞でも、喉元過ぎて熱さを忘れたわけではないと思いたいが……。


「ふん、それは無許可の場合だろ? これを見やがれ」


 意気揚々と、右手に提げた大げさなトランクケースから、二着の白色ローブを取り出して見せるイノチェンテ。


「決闘用ローブだ。ちゃんと生徒指導部の許可だってある」


 決闘用ローブ。学生同士が演習で決闘する際に、そのダメージを軽減するために用いられる、カルファーニア作のローブのことだ。主に戦闘術の授業もしくは学園祭の寮対抗決闘大会の際に、魔法による身体へのダメージを抑える目的で用いられる代物であるが、イノチェンテはそれをわざわざ借りてきたらしい。


「はぁ・・・・・・わざわざそんなもの借りてきたの?」


 何が彼にそこまで突き動かすのか。ルイーザにはまるで分からず、思わず溜息が混じる。


 まあでも仕方がない。半ば諦めるようにしてルイーザが片方のローブを受け取ろうとすると・・・・・・。


「おっと、相手はお前じゃねえよ。パペリー! 俺様と決闘しろ!」


「え、私!?」


 アンジェラが驚きの声を上げる。


「ああ、今コイツに勝ったって『寝不足のせい』だとか言い訳されるだろうからな。いいからさっさとこれを着やがれ」


 アンジェラ側の意思などお構いなしだと言わんばかりに、イノチェンテからローブが投げつけられる。仕方なくそのローブへと袖を通すアンジェラであったが、心底嫌そうな様子だ。


「よし、いいからさっさと位置につけ。二度と『エクソシストになりたい』なんて言えないようにしてやるからな」


 対するベルトーニも、自身の分のローブにへと袖を通す。そして中庭に設置されている演習用の決闘リングの内側へ歩みを進めると、どこから来る自信なのか。不遜な笑みを浮かべてアンジェラの入場を待ち構えていた。

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