太陽は今にも沈んでしまいそう。私は若い男が手綱を引く姿を眺めつつ、到着の時を待ち続けていた。
「しかし、大金持ちだ」
あの男を脅した次の日、住民管理課に告げて引っ越し届をいただいてすぐさまギルドに依頼を張り付けた。例の宗教の信者たちは顔をしかめていたものの、依頼を受ける人物はすぐさま現れたものだった。
客人として馬車に乗る金は無い。しかしながら私を荷物として隣の街にまで運んでもらった場合は金が余る程だった。
「どこかで金でも掘ったのか」
金、取り出す意見としては実に鋭い一択だった。見るからに平民の貧しさに満ちて薄汚れた服を纏っている私。その姿は雇い主として依頼を出す立場の者には見えなかった事だろう。
「ちょっとした事実を暴いた報酬さ」
思い返せば実に濃密に感じられる数日間だった。わずかな時間の中で幾つも立場が変わってしまう。変わるまでの繋ぎの時間ですら今となっては必要なものだったのだと思い知らされた。
太陽は更に顔を沈める。太陽は既に顔を半分隠していた。
「約束の時、夕日が落ち切る前には間に合うな」
その報告一つで安心を得た私がここにはいた。彼女の機嫌を損ねるような真似は、失望させる事はどうしても避けたかった。
関所を通り、レールや少し高い建物といったものが特徴の街。しかしながら科学のトップランナーとも呼べる技術は街の住民には一切浸透してなかった。
私は馬を降りると共に馬に座ったままの男に銅貨を支払い役所へと向かう。
今日からこの街に住まう事になったという証明の為、そんな重い意志を背負った軽い紙に自分の名を書き留めて役所の管理者に提出し、すぐさま向かった宿は既に何度も太陽と出会ったよう景色の中。
私はドアを開けたと共に出迎えた人物に安心感を覚えた。
大きな男が声を張り上げて受付としての仕事を果たそうとしてすぐさま口を閉じた。
「ただいま、約束を守りに来た」
明るい顔が生まれた事を確認しつつカウンターの裏のドアを開け、中へと足を踏み入れる。あのクルミ色の髪を二房に結んで両肩に付ける形で垂らしている美人が光沢を放つ木の椅子に腰かけている。そんな彼女は私の帰還に気が付いたようで顔を上げ、にこやかな青空色の笑顔で私を照らして受け入れた。
「おかえり」
「ただいま」
そうして私の新しい生活は幕を開けた。宿の看板娘は元気のいい事この上なし。私まで元気付けられる。
「やっぱり好きな人と仕事出来るの良いね」
これまで幾つもの求婚を跳ね除けた彼女が選んだものは私という人間。どこに惹かれたのだろう。
「あなたは絶対に魅力的だから私が用意した服着て」
そんな言葉と共に持ち込んできた布の揺らめきを目にして私は思わず後ずさりをしながら否定の意見を焦り混じりに告げていた。ひらひらのフリルの付いたスカートを履く事になるのだから言う事を聞くわけには行かない。
そうした冗談か本気かつかないような事まで冗談として受け流しつつ、彼女との甘い時間を楽しみ続ける。そんな綺麗な関係の中で私の新しい人生が顔を出し、街のすぐ外に広がる荒地に似合わぬ控えめな芽が顔を覗かせていた。