回想•『すれ違い』前編
生後まもなく母を亡くし、父との二人暮らしが始まった。
父は精一杯私を育ててくれたけれど、
会社が倒れてからは、あたしたちの生活は一変した。
父は酒に溺れ、あたしに手を上げるようになった。食事をまともに与えられず、外で一日を過ごす日々。
近所の公園で、他の子どもたちが楽しそうに遊ぶのを横目に、あたしはただじっと座っていた。
「ねえママ?
あのベンチで寝ている人ホームレスじゃない?」
「やめなさい」
通りかかった親子のにそう言われた時、
あたしの心はチクチクと痛んだ。
まるで、あたし自身もどこかへ捨てられたような気がした。
それでも、学校には、あたしのことを大切にしてくれる子がいた。
その子といる時間は、唯一の心のオアシスだった。
「お使いの余りで貯めてきた小銭、
これだけで足りるかな?」
ある日、その子の誕生日に、精いっぱいのお祝いをしようとバナナを買った。
けれど、プレゼントを渡した時の彼女の反応は、どこかぎこちなかった。
もしかして、贈り物を選んだあたしの気持ちが、うまく伝わっていないのだろうか。
そんな不安が、あたしの心をよぎった。
そして、運命の瞬間が訪れた。
その日の午後、放課後。いつものように学校を後にしようとした時、あたしは信じられない光景を目にした。
大切な友達が、校舎の裏にある焼却炉に向かって歩いていく。
その小さな背中が、夕焼けに染まって見えた。
※今回の要約※
父親から虐待を受ける幼少期の空は、
唯一の友達に誕生日プレゼントを渡した後、
その友達が焼却炉に向かっていたところを目の当たりにした。