「わぁ、本当に素敵なお話ですね!」
愛理栖は空さんの話を聞きながら、キラキラした目でそう言った。
空さんは僕たちに野生動物の写真を見せてくれた。
「ふぁ〜❤︎この子熊の赤ちゃん、可愛すぎませんか?」
愛理栖はそう言って子熊の写真に頬をスリスリしている。その様子はまるでその子熊と友達になったかのようで実に楽しそうだ。
その後、空さんは夕食の準備の為、調理場に向かった。
「空さん、私も手伝わせてください!」
琥珀色の電球がキッチンを照らす中、愛理栖が料理中の空さんに駆け寄った。
「ちょっと愛理栖ちゃん、塩コショウは大さじ2杯でいいんだよ!」
「ハーブ、これ全部入れるんですよね!?
あれー、何で!?庭の雑草みたいになった!」
「そんなに油注いだら油鍋が爆発しちゃうよ!?」
包丁を持つ空さんの手が思わず止まる。
キッチンからは愛理栖の楽しそうな声と、空さんの悲鳴が響く。
若さゆえの勢いは素晴らしいけれど、今日の夕食は一体どうなることやら…。
5分後、
しゅん……。
「愛理栖、元気出せよ。愛理栖?」
声をかけても返事はない。
まるで遠回しにベンチ入りを言い渡された選手のように、愛理栖は肩を落とし下を向いたままだった。
「空さん、僕も何か手伝います!
愛理栖には違う作業させてもらっていいですか?」
僕も合いの手を打った。
「ありがとう。じゃあ、愛理栖ちゃんは天ぷらの衣付け係!
ひかるくんは、ヤマメの塩もみ係でお願い!」
空さんの指示に、僕たちは「はい!」と元気よく返事をした。
愛理栖は、卵と小麦粉を混ぜたボウルで、
山菜を一つ一つ丁寧にドレスアップした。
僕は、銀色の魚に塩をぱらぱら。
慎重に火加減を調整しながら、焼き魚職人にでもなったつもりでひたすらヤマメを焼いた。
クンクン♪
「空さん、このハーブ、めっちゃいい香りです!」
愛理栖が、鶏肉にハーブをすり込むようにしながら、目を輝かせる。
「でしょ?自慢のハーブだよ。自家製なんだ。」
空さんは、嬉しそうに笑ってオーブンへ行った。
「わぁ、美味しそう♡もう我慢できない!」
愛理栖は、揚げたての天ぷらを皿に盛り付けながら、よだれを飲み込む。
「美味しそうだろ?その山菜はあたしの家庭菜園で栽培したんだよ」
「え、ほんとですか!空さんすごいですね」
「愛理栖ちゃんも今度また来ることがあったら山菜の栽培やってみない?」
「え、いいんですか!?、やってみたいです!是非教えてください!」
空さんの提案に愛理栖は興味津々だった。
「いただきまーす!」
三人揃って、テーブルを囲み、箸をつけた。
鶏肉のジューシーな香り、ヤマメの香ばしい匂い、そして天ぷらの熱々の幸せが、食欲を刺激する。
「何これ!この鶏肉のハーブ焼き、
超絶美味しんですけど〜!」
愛理栖は大福餅みたいな顔になりご満悦だ。
「愛理栖、ちょっと落ち着いて!」
僕は、普段の清楚な印象からはとても予想できない早さで底なしの胃袋を満たしていく彼女が心配だった。
「ねえ、愛理栖?」
「愛理栖ってば」
「幸せの味、ほっぺがとろける〜❤︎」
返事は無い。
ただの
おーい、(現実に)戻ってこーい!
「空さん、これも美味しいです!」
愛理栖が、天ぷらを頬張って目を丸くする。
「ありがとう」
「空さん自給自足しているんですね。
すごいですね!」
「そうさ。それに、今ひかるが食べてるその魚もあたしが川で釣ったんだよ。
ひかる、自分で焼いたヤマメの味はどう?」
「はい、最高です。
こんな美味しいヤマメの塩焼き、人生初です」僕は、箸を置き、空さんを見つめた。
「良かった。気に入ってもらえて」
空さんは、少し照れながら答えた。
窓の外では、木々がゆらゆら。静かな山小屋に、若者たちの笑い声が響き渡り、温かい空気で満たされていた。
「ごちそうさまでした!」
お腹を満たした僕たちが、食後のハーブティーを飲みながら、窓の外の景色を眺めていたときだった。
「そうだ!あんたたちに見せたいものがあるんだよ。あたしについてきな!」
空さんはそう言うと、僕たちを見晴らしのいい高台へと案内してくれた。