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THE WHEEL TRACKS OF BRAZE(Ⅰ)

「ルー、肩大丈夫・・・・・・? なんかごめんねー、わたしのせいで」


 ルイーザにとってはとんだ災難となった基本戦闘術の授業が終わり、廊下を歩くルイーザとアンジェラ。縛られた腕が背中の方向に引っ張られ続けていたせいで、今でもまだ肩が痛い。


「だい・・・・・・じょうぶ・・・・・・。アンジーのせいじゃないから気にしないで・・・・・・」


 ルイーザは肩を前後に動かしたり回したりして動きを確かめながら、アンジェラへと返事をする。とりあえず折れたり外れたりはしていなさそうだ。


 そんなことにルイーザが一安心していると、突然の魔力反応と共に、脳内に直接響くような声が聞こえた。


「任務だ、フランテ・ルイーザ。至急研究室まで来るように」


 要件を一方的に伝えると、すぐに声は聞こえなくなり、魔力反応も消失した。


「どうしたの、ルー?」


 突然、何か変な電波でも受信したかのようにその場で立ち止まるルイーザの姿を見て、アンジェラが心配そうに声をかけてくる。


「あ、いや・・・・・・。どうやら私、任務に呼ばれたみたい・・・・・・」


 任務の呼び出しってこんな感じなのか・・・・・・。何だか拍子抜けしてしまい、アンジェラへの返事も心なしか気が抜けたものになってしまう。


「え、そうなの!? おめでと、ルー!」


 そんなどこかぽかんとした様子のルイーザとは対照的に、アンジェラは自分のことのように喜んで拍手をしている。


「あ、でも次の薬学どうしようかしら・・・・・・?」


「大丈夫、わたしのノート後で見せてあげるよー。まあ、戦闘術の後だから寝ちゃうかもしれないけどね・・・・・・」


「は、はぁ・・・・・・。じゃ、じゃあお願いねアンジー。行ってくるわ」


「任せて! 行ってらっしゃい、ルー! 気をつけてねー」


 アンジェラに手を振られながら、カルファーニアの研究室の方へと向かっていくルイーザ。


 途中でふと振り返ると、アンジェラは眠そうに小さく欠伸をしていた・・・・・・。


 ***


「失礼します」


 建て付けが悪くて軋む扉をこじ開け、カルファーニアの研究室へと入るルイーザ。


「ずいぶん遅かったな。まあいい。適当に座ってくれ」


 出迎えたのは、黒ローブの下から白衣が覗くといういびつな服装をした長身の痩せ男。肩口まで伸びた青い髪はボサボサで、無精ひげも生やしている。


 研究室の床には、ルイーザには何に使うのかもまるで分からないような機材やガラクタが、所狭しと転がっている。「座ってくれ」といわれても座れる場所がなかなか見つからず、仕方なしに唯一上に物が乗っていない、クッションの一つも無い固くてガタガタの木製イスへと腰掛けた。


「”魔検知の陣デ・テクシオン”によると、東2番街に”裂け目”の出現兆候がある。まあ反応からして、どうせまた雑魚だろう。ルーキーの腕試しにはうってつけかと思ってな」


 カルファーニアの指差す先には、地図を映した大型スクリーンの上に展開されている魔方陣。その地図上では東2番街を示す座標が赤く点滅反応をしていた。


「はい、わかりました!」


 初任務の緊張感から両の拳を無意識に強く握りしめながらも、カルファーニアを見据えてしっかりと返事をするルイーザ。


「いい返事だ。まあ初任務ということだし、一応スパーダ寮三年のダリエント君にバディ役を頼んでおいた。スパーダ寮棟のロビーで落ち合うといい」


「ありがとうございます」


「最悪ダリエント君が一人でなんとかしてくれるだろうから、気楽に行ってくるといい」


 それだけぶっきらぼうに言うと、カルファーニアはルイーザに背を向けてモニターの監視作業に戻ってしまった。


 そんな彼を尻目にルイーザは研究室を退室し、にわかな不安と緊張を胸にスパーダ寮棟のロビーへと向かった。

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