「ナブラ、随分遅かったじゃないか。」
待ち合わせ場所にはラプラシアンがすでに到着していた。約束の時間に10分ほど遅れて現れたナブラに、ラプラシアンはそう声をかけた。
「ラプラシアン、本当にごめん! 準備は不要って言われたけど、一応自分なりに考えてさ、ドアの鍵に使えるかは分からないけど、パパにこっそり日曜大工用の工具を借りてきたんだ……」
「はぁ〜。 準備は不要って言ったじゃないか。」
「だって、忍び込むんでしょ? ドアの鍵を開けずにどうやって忍び込むの?」
「この病院は警備会社と契約をしているらしいんだ。そして、夜中の0時前後には病棟内を見回りするはず。 だからさ、姿を消して入り口前で室内の防犯センサーを作動させて、 かけつけた警備員と一緒に中に忍び込むんだ。」
「なるほど! ラプラシアンの光を屈折させる能力を利用するんだね?」
「ああ、そうなんだ。」
「でもさ、能力を使うなら、わざわざ警備員をおびき寄せなくても、僕の磁場を操る能力を使えばドアを開けることも……」
「それは駄目なんだ。 ナブラの病気が悪くなったのはその能力を使ってからだろ? それに、君の完治とデルタさんの失踪に関係があるとしたら、デルタさんの身の安全の為にも、尚更君の能力は使わないほうがいいんじゃないか?」
「そうだね……。 了解、ラプラシアン。」
「ナブラ、しっ!!」
「え? うん」
突然、ナブラの言葉を遮ったラプラシアンの表情は真剣そのものだった。
2人が駐車場の茂みに隠れ物音立てずにみていると、 一人の警備員が社用車でやって来て、そして病院の入り口の前で作業の準備を始めた。
ナブラ(小声)
「警備員の人、なかなか中に入らないね?」
ラプラシアン(小声)
「いろいろ準備があるんだろう。」
「ミャア〜♪」
ナブラ(小声)
「ちょっと、コラ!」
「ミャア〜♪」
ナブラ(小声)
「ラプラシアンどうしよう? さっきから野良猫が僕についてくるんだ。」
ラプラシアン
「よし! その子猫に手伝ってもらおうか。」
ナブラ「え?」
『ミャア♪』
「今、猫の声がしたな」
『ミャアミャア♪』
「し、しつこいな、どこだ?」
警備員の男は、子猫の声のする病院入口より左側の方向に振り向いた。
『ミャア♪』
「病棟の中に猫がいるじゃないか!!」
『ミャア♪』
「猫かよー! ちょっと待ってろよ〜」
そう言って警備員の男は入口の警備を解除して、入口の扉を開けた。
「今だナブラ! 一緒に入るぞ」
「う、うん」
二人は警備員のすぐ後ろから病棟内に侵入することに成功した。
「あれ? 猫の声がしなくなったな? さっきこのあたりに姿が見えたはずなんだが……」
頭をひねる警備員の男を背にして、 二人はまっ暗な病棟の中を手探りで進みながら 主治医に診察してもらった診察室へと向かった。
ラプラシアン(小声)
「ナブラ? 君が診てもらった診察室はこのあたりなのかい?」
ナブラ(小声)
「うん、確か。 あっ! ラプラシアンみて!
あの先の部屋、ドアからうっすらと青紫色の光が漏れてるよ」
ラプラシアン(小声)
「きっとあそこのドアの先に秘密がありそうだな、 行こうか、ナブラ?」
ナブラ(小声)
「うん、行こう! お姉ちゃんを助けに」