*********************## 回想〜
あれは確か5年前。あたしとあいつは小学校からの幼馴染で、SFの話しとかで趣味があったから、よく二人で遊んだりしていた。
あの日、あたしはお父さんにお人形さんを買ってもらって、つい嬉しくて、近くの神社であいつにお人形さんを見せびらかしていた。
あいつはその頃から感情表現が乏しかったから、あの時も話しててあたしはちょっと冷めてしまっていた。
あたしが人形で遊びだしてしばらくたった頃、その場に大きな犬が吠えながらあたし達の前に現れた。
その犬はあたしが手に持っている人形を狙っているらしく、あたしめがけて襲いかかってきた。
そして人形をくわえ、あたしの手を払い除けると、あたし達を威嚇して距離をとった。
あたし、もう恐くて恐くて一歩も動けなかった。
あたしは側にいるはずのあいつを探したけど、あいつどこにもいなかった。
『ポカーン・・・・・・』
あたしそのとき、死んだふりをしながら男子のあいつの判決を死刑か無期懲役か考えていたんだけど、しばらくして、あいつは強そうな大人の男を連れて戻ってきた。
大人の人が結局犬を追い払ってくれたんだけど。
『真智ちゃん……ごめん』
『ふん、知らない!』
あたしはあいつの態度に失望した。
次の日から、あたしは暫くあいつと一緒に学校から帰ることなくなった。
二三日経った頃だった。
『そろそろ許してあげるか』
あたしはあいつに一緒に帰ろうって誘ったけど、昨日に続き今日もあいつは誘いを断った。
https://kakuyomu.jp/users/buzenguy/news/16818093088289160739
『ごめん……、ボクは用があるから真智ちゃん先帰ってて』
『またそれ~? イワンあんたそれ本気で言ってんの? マジ最悪。 わかったわ。あんたなんかもう二度と誘わないっ!』
あたしは怒りの方が強かったはずなんだけど、どうしてかその後涙が止まらなかった。
あいつと帰らなくなってから一週間くらいたったころだった。
『真智~。何してるの~? お客さんよ、出なさい!』
『は~い! 出ま~す』
夕方も過ぎて辺りは暗くなっていた時間、
あたし宛のお客さんが来た。
「こんな時間にいったい誰なの~?」
あたしが玄関を開けたらそこには……!
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「ごめんくださ~い!
あたし達は、あたしのクラスメートで親友の家に来ていた。
よく手入れされた純和風の広い庭を通り抜けた先の玄関には、縦に無数に連なる細い縦枠の内側に磨りガラスをあしらった引き戸がその存在を主張していた。しばらくすると、物静かで女性も羨む程の可憐な姿の男の子が引き戸を開けて出てきたんだけど、こいつが……。
「真智ちゃん……? それに、先生ともう一人知らない方。み、みなさんどうしたんですか……?」
「君にも私が視えるのね。はじめまして。私は愛理栖。歳は君とそんなに変わらないよ。よろしくね♪」
「は、はじめまして。ボ、ボクは秀流。よろしく……」
二人の挨拶が済んだところで、あたしはさっそく話を切り出した。
「イワン、実は話があって来たの」
「イワンって?」首を傾げる愛理栖にあたしは紹介した。
「ごめんね、愛理栖は知らないよね。イワンって言うのは秀流のあだ名。この子ね、男の子なのに声が小さくて普段あんまり話さないおとなしい子なの。だからあたし達はみんな秀流のことを
「そうだったんだね。ごめんなさい、話続けて」
「そうそう、イワン? あなたも月に行ってみたいって言ってたよね?」
「うん……」
「愛理栖ちゃんを手伝ったら、あたしら月に連れて行って貰えるんだって~! 凄くない?」
「愛理栖さんそれ、本当ですか?」
「うん♪ 但し私を手伝ってそれが上手くいったらだけどね♪」ウインクしながらイワンを魅了する愛理栖、恐るべし。
「ね? 言ったでしょ! だからイワンも協力してよ」
「あ、でも……、ボクの親、勉強しなさいって厳しいから長い時間家を空けるなんて出来ないよ……。だから…………」
イワンはうつむき加減で指遊びをしながら、とりとめもなくそう呟いていた。
「あたしイワンを責めるわけじゃないよー! ただ、どっちなのかだけ教えて?」
「ご、ごめんね。 僕は参加できない……」
「え~! それ困るな~! どうしようか」
あたしは髪をくしゃくしゃにしながら頭をかかえた。
「ねえ真智? 私は先生からイワンくんのご両親に上手く説明して貰えればいいんじゃないかって思うんだけど、ダメかな?」
「愛理栖、それいい!」
あたしは愛理栖に即答し、そして先生にお願いしたの。
「まったく、仕方ないねぇ」
先生はしぶしぶ応じてくれた。
「真智はおしゃべりだから、愛理栖ちゃんと二人で外で待っとき」
「えー! なんでー? どうしてですかー?」
「そうさねぇ~。 あんたはいつも人の話に入りたがる癖があるから要注意や! ちゃうか~?」
先生はあたしの背後から顔を覗かせると、人を食ったようなニヤリとした口調でそう言った。
「アハハ、 ばれちゃいました~? てへぺろ」
「てへぺろ、やな~い! 流行った時代ちゃうやん! そら~!、どや~? これでもか~」
「アハハハハ、ハーハー、先生~降参!苦し~。 もうやめて~!」
あたしは先生からこちょこちょの刑にされ、笑いが収まった時には、谷先生は一足先にイワンに連れられ家の中に入ってしまっていた。
「あたし達二人になっちゃったね。ねえ愛理栖。 一つ話してもいい?」
「いいよ。どうしたの?」
「さっきはあたし、宇宙に行く事しか興味無いみたいに言っちゃったじゃん。
だけどね、実は愛理栖の言う5次元っていうのにもすご~く興味があるの!
あたし達の目に視えていない世界が実は身近に広がっているって考えると、
なんだかすごく素敵なことに思えてわくわくするの。その謎にあたしよろこんで協力するね」
「ありがとう、 真智」
「それで聞きたいんだけど、愛理栖が仲間を集めてる理由って具体的にはなんなの?」
愛理栖の顔は真剣な表情に変わり、話し始めた。
「宇宙にはね、4つの大きな出来事があるんだよ。『ビッグバン』で宇宙が生まれたり、『インフレーション』で宇宙がどんどん大きくなったりするの。今はその『インフレーション』の最後だから、次にいつ宇宙がちっちゃくなっちゃう『ビッグクランチ』が来てもおかしくないんだよ」
「えーっ、宇宙がちっちゃくなっちゃうの?」
あたしは目を見開き、驚いた表情を見せた。
愛理栖は頷いて続けた。
「そう。そして、最後に宇宙がパーンと破裂しちゃう『ビッグリップ』ってのもあるの。でもね、宇宙はまた新しく生まれるから大丈夫。それをずっと繰り返してるんだよ」
あたしは少し考え込んでから尋ねた。
「じゃあさ、あたしの両親がいなくなったのもその事に関係あるっていうの?」
「もちろん関係あると思うよ。
実はね、隣のとっても不思議な宇宙に住む人が、この宇宙にやってきて、無理矢理インフレーションを終わらせようとしてて、今大変なことになってるんだよ」
「じゃあ、私たちはどうなるの?」
あたしは心配からつい顔をしかめた。
「大丈夫、まだ希望はあるよ」
愛理栖は優しく微笑んで、あたしの肩に手を置いた。
「その不思議な宇宙の秘密を見つければ、まだなんとかなるかもしれないしね」
「秘密?」
真智は少し落ち着きを取り戻してから、疑問を投げかけた。
「そうだよ」
愛理栖は頷き、真智の目を見つめたまま続けた。
「この不思議な宇宙がどうやって生まれたのか、その秘密を探してるの。宇宙の始まりと終わりはつながってるから、始まりを見つければ、終わりを止められるかもしれないの」
「すごいね!でも、どうやって探すの?」
あたしは感嘆の声を上げた。
「私は、その5次元の不思議な力を持っているから、秘密を探せるよ。でもね、その力はとっても強いから、使い方を間違えると大変なことになっちゃうの。だから、みんなと一緒に秘密を探したいんだよ」
「二人ともごめ~ん。待たせたね!」
先生の声だ。あたしは愛理栖に続きを聞こうと思ったんだけど、ちょうどイワンと先生が戻ってきたのでまた今度質問することにした。
「さあ、みんな揃ったね。これからどうしようか?」
先生が声をかけると、あたしは元気よく答えた。
「まずは作戦会議だね!みんなで協力して、愛理栖の手伝いを成功させよう!」
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### 回想 続き
あたしが玄関を開けたらそこには……、そこに居たのは『あいつ』だった。
「どうしたのイワン? こんな遅くに。それにその体、ぼろぼろじゃない」
「真智、ごめんね。あちこち探し回ってやっとみつけたんだ。これ……」
「これは……あたしの大切なお人形!でも、どうして? それに、犬に噛まれた後とか縫ってあるし!」
「ボクの母さんが縫ってくれたんだ。あの時、真智を置いて逃げたりしてごめんね。一人で本当に怖かったでしょ?」
「バカ!」
「ごめん……」
「イワンのバカ!」
「本当にごめんね」
「ううん、あたしはね、今本当に嬉しいんだよ。確かに犬に狙われた時に一人にされた時はがっかりしたよ。でもね、イワンがあたしのことを大事に思ってくれているってわかったから、それが今は本当に嬉しいの」
その時の気持ちは、とても言葉じゃ表現できなかった。あたしは顔が涙で見えないくらいにくしゃくしゃになりながらイワンを強く強く抱きしめていた。
「真智、ありがとう」
「あたしのほうこそありがとう。あ~!でもそんなぼろぼろな体は減点よ。いくらあたしのためでも、もう二度とわたしを心配させるような危険な行動はしないこと、いい?」
「わかったよ。ありがとう、真智」
普段は何考えているかわからないイワンだけど、その出来事以来、あたしにとってあいつは間違いなく特別な存在になった。
*今回の要約*
真智とイワンは幼馴染で、ある日真智がお人形さんを見せていると犬に襲われる。イワンは一時逃げるが、後で真智のお人形を修理して戻り、謝罪。これをきっかけに、真智はイワンを特別な存在と感じるようになる。
そして、二人で月に行く計画を立てるが、イワンは参加を断る。しかし、先生の協力を得て計画は進行し、真智とイワンの友情はさらに深まっていく。