翌日、蓮姫とオイロスは合流した。
オイロスは、蓮姫の言葉に首をかしげながら、熱湯の中を歩く蓮姫をじっと見つめていた。
「お姉ちゃん、この温度でよく平気でいられるね?」
「私は大人だからな」
蓮姫は、さも当然のように答えた。「大人だとみんな耐えられるんだ」
「そっかー!お姉ちゃん詳しいんだねー!」
オイロスは、キラキラした目で蓮姫を見上げた。
「当然だ。私は、今でこそこのざまだが、つい最近まで、庶民から相談を受けたりしていたんだぞ。どうだ~? 凄いって思うだろ~?」蓮姫は得意げに胸を張った。
「お姉ちゃん。庶民て何?」
オイロスは、純粋な疑問を投げかけた。
「ハァ、反応は無しか。まあいい。庶民って言うのはだな……そう、あれだ。私のような王族よりも身分が下の人間のことだ。わかるか?」
「人間って何? 身分って何?」
オイロスは、ますます混乱している様子だった。
「人間って言うのは、世界で一番偉くて頭のいい動物だ」
蓮姫は、子供にもわかるように説明しようと努めた。
「ふ~ん、いまいちよくわからないや。じゃあ、身分って何?」
オイロスは、しつこく質問を繰り返した。
「身分って言うのはな、え~と、つまり縄張りだ」
蓮姫は、適当なことを言ってみた。
「なわばり?」
オイロスは、首を傾げた。
「ガキにはまだ難しいか。つまりな、生まれた瞬間に、自分の生きていく縄張り
が決まるんだ」
「どうして?どうして自分の生きていく縄々が生まれた瞬間に決められちゃうの?
そういうのはだれが決めるの?
ねえ、お姉ちゃん?」
オイロスは立て続けに疑問をぶつけると、食い入るように蓮姫を見つめた。
「もー、うるさいうるさい!私もそこまではわからん」
蓮姫は、面倒臭くなって、オイロスの頭をポンと叩いた。
「アハハ。物知りのお姉ちゃんでも、わからないことあるんだね」
オイロスは、無邪気に笑った。
「コイツ~!可愛くないガキめ!余計なお世話じゃい!」
蓮姫は、つい反射的にオイロスのお尻を叩いてしまった。
「痛った~い!お姉ちゃん酷いよ~!原始生物のボクが言うのもアレだけど、お姉ちゃん、一応……女の人だよね?女の人って上品な態度や話し方をするんじゃないの?」オイロスは、いたずらっぽく笑った。
「おいコラ~!その"一応".ってなんだ!一応って!
それに小僧、それは違うぞ!私は徹底した男女平等主義者なんだ。何か文句があるか?」
蓮姫は、顔を赤らめて反論した。
「はいはい。無いです。ごめんなさい」
オイロスは、わざとらしく謝った。
「それはそうと、早く熱に慣れんと、いつまで経ってもマザーの元に行けんぞ!集中せい、集中!」
蓮姫は、オイロスを促した。
「は~い」
オイロスは、ぶつぶつ言いながら、熱湯の中を進み始めた。
二人がしばらく進むと、道が狭くなり、行き止まりに突き当たった。
「周りに他の道は無しか……。
どうやら私達は引き返すしか無いようだな。
くそぉ~!あのマザーとかいう女め!自分を時の主とか言って私にこんな無駄な手間と時間とらせやがって!
ほら、小僧!さっさと引き返すぞ!」
蓮姫は、いら立ちを隠せない様子だった。
「え~?や~だぁ~!絶対帰らない~!マザー様が嘘つくはずないよ~!もう少し辺りを探してみようよ~!ね~!お姉ちゃ~ん!」
オイロスは、食い下がる。
「フン!意地を張るところがやっぱりガキだ。私は帰る。後は勝手にしろ!」
蓮姫は、そう言うと、一人帰ろうとした。
「ねぇ~ねぇ~お姉ちゃん?」
オイロスは、蓮姫の服を掴んで引き留めた。
「なんだ小僧?まだ何か言いたいことがあるのか?」
蓮姫は、振り返ってオイロスを見た。
「あそこ!見て!」
オイロスは、興奮気味に壁を指さした。
蓮姫が指さされた場所を見ると、小さな穴が開いていた。
「おい小僧、お前オナラを吸って生きてるんか?」
蓮姫は、オイロスの発言に思わず笑ってしまった。
「お姉ちゃんの言うオナラじゃ無いけど、匂いはおんなじだ!」
オイロスは、いたずらっぽく笑った。
「小僧、お前が出した訳じゃ無いことに間違いはないんだな?」
蓮姫は、肩をすくめた。
「うん。間違いない!」
オイロスは、自信満々に答えた。
蓮姫とオイロスは、その小さな穴に向かって進んでいった。
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↑【登場人物】
•
•オイロス
•マザー様