「イタタタ~。頭を打ったかもしれん」
蓮姫は金槌で叩かれたような強い鈍痛で目が覚めた。そして頭を抱えながらゆっくりと起き上がると、辺りをくまなく見渡した。
「あ、あ、あ…………」
あまりの驚きで、他の声は出ない。
なぜならその時、彼女の目に信じられない光景が飛び込んできていたのだから……。
「どこだ……ここは?」
真っ暗な空。どこまでも果てしなく続くどろどろで真っ赤な血の池。空を見上げると、炎に包まれた赤黒い不気味な球体が浮かんでいる。
「私は……死んだのか?ここはもしや、噂に聞く地獄とやらか?」
その異様な光景は本当に不気味で、そして恐ろしくもあった。
「やっと気がついたようじゃな?」
突然、蓮姫の意識の中に天から声が聞こえてきた。
「その声は!さては~お前、私に薬の壺を持ってきた行者だな?」
「さすが姫様、お察しがいいですなあ~。
しかしのう。薬を売る老いぼれの行者はわしの仮の姿。実はわしは人間では無い。
名はバイシャジヤ・グルという。如来と言ってもまだ姫様の時代ではわからんよのう。」
「え~い、鬱陶しー!!さっきからピカピカ眩しくて仕方がない、その頭はなんなんだ!?」
「これですかな?光輪はわしの……神を意味する小道具みたいなもんじゃよ。」
「な、なんだってぇ???信じられん……。そ、それは貴様の髪を意味する『
「姫様~!!それ意味違いますぞぉぉ~!!( >д<)」
「あっ、拗ねた!」
「ここはな……あの世でも地獄でも無いんじゃ。43億2000万年前の姫様の故郷シャンテ国なんじゃよ。」
「ふざけるな!こんなどろどろの血の池と、真っ暗な空、あの赤黒い不気味で丸い球体が浮かぶこの地がどうしてシャンテ国なのだ!?」
「地球って言ってもわからんよのう。姫様が生まれるより遥か遠い昔は、こんな姿だったんじゃよ。まだ、生き物も生まれていない。空気さえも存在していないんじゃ。青い空だってまだまだ先じゃ。
この状態ではお姫様も生存できないはずなんじゃが、そこはわしの力で耐性をつけておる」
「お前がさっきから言ってることは、さっぱり意味がわからん。
とにかく早く私を元のシャンテ国に帰せ!」
「姫様、残念ながらそれはできんのじゃ。」
「何故だ?」
「姫様が薬の飲み方の約束を破ったからじゃ。あれほど忠告したのに……」
「それはすまなかった。だから戻せ!」
「姫様、本当に無理なんじゃ。」
「何故だ?」
「それは、この時代へ姫様を飛ばしたのはわしでは無く姫様自身だからじゃ。」
「私が自分からここへ来ただと……?」
「御意。あの壺の薬は単純な不老長寿の薬では無いんじゃ。粉にして一つまみ水に溶かして飲む事で、1日だけ時が巻き戻る薬なんじゃ」
「何だと!?」
「姫様はあんなに大きな壺の中の薬を1日で全て飲みましたな?
姫様が飲んだのは一劫年、つまり約一兆五千七百六十八日だけ時が巻き戻る量なんじゃ。
わしもまさか姫様がそんなに大量に薬を飲むなんて思いもよらんかったわい。」
「何、何か方法は無いのか!?」
「姫様はあの薬を飲んだことでこの時代でも最低限生活していける能力は身に付いているはずですじゃ。だから悪いことは言わん。わしは姫様のことを思って言うんじゃが、この時代で新しい生き甲斐をみつけ、誰にも迷惑をかけなくて済む充実した余生を送りなされ。 」
「ふざけるな!無理じゃ困る!何か方法は無いのか?」
「無いことは……ないんじゃが、長く険しい道のりになるぞ?文句は言わんか?」
「わかった!我慢する。だからその方法を教えてくれ!」
「御意。しかし、いくらわしの力でも、姫様を43億年も一度に飛ばす力は無いんじゃ。だから、一度ではなく何回も休ませながら転送を行うのじゃ。ただし、条件があるぞ。」
「条件だと?」
「御意。わしには如来としての仕事があってな。それぞれの時代の進化や秩序が乱れないように、時の主の視察に行く仕事じゃ。」
「その時の主とは何じゃ?」
「時の主とは、わしがそれぞれの時代で進化や秩序の管理を任せている精霊じゃ」
「そうなのか?」
「話を続けるぞ。まずは39億年前、初期の原始生物が生まれた時代まではわしが姫様を飛ばしてあげよう。
姫様が飛ばされたそれぞれの時代には、必ず時の主がおるようにしておく。
姫様はそれぞれの時代で時の主を探し、そこで新たな時代へと導く手伝いをするんじゃ。
すると主は他の時代に飛ばしてくれる。
ただし、時の主が飛ばす時間はランダムで、戻る事もある。スゴロクと同じなんじゃ。
行きすぎて生まれた時代より未来に行く事だってあるぞ。
しかし、この方法ならわしの仕事もはかどるし、姫様も元の時代に戻れるやもしれん。
どうじゃ?我ながらウインウインな提案じゃろ?それでいいかな?」
「ランダム?スゴロク?何の事かよくわからんが、まあわかった。じゃあそうしてくれ!」
「御意。もう後には引き返せぬが、それで本当に大丈夫ですかな?」
「無論。覚悟のうえだ!」
「うむ、承知した。そ~れ!」
謎の老人がそう言って杖を天高く掲げると、蓮姫の遥か上空に大きな光輝く立方体が表れた。そして、その輝きはまたたくまに空全体を覆いつくしていく。
「ワガママな姫様や。果たして無事に元の時代に戻って来れますかな?」
自らを如来と名乗るその老人は、蓮姫にそう言い残すとすぐに消え去った。
次の瞬間、蓮姫の視界は白く眩しい光に包まれた。
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※今話のエピソードは全年齢版バージョンです。別タイトル
【憮然野郎 本編作品(全年齢版)の男性向け編集バージョン】の中に、
上品とは言えないようなネタも含めたバージョンの代替エピソードを収録しています。
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※一劫年の蓮姫〜生命40億年のスゴロクは、
ケイリー・ジョーブさんの
Revelation song、
テルーの唄 の英語版。
そして、スーパーファミコンのアクションRPG
天地創造
等から想像を膨らませ書いた作品です。
↑【登場人物】
•
•行者(薬師如来)…………?」