「そうだわ!思い出した」
あたしと弟のナブラ、ラプラシアンの三人は、今まで暮らしていた時代より遥か未来の研究施設で生まれた。
博士も最初はあたし達三人に優しかった。
だけど、博士の性格はある時を境に変わってしまった。
あたし達三人に、そしてナブラに特に恨みを持ち始めたのは、知的分子ロボティクスプロジェクトの完成祝賀パーティーの時だった。
ああ、あれは忘れもしないわ。
「ねえ、みてみてパパ?」
「こらっ! パパの職場の機械を勝手に触って遊ぶんじゃありません!」
「だって、だってー!!」
「まあまあ。その機械は特殊な解除操作をしないと起動しないから大丈夫だよ」
「全く、あなたという人は。いつも自分にも娘にも本当に甘いんだからー!!」
「せめて皆の前で怒らないでくれよ。参ったなぁ」
「こちらは博士の娘さんですかね?」
「おやおや、あなたは確かニューラルネットワークの設計でお世話になった先生じゃないですか!」
「いえいえ、私の地味な研究など、博士の成果に比べれば。それにしても、娘さんしばらくみない間に本当に大きくなりましたねー!」
「僕に似て、体ばかりで精神の成長はふるわない娘ですが、ありがとうございます」
「それで、博士。今回完成された分子人間っていうのはどちらにあるのですか?」
「実は、今朝のことなのですが、急に一部システムにトラブルがありまして。
安全上の理由から今日はお見せすることが出来ないんです。
せっかくはるばるお越し頂いたのに、本当に申し訳ありません」
「いえいえ、実験にトラブルはつきものですし、博士の研究に僕の仮説を使って頂けただけでじゅうぶんなのですから」
『ブイーン! ブイーン!』
「急げー!」「間に合いません!」
「ん、おや?なにやらさっきからサイレンといい話し声といい、辺りが騒がしいですね」
(一体何が起きたというんだ)
「先生はそちらの非常口から早く避難されて下さい!!」
「博士、あなたは非常口に向わないんですか?」
「僕は分子人間を見に行った妻と娘を助けてから後で合流します。だから先生はさ、非常口から早く!」
「わかりました。そして、出来る限りの救援を呼んでおきます。だから、博士も絶対に死なないでくださいね」
「はい!」
博士が妻と娘がとり残された場所へと走って向かった。
すると、そこには今まさに数人の研究所職員に取り抑えられようとしていた少女がいた。
紫黒の目がたくさんついた無数の不気味な触手を背中から生やしたデルタだった。