すでに人の姿もまばらになってきた大講堂。
主賓卓の前方では、この日のために新調したラベンダーヴァイオレットのドレスに身を包んだルイーザが佇んでいる。その端正な顔つきと161cmのバランスのいい肢体は、シャンタンドレスの上品な光沢により一層惹きたてられている。
卓上の馳走にも手をつけられぬほどにせわしなく時が過ぎ、気づけばもう宴も終わりを迎えようとしていた。
そんな折にルイーザの元へと歩み寄ってきたのは、アラベスクブラウンのオールバックと、ローブの下からのぞく洒落たイタリアンスタイルのスーツがトレードマークの男性教諭。先程乾杯の音頭を取っていた人物だ。
「ルイーザ君、認定おめでとう。いやー、あのレアンドロの娘がもうエクソシスト認定か。月日が経つのは早いものだね」
「光栄です。カルローネ教授」
彼はゾルチーム高等学院基礎戦闘術担当の教授、カルローネ・フォルティナート。今年で52歳となるその歳に反して、言われなければとてもそうは見えない若々しい雰囲気を保っている。
ルイーザの所属寮であるトルチャ寮の寮長も務めていることもあり、なにかと気にかけてくれているルイーザにとっては心強い存在だ。
「レアンドロは優秀なエクソシストだったからね。あの事件以来引退してしまったのは本当に残念だが、その娘とこうして同胞になれるとは。いやー、まだまだ校長の
アルコールも回っているのか、上機嫌で饒舌に語り出すカルローネ。
フランテ・レアンドロ。学院の卒業生にして、カルローネの元同級生。そしてルイーザの父にあたる人物だ。
かつてゾルチーム北部に現われ、一夜にして村一つを壊滅させたともいわれる強大な悪魔。当時の村の生き残りによると、その異形の胸部にあたる部分には巨大な円輪がその身を切り裂く車輪の様に廻っていたと云われ、そのことから”車輪の悪魔”と呼ばれるようになった。
国や民間組織からも多くのエクソシストが車輪の悪魔討伐のため派遣されるも、その悉くが敗走もしくは戦死していった。そんな中、当時学生でありながらレアンドロは車輪の悪魔の討伐に成功し、一躍護国の英雄として祀り上げられることになった。
その遺骸から発見された謎の杖が、通称”車輪の杖”と呼ばれるものだ。その得体の知れない杖はどういうわけかレアンドロに与する力となり、彼はその力で以て大小様々な悪魔を討ち果たした。
しかし、10年前。学園近郊西部の街に悪魔の群れが現われた際のこと。その場にいた当時6歳であったルイーザは悪魔に襲われてしまう。その牙がまさに彼女を貫こうというすんでのところでレアンドロが彼女を庇うことに成功するのだが、その際に彼の左前腕は悪魔に喰いちぎられてしまった。
その事件より程なくして、彼はエクソシストからの引退を宣言した。
在りし日のことを思い出してしまい、ルイーザの表情ににわかに影が差そうとした、その時だった。
「どこの誰が
先の式典にてルイーザに勲章の授与をした人物である、校長のヴェルディ・サテリーノが二人の間へと割り込んできた。
「おやおや、校長。52の三倍なら
悪びれもせずにおどけて言ってみせたカルローネ。その後も二人はルイーザを置いてけぼりにして話しを続ける。
「やかましい。まだ100にしかなっとらんわ」
「それでも十分ご高齢だと思いますよ」
「そうかそうか。カルローネ君は早く儂に引退してほしいと」
「いえいえ、滅相もございません」
「まあよい。老人は老人らしく、早く帰って寝るとするかの」
校長は杖を取り出し”
「あ、そうじゃカルローネ君。最近儂ももうボケてきたみたいでの。君の給料を
にわかに巻き起こるつむじ風と共に姿を消す間際、校長はカルローネにそう言い残していった。
「え、校長!? そ、それだけはご勘弁を・・・・・・って、行ってしまった・・・・・・」
「さようなら私の給料・・・・・・」と頭を抱えて俯くカルローネ。そんな彼を見てクスリと笑うルイーザ。
「はあ・・・・・・私もそろそろお暇しようかな」
カルローネはルイーザが笑みを浮かべたのを見てわざとらしく溜息をつくと、杖を取り出して”
「あ、そうだ。エクソシストにも授業はちゃんと受けてもらうからね。ルームメイトと夜な夜なパーティして、明日居眠りとかは勘弁してくれよ?」
最後にそう言うと、カルローネもまたつむじ風と共に去っていった。
残されたルイーザが見渡すと、いつの間にか会場からはすっかり人影が消えている。緊張の糸が解けたルイーザの肩に、ツケにされていただけの疲労が一気にのしかかってきた。
既に去って行った面々に倣うように彼女も杖を取り出して、”