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第84話 投機 かつて空が親友と再会した神社の境内にて

いつものように近所の神社。

人気のない境内の隅っこで、私は深く深く悩んでいた。


今日は、兄さんの命日の次の日。本当は、こんな日にこんな場所に来るなんて、避けたかったんだけど……。

意を決して、私は境内の裏手に生えた大きな木を見上げる。

そこに、持ってきたロープをかける。首を吊るために。


そして……、私がロープに首をかけようとした、まさにその瞬間、それは起こった。


私の頭の中に、直接、声が響いたのだ。

まるで、神様みたいな、不思議な男の人の声が……。


「命を粗末にしてはいけないよ。

君の命は、君だけのものじゃないんだから」

突然の言葉に、私は思わず息を呑む。


「は?誰?あんたに私の何がわかるっていうの?

いい、本当に辛い思いをして生きるってことは、綺麗事なんて言ってられないくらい必死なの!」

私は、心の底から湧き上がる感情をぶつけた。


「それは、君のお兄さんが、本当は死んでいないとしてもかな?」


「え?どういうこと?

兄さんは確かに死んだし、遺骨だってこの目で確かに見たわ!

いい加減なこと言わないで!」

しかし、そうは言ったものの、その男の言葉が私の心をざわつかせる。


「そうだ、こうしよう。

今からキミに『チャンス』をあげよう。

死んでしまった人間は当然生き返らせられない。

でもね……、

ほんの僅かな期間だけだけど、

君のお兄さんが生存している宇宙に行かせてあげる事はできるよ」


「そんな期待を持たせるような事言って、まだ私を馬鹿にしたいわけ!?」

私は、食ってかかる。


「これは真面目な話だよ。

大丈夫。すぐにわかるさ。

既に失われ、選択されるかもしれなかった幻の宇宙を、君にだけ一時的に見せてあげよう」


「そんなこと……、できるわけ……ないじゃない……」

男の声を聞くたびに、私の口調は自信とともに弱くなっていく。


「出来るさ。その代わり、書き換えは一度きり。

そして君には、私の後継者として永久に働いてもらうよ」


「オカルト過ぎて信じられない。

でも……、面白そうじゃない!

私も一度は諦めかけた人生だし、その提案、乗ってあげるわ!」

私は、そうキッパリと答えた。


***

「そういうわけで、私はアスー博士の後継者として、一つの宇宙を管理する存在になったんだよ」

可織は、少し照れくさそうに、でもどこか誇らしげに、これまでの経緯を締めくくった。


「そうだったんだ。可織、お前は僕のために……」

僕は、驚きと感謝で胸がいっぱいになり、思わず呟く。


「だからね、この宇宙は、兄さんが死ぬはずだった本当の宇宙に書き戻される前の、期限付きの幻の宇宙なのよ」

可織は、言いづらそうに、まるで秘密を打ち明けるように、そう切り出す。


「じゃあ、僕の周りから人が消えていくのは……」

僕は、覚悟を決め、震える声で核心部分を訊ねる。

すると……。


「そう。私が兄さんが死なないようにでっち上げた仮染めの宇宙が、兄さんが死ぬはずだった本当の宇宙に書き戻される前兆。

私は、期限付きのこの仮染め宇宙の兄さんを、元の本当の宇宙の兄さんとして連れて行きたかっただけ。

今まで嘘をついてごめんね。

兄さんに自分を責めて欲しくなかったから……」

可織は、大粒の涙をキラキラと溢れさせ、堰を切ったように言葉を続けた。


「だから、悪者のフリを……。

可織、お前……ずっと一人で、

僕のことで責任を感じて、戦ってきたんだな」

僕の瞼からも、とめどなく熱いものが溢れ出す。


「兄さん……!」

「可織!」


そして、僕と可織は、互いのぬくもりを確かめ合うように、強く抱きしめ合い、ただひたすらに泣き続けた。



「ねえ!二人とも上!高い所を見て!」

突然、愛理栖が、何かを見つけたように、興奮した声で叫ぶ。


僕と可織は、言われるままに、涙で滲む目を擦りながら、頭上を見上げた。

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