目次
ブックマーク
応援する
4
コメント
シェア
通報
第12話 アートマン 心の壁②

辺り一面、深い霧に包まれた山道を、

僕たちは懐中電灯の明かりを頼りに進んでいた。


「寒いですね……」


震える愛理栖の肩を、お姉さんは軽く叩いた。


「標高が高いからな」

お姉さんの落ち着いた声に、

僕は少し安心した。


「あとどれくらいで着くんですか?」


「朝までには着くさ」

あっさり答えられた。


長い道のりだな、と思いながら、

僕は愛理栖の方を見た。

愛理栖は心配そうに僕を見ていた。


「ひかるさん、大丈夫ですか?」

愛理栖は優しい声をかけてくれた。




ようやく辿り着いた丸太小屋の前で、

僕は足を滑らせて転んでしまった。


「ひかるさん!」

二人が駆け寄ってきた。


「大丈夫か?」

お姉さんは慌てて僕を助け起こすと、

心配そうにそう尋ねた。


「ちょっと面白い写真が撮れたんだ!」

空さんは僕にスマホを見せながら言った。


「え、なんで撮ったんですか!?」


「だって、転んだ姿めっちゃ面白いじゃん!」


「ちょっと待って!勝手に撮るなんて!」

僕は抗議した。


「ごめんごめん、冗談だよ。

でも、後でみんなで一緒に見ようね」

お姉さんは笑った。


その様子をみた愛理栖は苦笑いしていた。


僕はお姉さんのあどけない笑顔に、

懐かしい子供時代を思い出して少し嬉しく感じた。


「入りな」


「ありがとうございます。おじゃまします」

薄暗い玄関を抜けて、部屋に入ると、

琥珀色の光が目に飛び込んできた。

薪ストーブの温かい光が、木製の家具に反射して、部屋全体をほんのり照らしている。

素朴だけどどこか温かみのある空間に、

僕はホッと息をついた。


「これなんてすっごくかわいいですね♡

この木製の家具はみんなお姉さんが作られたんですか?」

愛理栖は目をキラキラさせて質問した。


「ありがとう。あたしじゃないんだけどね。

知人が作ってくれたんだよ。

 ところで、あたしの自己紹介してなかったね。あたしは『空』。

この家に一人で住んでいるよ。

あんたたちは?」


「愛理栖です。よろしくお願いします」


「愛理栖ちゃんだね、よろしく。

で、あんたは?

見るからに彼女には縁が無さそうだけど」

空さんはぼくを一瞥して言った。


「ハイハイ、僕はどうせ独り身ですよ~」

僕がそう答えると、二人はぷぷぷと笑った。



「ところで、あんたたちはこんな山道を通ってどこに行くつもりだい?」


愛理栖と一緒に、彼女の母親に会いに行く旅のことを話すと、空さんは興味深そうに聞いてくれた。


「へぇ、母親に会って自分の本当の名前を見つけるねえ。

見つかるとどうなるんだい?」


「私は幼い頃から、いつか5次元の存在になると信じてきました。

 よくかれるんですが、

なぜそう思うのかは私も分からないんです。

 そして、名前がわかった後に何が起こるのかも分かりません。

 だからこそ、自分の過去や未来を知るために、

本当の名前がどうしても知りたいんです」

愛理栖は、真剣な表情でそう話した。


「……なるほど、愛理栖ちゃんの真剣な目、

嘘は言ってないね。あたしにはわかるよ」

空さんは、僕と愛理栖の目をじろじろと観察した後、まるで我が子に接する母親のような優しい笑顔を見せてくれた。


「空さん、実は僕も最近夢で……」

最後まで話し終える前に、愛理栖が僕の上着の裾を軽く引っ張ったので、僕は後ろを振り返った。

「どうしたの、愛理栖?」

しかし、愛理栖は下を向き、浮かない表情でただ静かに顔を横に振った。


愛理栖が何かを言いたいのに言えない様子を見て、僕はそのとき胸が締め付けられるような思いだった。


「次はあたしの番。実はね、あたしも夢があるんだ」

空さんはそんな僕達の微妙な空気を感じ取ったのか、自分の夢について話し始めた。


「あたしは自然の写真を撮って生計を立てているんだけどね」


「どうして写真を撮ろうと思うようになったんですか?」

愛理栖は興味津々で質問した。


「ちょっと長くなるけどいいかい?」

空さんは、穏やかな表情で語り始めた。


※今回の要約※

ひかると愛理栖は、助けてくれた大人の女性 空の家に行き、彼女の夢を聞いた。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?