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FREEDOM OF THE PRESS(Ⅰ)

「あ、ルー。お疲れー!」


「ありがと。アンジー」


 薬学の授業が終わり次の教室へと移動中のアンジェラと合流したルイーザ。土産話を期待しているのだろうか。手を振ってくるアンジェラの目はキラキラしている。


「いやー、あの炎の輪の魔法すごかったねー!? あれだけの数の悪魔の群れを一瞬で片付けちゃうんだから!」


「いや、別にあれくらい……って、何で知ってるの・・・・・・?」


 アンジェラは学校に残って薬学の授業を受けていたはず。なぜルイーザたちの戦闘の様子を知っているのだろう?


「え? あ、ほ、ほら。”エミちゃんねる”で『注目のルーキーのデビュー戦 緊急生中継!』ってライブ配信やってたから……つい、ね……?」


 ”エミちゃんねる”。モネータ寮の2年生、エミリー・ジョヴァンナがと称して勝手に行なっているテレパシー放送のことだ。


 彼女が得意魔法である「千里眼セギード」を駆使して得た映像を、テレパシーとして希望者の視覚に直接送りつける。それにより、相手がどこにいようが密着ドキュメンタリーの撮影と配信を行える……要するにストーカーまがいの盗撮映像の配信行為だ。


「ああ、あの悪名高い『盗撮のエミリー』先輩ね……。まあ、別にそれはいいんだけど……ちゃんとノートは取ってくれたのよね・・・・・・?」


「ぎくっ」


「アン・・・・・・ジェラ・・・・・・?」


 あまりにも分かりやすく上がったアンジェラの肩のおかげで答えはもう火を見るよりも明らかなのだが・・・・・・。ルイーザは一応彼女からの回答を待つことにする。


「いやー……それがですねー……。ルーの勇姿を見届けるのについ夢中になっちゃってー……。全然授業聞いてませんでした。ゴメンね」


 頭を掻きながら、「あはは」と乾いた笑みで誤魔化そうとするアンジェラ。


「だと思ったわ・・・・・・。授業はちゃんと聞きなさいよ……」


 そんな親友の様子を見て、思わず溜息が漏れるルイーザ。しかしそんな呆れるルイーザをよそに、アンジェラはまた何かを受信したのか、急に「あっ」と声を上げた。


「あれ? またライブ配信やってるよ。どれどれ? 『あのスーパールーキーの一日に密着! 全編ノーカット生中継!』……え、これ許可出した……訳ないか」


 アンジェラが読み上げた配信タイトルを聞いても一瞬何のことだかピンと来なかったが、しばらくして意味が分かると戦慄するルイーザ。


 今こうしている間も撮られ続けているのだろうか・・・・・・? そう考えると気が遠くなる。そして、全編ノーカットということはプライバシー排泄と入浴も含まれているのだろうか? もしそうだとしたら恥ずかしすぎて、もう二度と人前に出られない。


「・・・・・・ちょっと放送部の部室行ってくるわね」


「あ、待ってルー!? 授業もう始まっちゃうよー!?」


 アンジェラの慌てた声が背後から聞こえるも、もはや一刻の猶予も無い。自らのを守るため。ルイーザはモネータ寮棟併設の放送部部室棟へと歩みを進めた。 

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