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第40話 ☆Easy Problem of Consciousness 六道


愛理栖はあたしに尋ねた。

「可織さんって?」


「愛理栖は知らないよね。あたしの妹だよ」


「真智に妹がいたんだね」


「そうだよ。これはあたしがまだ小学校高学年の時の話。あたしは、両親・クラスメイトの風鈴ふうり・妹の可織と五人で海に入ったんだ」



**真智の回想**************


あの日、あたしはお母さんから何度も言われていたことがあった。


「可織はまだ泳げないのよ。だから海で遊ぶ時は絶対この子を一人にしないこと。いい?」


「お母さんは心配性なんだよ。わかってるよ。もう遊んでもいいでしょ?」


「真智ちゃん、こっちだよ〜!」

一緒に来てた風鈴ふうりは、ビーチボールを膨らませてあたしを待ってくれていた。

「あ、風鈴ふうりあっちにいた!」


「真智、ちょっと待ちなさい……」

風鈴ふうりちゃん待って、今行く〜」


「全く、あの子ったら……」


しかし、あたしはつい気を抜いて、風鈴ふうりと浜辺でビーチバレーに熱中してしまっていた。


そして、あの出来事はあたしが妹から目を離してしまったことから起こった。


そのことにあたしが気がついたのは少し時間が経ってからだった。


「ねえ真智ちゃん。

妹の可織ちゃんはどうしたの?」


「あ、しまった!

可織のことすっかり忘れてた」

急いで近くを見回したが可織の姿はない。

あたしは大慌てで浜辺中を探し回った。


 苦労の甲斐はあり、あたしはやっとの思いで可織を見つけることができた。

しかし、そのときには既に、可織は随分と沖のほうまで流されてしまっていた。


あたしはお父さんに怒られるのが怖かった。

だから誰も助けは呼ばず、

一人だけで可織を助けに行った。


とにかく必死だった。

なぜだろう?理由はわからない。だけど……、なぜかその直後の記憶だけがきれいに抜け落ちて覚えていない。

 そして、気付いたら水面に妹はもう……。

あたしは必死に妹を探したが、

結局どんなにくまなく探してもみつからなかった。


「真智、そろそろあがれ。帰るぞ!」

あたしはお父さんに呼ばれた。


「ごめんなさい。ほんとにごめんなさい」

あたしは張り裂けそうな心臓の動悸を必死で我慢して、

お母さんにハンカチで涙を拭かれながらひたすらお父さんに謝った。


しかし……。

「真智、おまえ寝ぼけてるのか?」


お父さんとお母さんは平然となんて子供は知らないと言った。


あたしは、両親がなぜそんな酷い事を言うのか

全く理解できなかった。


 一緒に海に行った風鈴ふうりにも聞いてみても答えは同じだった。


それから、妹を知っている人みんなに聞いてまわったけど、みんな知らないの一点張りだった。

唯一可織のことを覚えていてくれたのは谷先生だけだった。



*********************

「谷先生も可織ちゃんのこと知ってるんですね」

愛理栖は聞いた。


「ああ、うちは真智の近所やからな。

祭りのときとかよく顔を合わせてたんや。

うちは真智が幼稚園くらいの頃から知っとるんやで」


「なあ真智?」

谷先生は声のトーンを下げ話を続けた。


「どうしたんですか?」


「さっきはすまん。軽はずみに可織ちゃんの話を出して……」


「いえいえ大丈夫ですよ。

それに、先生が可織の遺影のことで親を説得してくれたこと、

あたし感謝してるんですよ」



「そんなこともあったな」


「辛気臭い話止めましょうよ。

ところで、ねえ愛理栖?」

あたしは話題を変えた。


「谷先生にはどんな協力をしてもらうつもりなの?」


「先生には、真智と一緒に『宇宙の真理を探す会』に入ってもらいたいんです」


「それは同好会かなんかか?

うちはどんなことするんや?」


「みんなで協力して、この宇宙の仕組みを解き明かすんです」

愛理栖は言った。


「宇宙の仕組みって……なんかすごい響きやけど、結局どうしたらいいんや?

うちにはまだよくわからんで」


「先生の専攻は科学全般と数学ですよね?」

愛理栖は聞いた。


「そうや。愛理栖ちゃん、

ようそこまでうちのことわかったな。

うちは他の科目はてんでダメやけど、

理系科目だけは得意中の得意なんや」 


「先生って、ある意味みんなに有名ですからね。

授業中もダルそうだし、休みの日はずっと寝てるそうですし」

あたしは言った。


「真智、それ誰から聞いたんや!?」


「先生、怖い!顔近い!

う、国語の羽美うみ先生から聞きました」


羽美姉うみねえからか?

愛理栖ちゃんも羽美姉うみねえから聞いたんか?」


「い、いえ、私は自分で調べました……」


「まあええわ。

それで、その会についてうちに詳しく教えてや」



「宇宙の秘密を解くには計算がいるんです。

これです」

愛理栖は、あたしと谷先生に複雑な数式を書いた紙を見せてくれた。


「愛理栖ちゃん……。正直に教えてな。

あんたはいったい、今いくつなんや?」

谷先生は驚いて目が丸くなった。


「自称永遠の15才という事にしておいてください。

私は5次元人なので、みんなの脳を使って考えることができるんですよ」


「これ、愛理栖一人で解き明かせるんじゃない?

あたしたちって要らないんじゃ…?」


「それがそうもいかなくて。

この能力を無闇に使ったら、

彼らに考えてることがばれて作戦がダメになっちゃう」


「ねえ愛理栖。ちょっと待って!」

あたしは愛理栖にどうしても確認しておきたいことがあった。


「あたしは谷先生みたいに数学自体が好きな訳じゃないし、宇宙の真理っていうのもよくわからないよ。

 あたしがなりたいのは研究者より宇宙冒険家。HGウェルズのSF小説みたいに、まずは月を冒険したいな~♪」


「真智、うちは気持ちわかるで。

でもな、ロケット一つとってもアメリカが小型の液体燃料ロケットの打ち上げに成功しているだけやん。人が乗るのはもちろん、月まで飛ばす事だってまだ無理なんやし。

 真智が宇宙を冒険するためには先ずはいっぱい勉強をせなあかんで」


「えー、そういう事なんだ。

なんか気が遠くなりそうな話ですね。

あたしちょっとがっかりかも…」


「真智?ご両親を助ける事忘れたわけじゃないよね?」

釘を指すように愛理栖は言った。


「あ、うん……」

愛理栖に痛いところを突かれた。

あたしはそう思った。



「それにもし……だよ。

私に協力してくれて事がうまくいったら、

真智のその夢、数時間の間だけだけど叶えてあげるよ。

これが交換条件。どう?」

愛理栖はとんでもない好条件を言ってきた。


「それ本当に?ホントにホント?

もちろんやるっ!」

あたしは愛理栖の粋な提案に、まるで宝石のように目をキラキラと輝かせた。


こうして、宇宙の真理を探す会は本格的に動き出した。



※今回の要約※

真智は、海で遊んでいるときに妹の可織を見失い、妹は溺れてしまう。真智は必死に助けようとするが、両親や友人は可織の存在を否定した。唯一可織を覚えているのは谷先生だけだった。


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