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最低級の底辺探索者 幻のダンジョンを制覇し無敵と化す
カイガ
現代ファンタジー現代ダンジョン
2024年12月01日
公開日
21,421文字
連載中
霧雨咲哉(きりさめさくや)は探索者としての才能が無い。同業者からは最低級の底辺弱者と馬鹿にされ虐げられ、同級生や配信者のリスナーなど一般人からも心無い罵声を浴びせられ……。
そんな理不尽だらけの優しくない人生に絶望した彼はある日、深い森で首を吊って自殺を試みるも、失敗に終わってしまう。
そんな時咲哉は幻のダンジョンへ続く光の裂け目を発見し、吸い込まれるように裂け目の向こうへ入った。
そしてダンジョンを制覇したことで圧倒的に強くなり、称号「無敵の人」を手に入れて外への帰還に成功した。
強くなって帰還した咲哉を、周りはまだ馬鹿にし侮辱してくる。後から探索者となった同級生、弱い者虐めが大好きな先輩探索者、生配信で自分を晒し上げた国内アイドル級の美少女配信探索者とそのリスナーたち、自分に理不尽を強いる探索者ギルド所長など……。
怒り、恨み、復讐心、嫉妬、劣等感……様々な負の感情を呼び起こす程強くなれる咲哉は、馬鹿にする者には皆、残虐な仕打ちを振るうことに………。

*作品タイトル変えるかもしれません!

「僕が生きている“今”」

 僕は霧雨咲哉きりさめさくや。17才。いちおう高校には通っていて、今年で3年生だ。

 見た目はパッとしない顔、黒髪ややボサ、細身といった、どこにでもいる冴えない17才の男子。自分でこんなこと言うのは気が引けるが。


 そんな僕だけど、こう見えても探索者をやっている。実力は国内でも下の下という位置ではあるけど…。

 探索者としての基礎能力値は低く、最も弱いとされてるE級の魔物の討伐すら手こずるレベル。なので未だに単独で初級者向けの森エリアや洞窟エリアの深部にすら進むことが出来ずにいる。

 所属している探索者ギルドでは「最底級の落ちこぼれ」とレッテルを貼られ、同業者たちに日々蔑まれている。


 僕には、友達はおろか、一緒に暮らす家族すらいない。二年前に両親を事故で亡くして以降、二人の遺産金と保険金で細々と暮らしている。

 親族からは非情にも僕を引き取ることを拒否されたうえ、援助金などの仕送りすらしてくれない。なので日々の生活と将来の為にも学校に通いながらも探索者業と一般のアルバイトで生活費と学費を稼ぎ、どうにか日々を生きている。

 アルバイトだけの収入だと、高校卒業までに大学に入る為の学費を用意するのは無理だ。今の時代、高卒を雇ってくれるところは全然無いだろうし、あったとしても今と変わらない賃金しかもらえないのが目に見えてる。

 僕に探索者としての才能と実力がそれなりにあれば、掛け持ちなんてせずに済んだのだろうけど、現実は厳しく非情だ。


 将来今よりもマシな生活をする為にも、大学でも勉強してちゃんと卒業して、まともなところに就職しないといけない。

 探索者としての実力も才能も無い僕が幸せな人生を送るには、そうするしかないと思うから。就職したら探索者を辞めて良いように、色々布石はうっておきたい。


 だから今は、大学に行く為に、辛く苦しいだけの探索者もやっている。

 戦いの才能は無いし、戦闘術の覚えも悪いし、おまけに運も無い。

 それでも僕は高校生の期間だけでも、探索者を続ける。どれだけ能力が低くても将来性が無くても、今は耐え忍んで続ける。辞めるのは大学に進学してからでいい。


 生前の父と母は僕にこう言ってくれた――


 「今を生きなさい。生きる意味に特別なんて求めなくていい。些細なもの、しょうもないもので良い。生きる意味なんて自分でテキトーにつくるものだよ」


 二人は優しかった。僕が探索者になりたいと言った時、二人は笑って背中を押してくれた。好きなようにやってみなさいって言ってくれた。周りと比べてそんな裕福な家庭ではなかったけど、僕にとって三人一緒だったあの日々は、かけがえのない財産だ。

 二人が自分の親だったことが幸せだった。誇らしかった。


 だから、そんな大好きだった二人の分まで、僕は今を生きるようにしている。

 その今が、どれだけ辛く苦しいものでも、僕は――今―――を――――――――








 「おいおい、どこのドブ臭い探索者かと思えば、万年最低級の霧雨じゃないかぁ」


 ある土曜日。初心者向けの探索エリアである森林にて薬草を採取していると、馬鹿にしたような声がかかる。その声には憶えがあるし、聞きたくもないものだ。だから僕は内心でため息をついた。


 「まーだこんな初級探索エリアの、しかもこんな浅い森で道草を食っているのか?」


 咲哉の前に現れるなりニヤニヤと陰湿で粘ついた笑みで話しかけてきた金髪眼鏡の男は、長下部左仁おさかべさじん。彼の仲間たち(女性ばかり)も僕を取り囲んで、蔑んだ笑みを浮かべる。

 国内探索者ランキング150位の上位ランカーである彼が、このような初級の探索エリアに用があるとは思えない。目的は質の悪いことに、僕を馬鹿にしにきたのだろう。いつものことだ。


 「今日はそんなところで何やってんだよ」


 この手の者を無視したらロクなことにならないだろうし、仕方なく話に応じてやる。暴力を振るわれようものなら、底辺弱者の僕が上位ランカーである彼に敵うはずもないわけだし。


 「今日はこの辺でE級モンスターの駆除をしてました。そして空いた時間で、薬草の採取をやっているところです」

 「ハッ、今時薬草って!探索者ギルド提携の店に行けば回復ポーションをいくらでも買えるのにぃ!つーかお前、今日はいつからここに潜ってたんだよ?」

 「朝からですけど…」

 「ぶはっ、今は午後四時だっけ?半日以上もよくこんなところに浸れるなぁ!?もうお前、ここに引っ越したらどうよ?」


 長下部はわざと大きな声で僕を馬鹿にして、仲間同士でゲラゲラ嘲笑う。この男は僕を見かけるといつもこうやって馬鹿にした言動をぶつけてくる。

 しかも今日に至ってはわざわざ初級エリアに足を運んでまでそうする始末。こんな路傍の石扱いされてる僕をいちいち貶す意味は何なのか。よっぽど暇なのか。いずれにしろ僕に悪意を以て接してきてるのだけは確かだ。

 自分より下の人間を見下して貶して嗤うことがよっぽど好きらしい。もう何度もやられてることだけど、やっぱり嫌なものは嫌だ。


 「採取に集中したいので、用が無いなら放っておいてくれませんか?」


 思わず突き放すことを口に出してしまった。


 「あ?最低級がそっけない口叩いてんじゃねーぞ?」


 長下部はそれまで陰湿で粘ついた笑みを引っ込め、機嫌を損ねた表情になる。そしてずかずかと僕に近づいて、摘み取った薬草の入ったリュックを蹴とばした。せっかく集めた薬草が地面に散らばってしまう。

 長下部の嫌がらせはさらに続き、泥がついた靴で薬草を踏みにじった。仲間たちも面白がって真似した。


 「やめてください!」

 「うるせぇ!最低級のド底辺が、俺に口ごたえするな!」


 止めようとしたら、長下部に殴りとばされた。殴られた拍子に腰のポーチから今日頑張って討伐したコボルトの耳と尻尾が出てくる。


 「ハッ、半日以上もここにこもってて、狩れたのはコボルト3匹だけかよ!」


 換金用のコボルトの部位に唾を吐き捨てられる。


 「おまけにお前の装備ときたら……ぷっ、何だよそのちんけな剣と盾は?お前本当に探索者業やる気あるの?」


 僕が装備している剣は中古で購入した安物。盾に至っては木材から自分でつくったものだ。探索者を始めてからずっとこれらしか使っておらず、年季が入ってぼろく見える。


 「お前みたいなカスが探索者やって、何の意味があんだよ?前から思ってたけどお前目障りなんだよ。さっさと引退して、街のドブさらいでもやってろよ――」


 そう言って泥のついた靴で僕を踏みつけようとしたその時、


 「何をやってるんですか?」


 可愛らしいも凛とした女の子の声が、長下部の追撃を止めた。僕らが振り向くとピンクのショートボブヘアの女の子が立っていた。

 彼女はたしか、牧瀬詩葉まきせうたは。国内二桁位の上位ランカーの探索者であると同時に、国内で大人気の配信者でもある女子高生だ。


 「や、やあ!詩葉ちゃんじゃないか!今日も可愛くて美しい――」

 「上位ランカーで有名な長下部さんですよね。そんなあなたがお仲間を連れて、最低級の彼に何をやっていたんですか?」


 牧瀬さんは非難の視線で長下部に問い詰める。


 「え、と……これは………えーと」

 「不当な暴力や陰湿な嫌がらせは、見ていて気持ちの良いものじゃありません。というか本当にそんな事をしていたのでしたら、この後ギルドにその旨を報告しますけど?」


 牧瀬さんのプレッシャーに長下部たちはたじろぐ。


 「そ、そんなことするわけないじゃないかー!同じギルドに所属する万年底辺で苦労している後輩に労いの言葉をかけてやっていただけさ!さて、今日は疲れてるからもう帰るとするよ!

 詩葉ちゃん、そのうち俺とどこか遊びに行こうよ!何なら君の配信にも共演してみたいな~~なんて!あはははははー」


 長下部は取り繕った笑顔で、仲間を連れてこの場から去って行った。


 「………はぁ」


 牧瀬さんはため息をつくと、泥で汚れた僕に視線を寄越してきた。

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