「デルタさん!」
「お姉ちゃん!」
『誰だぁ、貴様らぁああ!』
まるで雷鳴のような怒声が轟く。
(来てくれたのね。
ナブラ、ラプラシアン。
二人があたしを探しに来てくれた。
ありがとう)
だけど、運命はどこまでも私達に残酷だ。
既に何もかもが手遅れだった。
あたしの体は人語すらも解す事が許されないこんな醜い姿に変わり果ててしまっていた。
腰より下の部分は、元のあたしの100倍くらいの大きさはありそうな古代昆虫の姿に変貌を遂げ、当然その精神も壊れてしまっていた。
二人があたしを助けに来てくれたと知ったときは、
あたしは泣きそうなくらい嬉しかった。
しかし、長い時間をかけてあたしの中に蓄積してきたドス黒い感情が、
あたしの心を、まるで牢屋の奥深くに幽閉された他人のように感じさせていた。
あたしを探しに来てくれた彼ら二人にとってはそれまでの過程が短い時間だったのかもしれない。
だけど、自殺という選択肢すらないあたしは、ただ自分が自分であるという 気持ち(アイデンティティー)を意識の奥深くにしまい鍵をしていまっていた。
100億年以上同じ退屈な景色のループに耐えるにはそれしか手段がなかったのだから……。
あたしはナブラを救う代わりに2つの条件を受け入れた。
一つ目は、カンブリア時代が始まる前から終わりまでのとてつもなく長い時間を記憶を残したまま、
今の姿でこの場所にずっと居座り続けること。
そしてもう1つは、時代に介入しようとするイレギュラー(タイムトラベラー)を排除することよ。
「お、お姉ちゃん!?
どこかで強く頭でも打ったの?」
「デルタさん?
ボクはラプラシアン。ボクのことは覚えていますか?
それと。ナブラくんは無事です」
『ナブラ? ラプラシアン?デルタ?
我はそんな者知らぬ』
「それ、本気で言ってるの?
僕だよ! 弟のナブラだよ!
そして、僕の親友のラプラシアン!」
『この時代に介入することは許さん!!』
「仕方ない、ナブラ!
ボクが能力を使ってデルタさんを気絶させる。
だから君は、離れたところから説得を続けてくれるか?」
「ラプラシアン、君一人を囮に出来ないよ!
僕も能力を使ってお姉ちゃんを助けるよ!」
「無理をするな、ナブラ!」
「もう遅いよ、ラプラシアン!
前をみて!」
「ああ、仕方ないナブラ、
力を合わせるぞ!」
「うん!」
『デルタさん頑張ってください!』
「ナブラ? パス!」
ラプラシアンは光の屈折を集中させ、
重力レンズのサッカーボールを作りだした。
そして、そのボールをナブラに向けて蹴った。
『お姉ちゃん目を覚まして!』
「オッケー! ラプラシアン!」
「「いっくよー!!
ツイン・ビヘイヴィア・シュート!!」」
『バァァァーン!!!』
凄まじく高密度に圧縮され、サッカーボールサイズのプラズマが、周りの光を屈折させ何もかもを吸い込みながらデルタの方に近づいていく。
しかし、デルタは吸い込まれない。
当たらない。
デルタの手前で確実に速度を落としていく。
「と、どうして……!?」
ナブラとラプラシアンの二人は、目の前の予想外の光景にただ驚くしか出来なかった。
その場にただ茫然と立ち、次の行動を決めかねているナブラの様子をみてラプラシアンは言った。
「デルタさんはきっと、自分の周りにおびただしい葉緑体を集めてボク達2人が放った電磁波を全て吸収しているんだ。
そうして自分のエネルギーに変換しているんだよ」