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第83話 明日は我が身 僕達はみんな助け合う理由がある

どれくらいの間、そうしていたのだろうか。


僕と愛理栖は手を繋いだまま、空間がぐにゃぐにゃに歪む中で耐え続け、

それもようやく収まってきた。


どうやら、僕は意識を失わずに済んだらしい……。


僕は落ち着いて周囲を見渡す。

すると……、

緊迫した面持ちの愛理栖とクオリアが互いに向き合い、今正に対峙している。


「あなた達、無事だったのね?

でも、今度はアイリスもいるし、手加減なしの全力でいかせてもらうわ!

『心技・メアリーズハウス!』」

クオリアがそう言い終わった瞬間、彼女の体から真っ白い球状のオーラが吹き出し、それは瞬く間に巨大に膨れ上がる。


「ま、眩しいっ!」

僕と愛理栖はそこから逃げる間もなく、その強烈な光に飲み込まれてしまった。


……。


極端に明るさの違う光景に目が慣れるまでに、一体どれくらいかかっただろう。


視界が回復するや否や、僕は危険を回避するために周囲を見回した。


「ここは……どこだ?」

辺りは見渡す限り、そこはただ一面の白い世界だった。


「愛理栖、どこー!」


「ひかるさん、こっちですよ♪」


「愛理栖!そこにいるのか?今そっちに行く!」

僕は愛理栖の声がする方向へ駆け出す。

しかし……。

「あれ、おかしいな……確かにさっきこの辺りから声がしたはずなのに……」


「ひかるさーん、こっちですって♪」


「あ、そっちだったんだね。

ごめんごめん。今そっちに行くから、もう少しそこにいて!」

僕はすぐに方向転換し、愛理栖の声がする場所へ駆け寄った。


「愛理栖、待たせてごめんね。怪我はなかった?」


「はい、怪我はないですよ。ひかるさんは怪我はありませんでしたか?」


「僕も怪我はなかったよ」


「それは良かったです♪あの程度の攻撃で怪我なんてされていたら、今からいたぶり甲斐がないですもん。ウフフ♪」


「え?……、愛理栖、今何て言った……?」

「ひかるさん危な————い!!!」


「え?」

その刹那——。

『カキーン!!』

金属同士が激しくぶつかり合うような硬く高い音。


「アイリス?光属性のあなたは視覚を奪われると不利だと読んだのに……、

よく私のメアリーズハウスを見破ったわね」


「クオリア、あなたのこの技は事前に調べていたわ。自分と相手を真っ白な空間に閉じ込める。その空間では、元々黒や灰色に見えるもの以外は全て真っ白に見えてしまう。そうよね?」


「なんだ、知っていたのね。

でも不思議だわ。私は全身を白く変装していたのに、どうして私の位置がわかったのかしら?」


「ひかるさんの声が聞こえてきて、様子がおかしかったからよ。

だから、あなたがひかるさんに幻聴を聞かせておびき寄せているとすぐにわかったわ」


「残念。この目眩ましがあなたに通用しないなんて……、私自身もこれだと身動きが取りにくいし。いいわ、この技は解いてあげる」

『パチン』

クオリアは指を鳴らす。

すると、周りの光景は一瞬で元の姿に戻った。


真っ白な空間に目が慣れきってしまったからだろうか。

僕の目はなかなか今の明るさに順応出来ずにいた。


「ひかるさん!早くそこから離れてください!!」


「え!?」


刹那——。

「遅い!

この警策、耐えられるかしら?


浄化してあげるわ!


『心技・ゾンビワールド!』」

クオリアはそう言い放つ。

すると、数え切れないほどたくさんの心の槍が、僕と愛理栖目掛け、一斉に襲いかかってきた。


僕はそのあまりに凄まじくデタラメな光景につい尻込みしてしまい、

目を瞑ってただただ耐えることしかできなかった。


しかし……。


あれ?……、なんともない……。


僕の目の前、そこには……、


不思議な姿をした愛理栖がいて、


僕の盾になってくれていた。


「格好は違うように見えるけど、君……、

愛理栖だよ……ね?」

僕は思わず彼女の顔を覗き込み、そして訊ねてしまう。


その姿、そして表情は、アイリスの時とは全く違っていた。


なびく長い髪——。それは、七色から無数の銀河を浮かべた宇宙空間そのものへと変わる。


額の刻印——。その紋章は、『∨』から『x∨8』へと変化を遂げる。


そして、一番印象的なのは彼女の瞳だった。

当初栗色だった彼女の愛嬌ある瞳は、まるで全てを見通す魔法の鏡のような人ならざる者のそれへと変わり果てている。

そしてまた、彼女が視る者、彼女を視る者の心までも写し取り掌握してしまいそうな妖艶でハッキリとしたオーラを放つ。


対峙するクオリアの全身を捉えた彼女のその澄んだ瞳は、まるでクオリアの人生全てを映し出しているかのようだった。


そして、僕は度肝を抜かれる。

なぜなら、先ほどクオリアが放った無数の心の槍が、僕たちに届く寸前でUターンし、その全てがクオリア自身に突き刺さっていたからだ。


「私の名前は六次元少女阿弥陀アミータ……、

永遠ときつむぐ存在……」


「へぇ——、まさか、私の心の槍が全て跳ね返されるなんて……。

こうなったら仕方ないわね。

アスラ様、いえ、アスー博士!お願いです。

私に力を貸してください!」

クオリアはそう呟きながら一心に祈りはじめる。


すると……、

間も無くして、愛理栖を六次元に閉じ込めたアスラと名乗る男が再び現れた。


「アスー博士、ありがとうございます」


「クオリアよ、暴力は絶対にいけない!

お前に与えた力は、宇宙の真実を相手に理解させ、生命全ての治安を安定させるためにあるんだぞ」


「アスー博士、それは理解しています。

私はアイリスに、宇宙の真実を理解させたいだけです。だから、お力を貸してください」


「わかった。では、私が六次元の情報となってお前の中に入ろう。

お前はただ一言、『シーガ』と叫ぶんだ」


「ありがとうございます。わかりました」


『シーガ——!!』

クオリアは間髪入れずにそう叫ぶ。


すると……、

眩い閃光とともに、

アスラの体は、形を流体に変えながらゆっくりとクオリアの体を侵食していく。


そして、それと同時にクオリア自身の容姿にも変化が訪れる。


黒く燃える長い髪。

そして、彼女のこちらを冷たく射抜く瞳の中には無限の空間が広がっている。

それは僕が六次元の迷宮で見た景色そのものの様にすら思えた。


銀のティアラの紋章も『Ⅱ∨Ⅱ』に変わり、

背中にはアスラが持っていた六次元の絶対光輪が威厳を放っている。


「私も変化したわ。六次元少女盧舎那ルシーナ絶対すべてべる存在よ」

僕の前には二人の六次元人タナトーガが対峙していた。


「愛理栖、気をつけて!ルシーナの絶対光輪は強引に心を洗脳してくるらしいから……」


「無駄よ。私のこの光輪は文字通り絶対なの。比べる前から答えは決まっているんだから。

さようなら、あなた達……」

僕は、逃げられないだろうと思いつつ、目を瞑り、最後の悪あがきをした。


しかし……。


あれ……、なんとも……ない。


目の前を見ると、アミータが優勢で、ルシーナが押されていた。

「え?……、何?

これ、いったいどういう状況?」


僕も、そして当のルシーナ本人でさえも理由がわからない様子だった。


ただ、愛理栖がルシーナから目を離さず、ずっと自分の瞳の中、

鏡のような虹彩に閉じ込めていることだけは僕にもなんとか理解できた。


「痛っ!ねえ、一体これはどういうこと?

ちょっと、どこよここ?

前後左右、全部私の背中ばっかりじゃない!

阿弥陀アミータ

隠れてないで早く姿を現しなさいよ!

そして私をここから出しなさいよ!」


「無駄よ、ルシーナ……。

私はこの瞳に映したあなたの実像と虚像を入れ替えて、虹彩ミスナーに閉じ込めているんだから。

つまり、あなたが今私にしようとしていることは全てあなたがあなたにしていることになるから……」


「そんなのって卑怯だわ!

私、そんなの認めないわ!」

ルシーナは感情を取り乱して全方位から一斉攻撃をしかけようとしたが、発射寸前で無駄だと観念したのか、とうとうその場で泣き出してしまった。


「心配しないで、ルシーナ。

私はあなたも含めてみんなを救いたいだけなの」

愛理栖はそう言うと、必殺技のように瞳から七色の優しい光線をルシーナに向けて放つ。


「お願い、全宇宙の命がみんな幸せでありますように。


その身に刻んで!

『心奥技・エターナルナーモアミューターバ!』」


「愛理栖、一見カッコ良さそうな技名を可愛く萌え萌えに叫んじゃってるけどさ、それって冷静に考えると相手に結構エグいこと言っちゃってない?」

僕は思わずツッコまずにはいられなかった。


一方、ルシーナの奇襲を警戒した僕は、急いで周りを見渡す。


しかし……、どうやら決着は既についている様で、僕の心配は杞憂に終わった。


ルシーナは愛理栖の光線を浴びてキラキラと輝いている。



そしてしばらくすると、ルシーナの姿は、

僕にとってのある大切な人物の姿へと

ゆっくりと変化しはじめる。


「か、か、……可織?」

次の瞬間、僕の頭の中に、可織とのかつての記憶がフラッシュバックしてきた。


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