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DROWSY AFTERNOON PRACTICE(Ⅱ)

「結局魔法史の授業撃沈だったね、ルー」


 3限の魔法史の授業が終わり、放課後。ルイーザにこう話したアンジェラの顔には、少し意地の悪い笑顔が浮かんでいた。


「これでも努力はしたのよ……でも、寝不足にジョルジ教授の話は無理ね…・・・」


「あはは。の異名は伊達じゃないねー」


「本人は至って真面目に授業してるだけだけどね……」


 そんな他愛もない話をしているうちに、目的地である中庭へと到着した二人。


 二人の目の前には、先の基礎戦闘術の授業で用いたものと同じ、演習用人形が一体だけ寂しく佇んでいる。この演習用人形は生徒の自主訓練用に常設されており、基本的には自由に練習台に使うことが許されているのだが・・・・・・それには一つだけがあった。


「じゃあいくねー! ”燃えよフエゴ”!」


 杖を構えて早速”燃えよフエゴ”を唱えるアンジェラ。杖先から放たれた紅色の光線は真っ直ぐ人形へと向かって行き、着弾するとにわかに火柱を上げ弾けた。


「お、だいぶ良くなってきたじゃない! その調子ね」


 ルイーザは小さく拍手をしながら、アンジェラに励ましの声をかける。


 アンジェラの"燃えよフエゴ”をくらった人形は大きく焦げ付いてこそいるが、その形が崩れるまでには至っていない。


 人形の耐久性は大体、一般的な小型悪魔のそれに合わせて作られている。それを一撃で大破させることができるかどうか。これが呪文の威力を測る際の一つのバロメーターであった。


 要するに、アンジェラの火炎魔法はまだまだ実践レベルとは程遠いのだが、それでも短期間での努力の成果としては目を見張るものであった。


「そう? じゃあ、例の……頼んでもいい……?」


「もちろんよ。”修復リパール”」


 眠そうなところを付き合わせているという自覚からか、少しだけ申しわけなさそうにしているアンジェラ。


 対して嫌な顔一つせずにルイーザが呪文を唱えると、人形の焦げ跡は綺麗さっぱりと消えてなくなった。


「ごめんね、私まだ”修復リパール”使えなくてさー。ルーに頼まないと人形使わせてもらえないんだよね……」


 そう。前述のというのがこれ。「”修復リパール”を使える者がいること」だ。


 もともとこの人形は、魔法技術教授のカルファーニアが開発品を生徒の訓練用に提供した物だ。しかしいざ設置されると、サンドバッグにするだけしてそのまま放置する不届き者が多発する事態を生んだ。


 生徒指導のファリーニが見つける度に修復するのが、もはや彼女のルーティンワークと化していたのだが、ある時彼女の堪忍袋の尾が切れ、校則に付け加えられた。


「アンジーの頼みならいつでも付き合うわよ。気にしないで」


 人形の修復を終え、再びベンチへと腰掛けるルイーザ。冬の足音が着実に迫っている季節とはいえ、直射の日差しは寝不足の彼女をうたた寝にいざなうには十分過ぎる温かさだ。


 都度人形を直しつつ、合間に日の当たるベンチでうたた寝するという流れを繰り返して、何十分か経った頃だろうか。


「相変わらずショボい火力だな。そんなんじゃエクソシストなんて一生なれねーだろ」


 招かれざる客の乱入が、二人の穏やかな時間に終わりを告げたのであった。

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