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第52話 デルタを追って


「ナブラ、随分遅かったじゃないか。」

待ち合わせ場所にはラプラシアンがすでに到着していた。約束の時間に10分ほど遅れて現れたナブラに、ラプラシアンはそう声をかけた。


「ラプラシアン、本当にごめん! 準備は不要って言われたけど、一応自分なりに考えてさ、ドアの鍵に使えるかは分からないけど、パパにこっそり日曜大工用の工具を借りてきたんだ……」


「はぁ〜。 準備は不要って言ったじゃないか。」

「だって、忍び込むんでしょ? ドアの鍵を開けずにどうやって忍び込むの?」


「この病院は警備会社と契約をしているらしいんだ。そして、夜中の0時前後には病棟内を見回りするはず。 だからさ、姿を消して入り口前で室内の防犯センサーを作動させて、 かけつけた警備員と一緒に中に忍び込むんだ。」


「なるほど! ラプラシアンの光を屈折させる能力を利用するんだね?」


「ああ、そうなんだ。」


「でもさ、能力を使うなら、わざわざ警備員をおびき寄せなくても、僕の磁場を操る能力を使えばドアを開けることも……」


「それは駄目なんだ。 ナブラの病気が悪くなったのはその能力を使ってからだろ? それに、君の完治とデルタさんの失踪に関係があるとしたら、デルタさんの身の安全の為にも、尚更君の能力は使わないほうがいいんじゃないか?」


「そうだね……。 了解、ラプラシアン。」

「ナブラ、しっ!!」


「え? うん」

突然、ナブラの言葉を遮ったラプラシアンの表情は真剣そのものだった。

2人が駐車場の茂みに隠れ物音立てずにみていると、 一人の警備員が社用車でやって来て、そして病院の入り口の前で作業の準備を始めた。

ナブラ(小声)

「警備員の人、なかなか中に入らないね?」


ラプラシアン(小声)

「いろいろ準備があるんだろう。」


「ミャア〜♪」


ナブラ(小声)

「ちょっと、コラ!」


「ミャア〜♪」


ナブラ(小声)

「ラプラシアンどうしよう? さっきから野良猫が僕についてくるんだ。」


ラプラシアン

「よし! その子猫に手伝ってもらおうか。」


ナブラ「え?」


『ミャア♪』


「今、猫の声がしたな」


『ミャアミャア♪』

「し、しつこいな、どこだ?」

警備員の男は、子猫の声のする病院入口より左側の方向に振り向いた。

『ミャア♪』

「病棟の中に猫がいるじゃないか!!」

『ミャア♪』

「猫かよー! ちょっと待ってろよ〜」

そう言って警備員の男は入口の警備を解除して、入口の扉を開けた。

「今だナブラ! 一緒に入るぞ」


「う、うん」

二人は警備員のすぐ後ろから病棟内に侵入することに成功した。

「あれ? 猫の声がしなくなったな? さっきこのあたりに姿が見えたはずなんだが……」

頭をひねる警備員の男を背にして、 二人はまっ暗な病棟の中を手探りで進みながら 主治医に診察してもらった診察室へと向かった。 


ラプラシアン(小声)

「ナブラ? 君が診てもらった診察室はこのあたりなのかい?」


ナブラ(小声)

「うん、確か。 あっ! ラプラシアンみて! 

あの先の部屋、ドアからうっすらと青紫色の光が漏れてるよ」


ラプラシアン(小声)

「きっとあそこのドアの先に秘密がありそうだな、 行こうか、ナブラ?」


ナブラ(小声)

「うん、行こう! お姉ちゃんを助けに」


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