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第2話 【追憶】窃盗


「うわぁ〜!おいしそうー」

ところどころが既に破けたボロボロの服。

体中が埃だらけでハエの舞う、歳は十歳にも満たないくらいの幼い女の子だった。


「なあ、こその娘?」

蓮姫は問う。


「え、あたち?」

きゃつは自分を指差した。


「そうだ」


「あたしがどうしたの?」

蓮姫はきゃつと再び目が合う。


「それはだな……その……」

しかし、蓮姫にはなかなか次の言葉が出てこない。


(なんだよ、コイツの吸い込まれそうなくらいにキラキラと澄んだ瞳は。

こんなの、チートだろ……)


動揺を隠せない蓮姫は人差し指で自らの頬をトントンしだす。


「あ、あー!もう!

こう言うのくそっ、イライラする!」

そして遂には自分の頭の髪を掻きむしり出す。


*作者

お前は◯ャイアンかっ!

否。

◯ャイアンはレベルアップして"◯画版ジャイアン"へ。

更に未来世界の特殊なイベント用アイテムを使うことで、聖属性の"綺麗な◯ャイアン"と徹底的にダークサイドに堕ちた闇属性の"汚い◯ャイアン"に分岐するはず。


つまり、蓮姫は心が綺麗じゃないので、"汚い◯ャイアン"の生まれ変わりに違いない。



蓮姫が動揺する理由。

それは……。

青果店のオヤジにきゃつを自分の妹と勘違いされたように、確かにそのきゃつが自分とそっくりに思えたからだ。

但し今の自分では無い。

貧乏だった頃の昔の自分に……。


「おいしそう……。ゴクリ!」

きゃつは唾を飲み込みながら、キラキラとした目でずっとメロンを見つめ続けている。


「なあ?お前はこのメロンが欲しいのか?」


「え?お姉たん、あたちにメロン買ってくれるの!?」


「やらん!!」


「ちっ!!」

きゃつは舌打ちした。


「お前、今舌打ちしただろー!?」


「してないよ、あっかんベーダー!」


「くぅ〜、何げにスペースオペラの悪役ちっくに言われてるのが無性にムカつく」


蓮姫が娘、二人がそんなしょうもない会話を延々と繰り返していた

ちょうどその時だった。


『ドロボー!!』

突然、それは大人の男性の声だった。その声は人混みでごったがえす市場の奥の方から聞こえてきた。


「だれかー、そいつを捕まえてくれー!!」


すると、青果店の周りの人達が一斉に蓮姫のほうを見てくる。


「ちょ、私は姫だ!

泥棒なんかじゃないぞ!!

店主のオヤジ、あんたなんかやったのか!?」


「俺も知りませんよー!」


ドロボーと叫び青果店に詰め寄ってきた男は続けた。

「姫様やあんたじゃないよ!

その小さな女の子だよ!

うちの店の商品を盗んだんだ!!」


「え!?この幼い娘がか!?」

蓮姫は慌ててきゃつのいるほうを振り返った。

しかし……。



娘が……いねえ!!


「姫様、大丈夫でした?」


「ああ、私は大丈夫だが……」


「青果店の旦那〜、あなたがもたもたしていたから、犯人取り逃がしちゃったじゃないですかー!!」


「そんなこと俺に言われても知らねーよ!!

それに、まだ年端としはもいかない幼い娘のやったことだろ?

諦めろや!」


「そんなー!あの商品は売れなかったら返さないといけないものなのに、僕が買って弁償しなきゃいけないんですよー!?」


「知るかー!!って、オイ

……」


「どうしたんだ、青果店のオヤジ?急に目を丸くして固まったりして」


「俺の店のメロンが……、根こそぎ無くなってる……」


「あ〜!!借り受けた商品の弁償、どうしようどうしよう!」


「俺のメロンが……、家内に何て言い訳しよう」


「おめーらー!!」

蓮姫は声を荒げた。


「は、はい!」


「お前達二人とも大の大人だろ?まずはもちつけ!!」


「へい、すみません……、姫様」


「二人の店から無くなった分の代金は私の財布から、つまり、お前達が国民の税金から補填する。

それでいいんだろ?」


「はい!大丈夫です。

さすが姫様。ありがとうございます」


「お前達二人の損失はその額で本当に間違い無いんなんだろうな?

鯖を読んだりすると後で利子を付けて返してもらうからな」


「は、はい、間違いありません」


「あれ?」

蓮姫は一言そうぼやくと突然、

首からかけていたポーチや自らの服をしきりに確認しはじめる。

その様子はどうみてもそわそわと落ち着きが無い。


「どういたしやした、姫様?」


「無い」


「無い?無いって何が無いんですか?」


「財布だ!私の財布が……無いんだ」


「ヤバいじゃないですかー!!」


「あのヤロー!!まだ幼い子供だったからって大目にみようと思っていたが、姫様のお金まで奪うなんて絶対に許さん!!」


「まあまあ、青果店のオヤジ、もちつけ!」


「は、はい。でも、姫様は恨んで無いんですかい?」


「私は恨んで無い。というか、

貧困の問題は私や家族の国政に責任がある。だから、私は立場上きゃつ恨むことはできない」


「でも、俺たちや姫様のお金が……」


「私自身、幸い王宮に戻ればまたお金はあるし、お前達二人の損害も補填してやる。だからその点は心配するな」


「ありがとうございます。

ですが一つ疑問があります。

その点……、と言いますと?」

青果店のオヤジは蓮姫に問う。


「このままきゃつを見失っちゃダメだ!」

蓮姫は二人にだけでなく自分にも強く言い聞かせた。


「そうですよ!早く犯人を捕まえて、二度と悪さを出来ないようにとっちめましょうや!!」


「再犯は防がなきゃだな。

だが、それは私が言いたいのとは違う。

市場をまた盗難の被害にあわせない為というただそれだけの理由じゃない!」


「え!?」

その答えに店主二人は首を傾げる。


「このままじゃいけない!!

それは、あの幼いきゃつにとっても……な」


「私は今から出かけてくる。損害費用は召使いにことづけておく。じゃあな!」


「ちょっと、姫様!?もしかしたら、泥棒娘のところに今から行くんですか?」


「ついてくるな!!」


「あいつらの暮らす区画は治安が悪い!だから、姫様一人だけじゃ危険すぎます!俺もついていきます!」


「駄目だ!!これは命令……だ」


「す、すみません、でも……、

あっしは姫が心配です……」


「……すまん。でもここはどうしても私一人で行きたいんだ。

ありがとう……」


「姫様、どうかご無事で……」


蓮姫に無理矢理にでも着いて行こうとする青果店の男。

蓮姫はそんな店主を無理矢理にでも一蹴しようとしたのだが、

申し訳なさそうに思う気持ちを後に付け加えた。


そして蓮姫は一人、王国の貧民地区へ娘を探しに向かう。


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