昨日の任命式のどこか日常離れしたような空気感から一転。新しい朝を迎えた校内の空気は、何ら変わりのない穏やかな日常へと戻ろうとしていた。
昨日までと異なる点は、ルイーザの制服のローブで輝く白銀の斜め十字の勲章の存在くらい。これはルイーザが正式にエクソシストの一員として認められたことを意味するものだ。
いつも通り月曜一限の基礎戦闘術の授業へと向かうルイーザ。特に今何があるというわけではないのだが、内心どこか地に足が着かないような落ち着かなさがあった。
エクソシストには、担当地域に悪魔が出現した際に出撃指令が下ることがある。学院においてその役目は魔法技術教授のカルファーニアが担当しているのだが、問題はそのタイミング。当然悪魔側はこちらの都合など考慮してくれるはずもないので、いつどこで呼び出しがかかるかまるで分からないという状況は、まだそれに慣れないルイーザにとってそれなりに緊張を煽るものであった。
「昨日はおめでとう、ルー! って、どうしたの? 難しい顔しちゃって?」
一人相撲で勝手にソワソワしていたところへいきなり後ろから声をかけられ、ルイーザはビクッと振り返る。
透明感のある流れるようなラベンダーブルーのロングヘアーと、ほのかに漂うポプリのような香り。そこにいた年頃の娘らしくオシャレな印象の小柄な女の子は、ルイーザのルームメイトのパペリー・アンジェラだった。
「ありがとう、アンジー。って、私そんな顔してた……?」
「うん、してたよ。こーんな顔」
彼女はその垂れ目気味な目尻を両の人差し指で無理矢理吊り上げ、わざとらしいしかめっ面をしてみせる。そんないまいち変顔になりきれていない可愛らしい彼女の顔芸を見て、ルイーザは思わずクスッと笑みをこぼした。
「なにその変な顔? 私絶対そんなんじゃないって」
「えー。そっくりだよー」
いささか不満そうにぷーっと頬を膨らませるアンジェラ。
「はいはい。早くしないと授業遅れちゃうわよ? もし遅刻なんてしようもんなら、カルローネ教授に『パジャマパーティは楽しかったかい?』なーんてイジられるに決まってるわ」
「あ、言いそう、言いそう」
そんな他愛の無い話に花を咲かせながら、彼女たちはカルローネの待つ第二講義室へと駆けていった。