歴史ある大聖堂の内部にでも迷い込んでしまったかと思わせるほど、広く荘厳な大講堂。ここは”ゾルチーム高等魔法学院”
その中央にて圧倒的な存在感を放つのは、先の”悪魔”との対戦の様子を描いたとも云われている、縦に10メートルはあろうかという巨大ステンドグラス。
全校生徒の注目を集める壇上は、ステンドグラスから差し込む七色の光によって神秘的なオーラを纏っている。そして、そこで相対するは、何十年伸び続けているのかと思うほどに立派な白髭を蓄えた老紳士と、ブリックレッドの長髪を下ろし、学院の制服でもある黒のロングローブに身を包んだ一人の少女。
老紳士が、髭に埋まったその口をゆっくりと開く。
「トルチャ寮1年、フランテ・ルイーザ! 汝に”エクソシスト”の資格を授与する!」
老紳士の骨の浮いた皺だらけの手から、エクソシストの証である白銀の勲章が、フランテ・ルイーザと呼ばれたその少女へと厳かに授与される。
刹那、湧き上がる地鳴りのごとき拍手喝采。
壇上で恭しくお辞儀をするルイーザの姿には、まだ16という歳相応のあどけなさも残っている。しかし、その刺すような真剣な眼差しからは、不安や緊張の中にも覚悟の色が確かに感じ取れた。
頭を上げ、生徒達の待つ方へと向き直るルイーザ。そのローブの胸元には、差し込む光によってさやけく輝く白銀の斜め十字。
拍手を続ける生徒達の中には、眼前のテーブルに絢爛に盛り付けられたパーティディッシュに気を取られる者もちらほら現われ始めている。そんな生徒たちの様子を見かねてか、壇下では司会役の男性教諭がマイクを手に取った。
「気が気でない者もいるようだし、そろそろお待ちかねの乾杯にしようか。では、諸君。フランテ君のエクソシスト認定を祝して! 乾杯!」
先程までの式典の厳かな空気から一転。男性教諭の陽気な音頭を皮切りに、大講堂は賑やかなパーティの喧騒へと包まれる。一礼をして、色直しのために舞台袖へとはけていくルイーザの姿は、既に一部の生徒の目には入っていない。
「ルー! おめでとー!」
そんな中ルイーザの耳に聞こえてきたのは、同級生たちからの祝福の声。
そのなかでも一際大きく手を振るラベンダーブルーの髪の少女へと向けて、小さくその手を振り返すと、ルイーザの姿は舞台袖へと消えていった。