デルタが生まれながらに持つ未知の特殊能力が突然暴れ出したのだ。
その能力は強大で、今も周りのあらゆる物体を吸い寄せ、そして分子組成をバラバラにして灰にしている。
「博士ー!!もう、この少女の暴走は手におえません。デルタの生命ごと消去しかありません」
「みんなの命を危険に晒して本当にすまない。でも、だめなんだ。僕たち人間が自分達の都合で生み出したデルタ達にも心はあるんだ。だから、僕はデルタも含めて全員を救う!」
「博士、無茶です!このままでは本当に犠牲者が出てしまいます!」
「お姉ちゃん!お姉ちゃん何やってるの?
だめだよ!自分の喉にナイフあてて、死んじゃうよ!」
「そうよ、自分の命を絶つためよ」
「なんで?死んじゃ嫌だよー!!」
「さっき研究所の職員の人が言ってたでしょ。
あたしの暴走はあたしの意思でも止められないって。あたし自身が命を絶つしかね……」
「駄目だよお姉ちゃん。お願いだからそんな悲しいこと言わないで、目を覚ましてーよ〜」
「アハハ。ナブラ……、あなたって本当に泣虫ね」
「だって、だって」
「博士、研究所の職員のみなさんお願いです。あたしを殺してくだい。そして、弟ナブラからここでの記憶を消してあげてください」
デルタは自分の喉に暗黒物質で出来た研究用の特殊なナイフを突き立て、そしてそのまま……。
「駄目ー!!!」
『ビュン! バチッ!!!』
「え?」
デルタは驚きのあまり、まるで石像のように身体が硬直し動かすことが出来なかった。
突然、ナブラの体が強力な磁場に包まれると、彼は磁場を盾にしてデルタの背中に周り込みナイフを遠くへ払い除けたのだ。
ナイフはゆっくりと宙を舞う。
しかし、そのナイフは皮肉にも、デルタの背中に現れた物体を吸い込む触手の目に突き刺さった。
『ドスッ!!』『ギャァァァァー!!』
恐ろしい化け物の奇声が研究所全体にこだました。デルタの背中の触手はその痛みから暴れ、そしてその暴れた触手の一つが向かった先には娘を必死に庇おうとする母親がいた。
「シエルター! ゼブラー!」
博士は妻と娘に大声で叫ぶと、全速力で必死に駆け寄っていた。
「あなた!」「パパ?」
『バーン!!』
それは、ほんの一瞬に起こった、あっけないほど小さな爆発だった。
「あ、あっ……」「博士!?」
博士は精神的なショックのあまり声が出ず、妻と娘がついさっきまで存在していたはずのただ灰が舞う以外他に何もない場所を見つめていた。