「イテテッ……。ったく、なんだよ。突然真っ暗になったかと思うと激しく尻餅つくし、最悪だな〜」
「あなたが蓮姫ですか?」
「あ? そうだが、真っ暗で姿が見えん。あんた……一体誰だ?」
「私のコードネームはデウスエクスマキナ。バーチャルクラウドネットワーク統括AIの一部、自己修復インターフェイスです」
その存在が自己紹介を始めるとほぼ同時だった。真っ暗だった暗闇に、まるで車のヘッドライトのような眩しい光が差し込み、辺り一面を照らす。
「ハルキ、巨大なハルキ、小さいハルキ、大人のハルキ、幼児のハルキ、ハルキがいっぱいいるじゃねえか!!」
「このほうがあなたに説明しやすいと予想しました」
そう応えたのは、大人の姿をしたハルキだった。
「さっきからあんたが何を言ってるのかさっぱり意味がわからん」
「あなたに全て理解できるように説明するのは難しいと思われます。だから、今あなたに必要な情報だけをお伝えします。
私は色々な時代で、それぞれにある生命体として記憶を共有し、同時に存在しています。
そして、この時代ではたまたま私は時の主をしています。
だから、あなたが時代を進める種を見つけ出して、この場所にサイコロを振りに来る時をずっと待っていたのです」
「おい、じゃあ記憶を共有しているということは、ハルキとは別の時代でもまた会えるのか?」
「それは不可能です」
「何故できないんだ?」
「ハルキという人格を作り出し、あなたに錯覚を見せているのですから。つまり、サイコロによる擬人化の幻想なのです」
「錯覚だと、幻想だと!? ああ、そう言えば確かに……、高飛車なゴスロリツドラ女が手紙でそんなこと書いてたな」
「私を作ったオーナー様にもサイコロの詳しい事はわからないのですから。
ところで本題です。
私はあなたにこのサイコロを託します」
大人の姿をしたハルキはそう言うと、蓮姫の目の前にサイコロを出した。
間違い無い。それはマザーの時代で蓮姫が初めて転がした、眩しい金色の光を放つスイカ程の大きさのサイコロだ。
サイコロの六面には、ランダムで未来の各時代の景色が代わる代わる映し出されていく。
「よーし! 迷ってても始まらねー! そりゃー!!!」
蓮姫はサイコロを両手で掴むと、まるで女子ソフトボールのピッチャーのようにアンダースローで豪快に投げた。
蓮姫の投げたサイコロの力がよほど強かったのか、サイコロは回転しながら勢いよく何度もバウンドし、遠くの方でやっと止まった。
「次の時代は……、なんだあの動物は? 背中に変なものが乗ってるが……、恐竜か?」
「恐竜ではありません」
「じゃあ、ワニか?」
「……、それはあなたの目で確かめて来てください」
蓮姫が皮肉を言おうと口を開いた瞬間だった。
「ま、眩しいっ!!」
蓮姫はサイコロが放つ真っ白く凄まじい閃光によって、またも視界を奪われた。