(な、何か来る!!)
僕は左側から物凄いスピードで何かが迫ってくる気配を感じ、急いで振り向いた。
『ガシャン!』
しかし、振り向いたときにはすでに遅く、僕は強い衝撃と共に地面に倒れこんだ。
「え!?」
『うぅっ……』
……………………。
心臓が大きく鼓動している。まるで太鼓を叩いているような、鈍い音が響き渡る。
意識が遠のいていく中、僕は不思議な感覚に包まれていた。まるで自分がこの状況を俯瞰しているかのようだった。
理由は僕にもわからない。まったく僕の意に反していたのだから。
こんな絶体絶命の状況にも関わらず、僕の心は驚くほど平静だった。そして、目の前で起こっている出来事を、まるでスローモーションで時が流れる夢を見ているかのようにただ呆然と眺めていた。
結局、僕を襲ったのは、鋭い牙を持つ獣だった。
しかし、突然僕の目の前に現れた人物によってそれは阻まれた。
そして、その人物は、獣の攻撃を受け、力なく地面に倒れ込んだ。
『ガサッ』
何かが地面に落ちる音がする。
僕は助けに行こうとしたが、目の前の状況に腰を抜かしてしまい、上手く立ち上がることができない。
それならばと、助けを求める声が喉まで出かかったが、その人物の厳しい表情に、僕は言葉を飲み込んだ。
そして、彼女は僕の傍にいた幼い少女の方を指さす。
彼女の言いたいことはもちろんわかる。
しかし、僕は幼い少女を抱きしめながらその場から離れられずにいた。
いや、離れるわけにはいかなかったのだ。
すると、遠くから仲間たちの声が聞こえてきた。
彼らは、僕と幼い少女の姿を見つけると、急いで駆け寄ってきた。
リーダーは、僕の手を掴んで引き戻そうとした。
「嫌にだ!嫌だ!嫌だ!ぜってぇ~嫌だ!
こんなのってねぇ~じゃねぇ~か!
僕やみんなを大切にしてくれたイヴを一人残して帰れる訳ねぇ~じゃね~か!
男としてさ~!人としてさ~!」
仲間達は僕を地面に押さえつけつつ、なにやら会話していた。
そんな奴らの呑気な態度が、温度差がどうしてもゆるせなかった僕は、大袈裟な程に大きく息を吸い込んだ。
そして。
「お前らみんな聞けぇぇええ!」
僕は全身全霊の力を込め、腹の底から大声で思いの丈を吐き出した。
すると、仲間達はいつもの僕とのギャップに圧倒されたのか皆一様に黙り込む。
「いいか、僕は彼女を、イヴを絶対に見捨てねぇぇえ!
見捨てねぇぇぞぞぞぞ!!!」
僕は再びそう激しく叫ぶと強く歯を食いしばった。
そして、激しく暴れボスや仲間達の制止を必死に振り解かんとしていた。